Dannie May、結成4年をかけて強固になった“バンド”としての結束力 1stフルアルバムから溢れ出す新たなフェーズへと向かう意志
パッケージ作品としては2021年のEP『ホンネ』以来約2年ぶり、そして結成4年、満を持しての1stフルアルバム『Ishi』を完成させたDannie May。昨年の「ぐーぐーぐー」以降コンスタントにリリースしてきた配信シングル曲に加え、リード曲「笑わせらぁ」をはじめ、3人それぞれの視点で「イシ(意志・意思)」というコンセプトに向き合って生まれた新曲たちをコンパイルした全10曲からなる本作は、彼らにとってひとつの集大成であると同時に、ここから始まる未来を指し示す出発点だ。
それぞれのバックグラウンドと経歴を持って集まった3人のボーカリストが始めたグループは、制作を重ね、ライブを繰り返すごとに運命をともにする“バンド”になっていった。これまでのDannie Mayらしいアッパーチューンも、これまでになかったような新基軸も、まさにひとつの「意志」を貫くようにつながり、ひとつの物語を描き出すこのアルバムは、その軌跡の証明だ。3人に本作ができるまでを語ってもらった。(小川智宏)
「4周年ワンマンの時に“もうDannie MayはDannie Mayだな”と思った」(Yuno)
ーー配信シングル「ぐーぐーぐー」以降の流れという意味でも、長いDannie Mayの物語としてもひとつの節目となるようなアルバムができたのではないかと思います。作り終えての手応えはどうですか?
田中タリラ(以下、田中):今まで曲はいっぱい出してきましたけど、これが僕らにとっては初めてのアルバムで。やっぱりアルバムを出して初めてアーティストとして一人前っていう意識があるので、4年くらいやってきてやっと“新人”になれたのかなと思います。各メンバーが書いた様々な曲が入っていますし、みんなの日常に入り込めるいいアルバムだと思います。
ーーこうやって10曲まとまって出てくると、楽曲単位で聴いていた時とは違う発見がたくさんありますよね。Dannie Mayってこういうバンドだったんだっていう。
マサ:このアルバムを作りながら成長させてもらったというか。Dannie Mayのマサとして書く曲と、一個人として書く曲が、どっちがどっちだか分からなくなった時もありました。でも、それを克服してからは、リード曲の「笑わせらぁ」もそうですけど、表面上好きになってもらうのではなく、ちゃんと好きになってもらうことに対して自分の中でひとつ正解だと思える曲を書けた。すごく悩みながら作ったけど、最終的にいい経験になったと感じています。
ーー確かに、今までのDannie Mayらしさから言えば違う側面がより出ている感じはしますね。
マサ:“人”を好きになってもらうことって、とても大事じゃないですか。こういう曲が自分たちらしいではなく、伝えたいことを表現した結果として生まれた楽曲がいちばん人柄も伝わるし、Dannie Mayそのものを好きになってもらえるだろうと思いながら制作しました。
Yuno:アルバムのコンセプトの話にもつながりますけど、『Ishi』というアルバムは曲に登場する人物たちの様々な「イシ」、意思や意志を表現していこうと決めて作ったものなんです。アルバムを作ることが決まった去年の8月の段階から、そのコンセプトで曲を作ってきて、完成してみるとその中でも“愛”がテーマだったなと思ったんです。単純に人に対する愛だけではなくて、「KAMIKAZE」や「OFFSIDE」のような自己愛というか、自分の趣味趣向を愛する話であったり、「めいびー」は変わらぬ日常に対する愛情を表現できたと思います。結果、この世の中にある愛という概念をほぼ網羅したんじゃないかなと。意識はしていなかったけど、終わった時にそう感じられたのは、アルバムとしての完成度が高い証拠なのかなと思っています。
マサ:やっぱり愛情深い3人なのかもしれないですね。
田中:いや、そのとおり。
ーー確かに、愛はいろんな対象に向けられるものです。恋愛的な部分もあると思いますが、メンバーやチーム、音楽、人生、そういったものを大事にして真剣に向き合うというテーマが、どの曲にも形を変えながら込められているように思います。そもそも“イシ”というコンセプトを掲げたのはどうしてですか?
Yuno:これは「ぐーぐーぐー」を制作していた時期からアルバムの話も出ていて、テーマをどうしようかと考えていたんです。前作EP『五行』は世の中を構成する5つの要素に目を向けて作り上げたのですが、今度はそこに対して生まれるDannie Mayという存在の内側にフォーカスしてもいいのではないかと。どういう意志を持ってDannie Mayが生まれてくるのかを見たいなと思ったんです。そこから『Ishi』というコンセプトがパッと決まりました。
ーー意思・意志は、かなり大きな、いろいろな捉え方ができるテーマです。そこに向かって曲を作っていくのは逆に難しくなかったですか?
田中:でも、意識の擦り合わせみたいなものは制作やライブ、普段のLINE上でも時折していたので。そういうところがよかったのかもしれない。みんなが別々の生活を送りながらも、「でもこれってこうだよね」みたいな話を常にしていたからこそ、各々が作った楽曲にも結果的に統一感が出たのかなと。リハの時も演奏しないでずっと話しているみたいなことがあって、そういう時間や普段の会話が大事だったように思いますね。
ーーDannie Mayは最初からそんな感じだったんですか?
Yuno:もともと仲が悪かった訳ではないけど、初ワンマンをやったのが1年半前ぐらいで、それ以降ですかね、仲が深まったのは。
マサ:悪くはないけど、今にしてみればよくもないっていう。タイムカードを切って仕事しよう、みたいな感じだったかもしれない。この時代だからこそ、そういうバンドじゃダメだなって思います。そうやってビジネスライクにやっていると、どこかで何かが綻んでしまうというか。完成されたコンテンツがたくさん転がっている時代だからこそ、ちゃんと人の匂いがするものを届けないと厳しいのではないかと思いますね。
ーーでもそれは、意図的に話すようにしたわけじゃないですよね。
マサ:はい、自然とそうなりました。そもそも最初の頃はバンドとして適切なことをしていれば上に登って行けると思っていたので、人の匂いがする/しないが大事なことだとは全然気付いていませんでした。
ーー今の話はこのアルバムを語るうえで重要なことだと思うんです。Dannie Mayはバンドという体裁でありながらも、1年前は“バンド”と言い切ってもいいのか、という感覚が見る側にも、メンバー自身にもあったように思うんです。でも、それが今ではちゃんと“バンド”になったというか。
Yuno:そうですね。4周年のワンマンを開催した時に(3月18日に開催された『Dannie May 4th Anniversary “帳”』)、この3人の結束力もどんどん強くなっていると思って。ファンの方たちを巻き込んでバンドが大きくなっている感覚が、確信に変わった瞬間だったんです。そもそもDannie Mayって何なんだろうなと思っていたんですけど、Dannie Mayというーーあえて概念という言い方をしますけど、その概念を完全に認識して肯定している人たちがこんなに存在していて、その前に立って自分たちもそれを体現できている状態が成り立った瞬間を見た気がして。その時に「もうDannie MayはDannie Mayだな」と思ったんですよね。本当にバンドらしくもなったし、3人が友達らしくもなったし、一緒に仕事をしていくうえでのパートナーらしくもなった。本当にいろいろな意味で結束したように思います。
ーーその感じが今回のアルバムには出ていますよね。「笑わせらぁ」はまさにそういう歌です。〈いつか錆びた世界を/蹴っ飛ばしてバックれてやんだ〉って、ロックバンドが歌うようなメッセージだと思うんですよね。
マサ:リード曲を書こうとした時に、今いちばん強い意志って何だろうと思ったら、これが最初に出てきたというか、それ以外は考えられなかった。「こんなにシンプル?」っていう感じの曲なんですけど、本当にこれがすべてかなと今でも思いますね。自分の中にあるものですし、たぶん3人とも感じていることだと思うので。だからこの曲は「本当に売りたいな、認められたいな」と思って取り組んだんですよ。
ーー今までここまであからさまにというか、簡単な言葉で吐き出すような歌詞はなかったのでは?
マサ:ないですね。なんか世界があって、そこに対しての説明文的な曲が多かったイメージなんで。でも……やっぱり売れたいよね?
Yuno:売れたいよ。
マサ:仲良くなるにつれ、3人で幸せになりたいなって思う気持ちが強くなってきたんで、書いている時はそれもすごくあったかな。