Dinner Party初来日、George Clinton×堂本剛コラボ……極上の音楽が集った『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023』
2日目、14日のオープニングアクトに登場したのは、石川紅奈(Vo/Ba)と壷阪健登(Pf)のユニット sorayaだ。曇り空の「GREEN STAGE」には爽やか風が吹いていたが、一曲目の「ひとり」は、木々が風に揺れる音とピアノ音色、そして爽やかな声がこれ以上ないくらいマッチングし、まるで“「GREEN STAGE」のテーマソング”のようだった。ピアノとコントラバスと美しい歌が作りだすオーガニックな音像に、客席はひきこまれていた。
「THEATER STAGE」のトップバッター注目のバンド Penthouse。ボーカルの大島真帆は左足の怪我をおし、ギブスを装着し登場。客席の心配をよそに、一曲目の「In The Penthouse」から浪岡真太郎とのツインボーカルで、圧巻の歌と美しいハーモニーを聴かせてくれた。「26時10分」での“かてぃん”こと角野隼斗の超絶テクのピアノには、悶絶した人が多いのではないだろうか。「蜘蛛の糸」では馬場智章が登場。バンドの音、角野のピアノ、ボーカルが全てジャストで重なり極上のアンサンブルができあがる。名セッションだった。このバンドの楽曲は、大原拓真(Ba)と平井辰典(Dr)が叩き出す強固なリズムが、上質なポップスに深みを加え、芳醇なものにしているが、角野のピアノと二人のボーカルだけの表現というのも、Penthouseの音楽の芯を、より生々しく感じることができるスタイルで、ホセ・ジェイムズ「Trouble」のカバーと「I Got Rythme」で客席を魅了した。ラストに痛快な失恋ソング「閃光花」を披露し、メンバーひとり一人がステージを去り、その度に音がひとつずつ消えていく、印象的なエンディングで締めた。
「GREEN STAGE」に馬場智章がバンドを率いて登場。馬場がこのステージの前に出演した「THEATRE STAGE」でのPenthouseとのライブを観終えた多くのリスナーが、そのまま移動してくる。佐瀬悠輔(Tp) 、ermhoi (Vo)、Marty Holoubek (Ba)、David Bryant (Key)、松下マサナオ(Dr)という強力メンバーと緑に囲まれたステージで「過去から未来へとつながる」(馬場)楽曲を次々と披露。タイトなリズムと躍動するピアノが印象的な「Voyage」では、コーラスと共に歌うようなサックスで魅了し、「Circus」でのトランペットとの掛け合いに客席が盛り上がる。ermhoiが歌った「Pine Tree」はその浮遊感を感じる声をバンドの音がさらに際立たせる。馬場のサックスがまさに森に響き渡る「Still Remeber」、そして「The Roots of Blood」で極上の“空間”を作り上げていた。
UKジャズシーンの最重要アーティストの一組、プロデューサー/ビートメイカーのNK-OKことナマリ・クワテンと、マルチ奏者のMr DMことデヴィッド・ムラクポルによるユニット・Blue Lab Beats(BLB)が『ラブシュプ』に初登場。ジャズ、ソウル、エレクトロなどあらゆるジャンルを取り込み、自分達の音楽的ボキャブラリーを広げ、独自のビートとして昇華させてきた二人が、この日はフィーチャリングアーティストを迎え客席を沸かせた。ムーディーなビートと西口明宏のテナーサックスが絡む「Nights In Havana」、たゆたうようなビートと鈴木真海子のラップが乗る「Labels」。トランペット黒田卓也と西口が再び登場した「Movement」、「On & On」はARIWAの深い、ソウルフルな歌が乗る。そしてHAYATO名義で角野隼斗が登場すると、歓声と大きな拍手が沸き起こる。この日限りのセッションに選んだのは「Dat It」。太いリズムを角野のキーボードが彩る。黒田、西口を迎えたセッションは続き、そのどこまでも心地いいグルーヴに客席は全員笑顔だ。体を揺らし、BLBとゲストが作るビートをそれぞれの受け止め方で自由に楽しんでいた。
様々なフェスに引っ張りだこのBREIMENは、一曲目の「ドキュメンタリ」から、まるで音が「GREEN STAGE」を“突き抜けていく”感覚を感じさせてくれる圧巻の演奏で、初見の観客は“これは只者ではない”、と感じたはずだ。高木祥太(Vo&Ba)を中心に、様々なアーティストをサポートする、現在のシーンの最前線で活躍するメンバーが集まっているだけに、その音の豊潤さたるや……。フルートやサックスも入り、アレンジの発想力、音楽性の振り幅の広さに目も耳も離せない。終始アグレッシブな音像を作り出し「ODORANAI」や「D・T・F」ではうねるグルーヴで、オーディエンスを最高に気持ちいい、深いところまで連れて行ってくれた。
レジデンシャルバンド SOIL&"PIMP"SESSIONSは、2日目はSKY-HI & BMSG POSSE with SOIL&"PIMP"SESSIONSとして、熱狂を作り出していた。まずはSOILが「Meiji-Jingumae ‘Harajuku’」を披露。それぞれのソロプレイに客席は引きつけられる。そしてSOILの“社長”が“社長(SKY-HI)”を呼び込み、SKY-HI率いるBMSG POSSEが登場すると大歓声が沸き起こる。ジャズアレンジされた「何様」からセッションがスタート。SKY-HIの切れ味鋭いラップが会場中に襲い掛かる。そこにREIKOのソウルフルで美しいボーカルが加わる。Debra Lawsの「Very Special」を、MANATOとREIKOでカバーし、さらにSOILの楽曲「comrade」をMANATOがカバーした。SOILの演奏と歌が交差し、心地いいグルーヴを生み出す。
SKY-HIは「今日は誰が一番楽しむかが勝負」と自身もステージ上でワインを楽しみ、メンバーも自由にステップを踏み楽しんでいる。Aile The Shotaは「DEEP」とSOILの楽曲「ユメマカセ」を披露するなど、昨年「GREEN STAGE」に出演してから一年、進化したその歌を聴かせてくれた。また、ShowMinorSavage - Aile The Shota, MANATO & SOTA from BE:FIRSTとしてはSOILの生演奏で「Thinkin' bout you」を披露するなどこの日だけのセッションは続き、ラストの「OPTIMISTIC」では打合せなしのフリースタイルセッションで、とことん自由にそしてクールにステージを楽しみ、楽しませてくれた。
BREIMENに続いて「GREEN STAGE」に登場した要注目バンドKroiも、ロック、ファンク、ジャズ、ソウル、ヒップホップなど様々ジャンルと年代の音楽を、鋭い感性でディグアップし、誠実に向き合い、オリジナリティを追求している。1曲目の「Drippin’ Desert」から鋭いラップ、こぶしが効いたシャウトでオーディエンスを引き付ける。「Jude」は複雑かつ快楽的な構成と、内田怜央(Vo)の変幻自在のボーカルが交差する、まさにKroiの真骨頂的なナンバーだ。70年代のニューソウルの薫りが漂う「風来」は、太いリズムと美しいメロディ、コーラスが絡む、一聴くと忘れられないメロウなミディアムナンバー。雨の中、客席全員が体を揺らし、感じていた。
2日目のヘッドライナーは、Dinner Partyという、待ちに待ったステージが実現。客席はすでに総立ちで、大きな歓声と拍手がスタートの合図だ。Jahi LakeのDJプレイの後、まずはゲストボーカルのアリン・レイを迎えた「Sleepless Nights」からスタート。ジャスティン・タイソン (Dr) 、バーニス・トラヴィス(Ba)という強力リズム隊が生むドープなリズムに、早く客席は酔っている。「Breathe」ではカマシとテラスのWサックスで、気持ちいいグルーヴが生まれる。「Need U Still」はグラスパーがエネルギッシュなキーボードソロを披露し、徐々に熱を帯び、強固で熱いリズムと絡み、熱狂が生まれる。この日はそれぞれのソロもたっぷりと披露し、レジェンドそれぞれが持つエネルギーが音になって放たれ、客席を熱くさせる。永遠に聴いていたい、そう思わせる演奏の数々だった。ラストは再びアリン・レイが参加した「Freeze Tag」。カマシとテラスが曲の印象的なラインを一緒に演奏し、カマシの色気とパワーを感じさせてくれるソロに、客席の熱量が高くなる。まさに夢のような約80分のステージだった。
出演者もリスナーも、自由なスタンスとスタイルで音楽を楽しむ。それがこのフェスの醍醐味だ。開催前にSOILの社長が語っていた「世界の最前線で今のジャズを牽引するバンドと、JAZZの歴史を作ってきたレジェンドと、それらをミックスしてグルーヴを繋ぐDJという、JAZZの進化に欠かせない3つの要素が全て楽しめるのは『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL』しかありません」という言葉が実感できた2日間だった。