ツミキ×藍にいな×鈴木愛理のコラボ曲で注目集める『音と画』 柴那典が「テレビ番組×楽曲制作」の画期性を考える
ツミキ feat.鈴木愛理「shampoo」が反響を呼んでいる。この曲は、日本テレビ系で放送された音楽ドキュメントバラエティー『音と画』をきっかけに作られた一曲。ボカロPと絵師と歌手を番組がマッチングし、用意したテーマをもとに楽曲を制作するという企画だ。ボカロP・ツミキが楽曲制作を、鈴木愛理が歌唱を、イラストレーター・藍にいながメインビジュアルを担当。楽曲は4月12日に配信リリースされ、リリックビデオもYouTubeに公開中。再生回数は公開から3週間で22万回を超えている。
筆者も『音と画』を観たのだが、まず強く感じたのが、ボカロカルチャーで草の根的に行われてきたこういうコラボレーションを、地上波のテレビ番組が主導して行う時代になったんだ、ということ。
もちろんその背景にYOASOBIのブレイクなどを経てネットカルチャーと大衆文化が接続した2020年代の時代性があるのは間違いない。「架空の六畳半アパート」というコンセプトでクリエイター同士のコラボからヒット曲を世に送り出してきた音楽プロジェクトMAISONdesの影響もあるだろう。藍にいなはYOASOBI「夜に駆ける」のMVを手掛けたイラストレーターだし、ツミキはMAISONdes「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ feat. 花譜, ツミキ」の作り手である。元℃-uteの鈴木愛理も、『THE FIRST TAKE』で鈴木雅之と共に披露した「DADDY ! DADDY ! DO ! feat. 鈴木愛理」でその歌唱力が高く評価されファンを広げた歌い手だ。
そして、印象に残ったのは、番組制作側やスタジオで進行する側がクリエイターをリスペクトした作りになっている、ということ。番組のMCは、自身もボカロPとしてレーベルsoshinaを立ち上げアーティスト活動を行う霜降り明星の粗品がつとめる。ゲストはSixTONESの京本大我と朝日奈央。SixTONESにも、くじらが楽曲提供しアニメーションMVが公開された「フィギュア」という曲がある。MCやゲストが「ボカロPと絵師と歌手」の組み合わせでヒット曲が生まれる今の音楽シーンの趨勢を肌身で理解している面々で、そこにリスペクトがあるということが伝わる。
「Shampoo」は、番組が用意した「もう二度と会えない」というテーマに制作された楽曲。企画を聞いたツミキは「おばけ」をモチーフに提案し、自宅スタジオでDAWソフトのCubaseを用いて作曲していく。トラックを重ねボーカロイドの歌いまわしを細かく設定していくツミキの制作風景だけでなく、藍にいなから届いたラフスケッチから発想が広がっていくコラボレーションの様子に密着したドキュメントタッチの映像も、とても興味深い。
「『もう二度と会えない』と言われて、最初は死別や恋愛的な別れをパッと想起しました。でも私たちが会えなくなるものはきっとそれだけではなくて、子どもの頃に信じていた空想上の生き物や、過去の自分、昔はなぜか怖かったものなど、変わっていく価値観の中で失うものもあります。今回はそっち側の、会えなくなったもの(視えなくなったもの)に思いを馳せながらイラストを書きました」
と、藍にいなはコメントしている。サビでは「シャンプーの泡が瞳に混ざって 眼が潤んでしまう夜を隠すように 曇る鏡に映るのはあたしだけ いつか視えるのかな」と歌われる。「もう二度と会えない」というテーマから「お風呂で目をつぶってシャンプーしているときに感じる“気配”」に辿り着くクリエイティブの飛躍が面白い。