back number、Ado、優里、THE BEAT GARDEN……時代の空気感と呼応しながらも普遍性を持つ“令和の応援歌”
アーティストが新しい音楽を作る理由は様々であり、自己表現のために生まれた楽曲があれば、世の中に対してメッセージを打ち出すために制作された楽曲もある。そして、いつの時代においても作り続けられているのが、同じ時代を共に生きるリスナーの背中を押すために作られた応援ソングである。
特にこの数年間は、誰もがコロナ禍という大きな壁に向き合っていたこともあり、そうした応援ソングが世の中から強く求められていたという傾向もある。または、そうした時代性に依拠することのない普遍的な応援ソングも新たに次々と生まれていて、それらは令和時代を迎えた現在も音楽カテゴリーの一つを形成し続けている。今回は、back number「水平線」、Ado「私は最強」、優里「ビリミリオン」、THE BEAT GARDEN「Start Over」という4つの“令和の応援歌”について、その魅力を改めて振り返っていく。
back number「水平線」
ラブソングの名手という一面を持つback numberであるが、清水依与吏(Vo/Gt)が書くテーマは決して恋愛だけではない。今回ピックアップしたのは、バンドにとって新たな代表曲の一つとなった「水平線」だ。この曲が制作されたきっかけは、2020年、コロナの影響でインターハイ(全国高等学校総合体育大会)の開催が中止となり、その運営を担当する高校生たちから手紙が届いたことだったという。「全国の高校生を励ましたい」という想いから生まれた楽曲ではあるが、この曲は本来の文脈を超えて、コロナ禍という不条理な現実を前に懸命に生きようとする数多くの人々から強い支持を受けた。この曲の終盤で歌われる〈誰の心に残る事も/目に焼き付く事もない今日も/雑音と足音の奥で/私はここだと叫んでいる〉という切実な一節は、コロナ禍を生きる全ての人々に送られた渾身のメッセージであり、同時にこれから先いくつもの時代を超えて響き得る強い普遍性も感じられる。この曲は昨年、ストリーミング累計3億回再生を突破したが、今後も長きにわたって多くのリスナーから求められ続ける楽曲になりそうだ。
Ado「私は最強」
続いてピックアップするのは、昨年、特大ヒットを記録した映画『ONE PIECE FILM RED』の劇中歌として制作されたAdoの「私は最強」である。「新時代」や「逆光」をはじめ、映画のために制作された楽曲を収録したアルバム『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』は、『ONE PIECE』ファンからだけでなく、幅広いリスナーから大きな注目と支持を集めた。その中でも特に根強い人気を誇る楽曲の一つが、Mrs. GREEN APPLEが提供した同曲だ(この曲は「新時代」に次いで、自身2番目の速さでストリーミング1億回再生を突破した)。一言で応援ソングと言っても様々な形があるが、この曲は主に一人称の形式を採っていて、もはや自己肯定の域を遥かに超えた、圧倒的な無敵感をリスナーに共有してくれる。筆者は、年末の『COUNTDOWN JAPAN 22/23』におけるAdoのステージを観たが、数ある楽曲の中でも、同曲が生み出した会場の一体感と祝祭感は格別であったように感じた。なお、この曲については、Mrs. GREEN APPLEが原曲キーのままでセルフカバーしたバージョンも存在する。