ヨルシカの音楽画集『幻燈』を体験してみた “CDが付属しない”ユニークな作品が投げかけるもの

ヨルシカの音楽画集『幻燈』を体験してみた

 ヨルシカが発売した音楽画集『幻燈』が面白い。本作はCDの付属しない音楽画集。全収録曲に紐づいた絵が掲載されており、スマートフォンやタブレットのカメラでその絵を読み込むことで、専用の音楽再生ページへと接続する仕様を組み込んでいる。百聞は一見にしかずということで、実際に商品を手に取って体験してみた。

音楽が“飛び込んでくる”という感覚

 画集を持ってみると、まずその大きさに驚く(縦27.5cm×横30cmほど)。表紙はハードカバー仕様なのでずっしりとしており、高級感のある装丁だ。見た目は音楽作品というより、本当に“画集”といった印象。加藤隆が描いた表紙は色鮮やかでぬくもりがあり、その緻密なタッチの細部まで確認できる。

ヨルシカ『幻燈』

 次にスマホを取り出し、画集にあるQRコードを読み込んで専用ページへジャンプ。そこには「第1章 夏の肖像」「第2章 踊る動物」「幻燈」とあり、まずは「第1章 夏の肖像」をタップしてみると、まるで美術館のようなページへ誘導された。そこに“展示”された絵には、それぞれタイトルが添えられており、タップするとその曲を聴けるページが開くようになっている。

 画集の「夏の肖像」のページを広げて、スマホ上でも「夏の肖像」を開いてみる。同時にカメラが起動。そのカメラで描かれた絵を映すと、スマホ画面上に絵が浮き上がってきて、おおっと驚く。これはいわゆるAR(拡張現実)という技術だろう。スマホが現実世界の絵を認識し、そこに新たな情報を加えて映し出している。そしてスマホ画面に浮き出たその絵をタップすると、曲を再生できるプレイヤーが立ち上がるという流れだ。

 見事に1曲目の「夏の肖像」が流れ始めた。感覚的には手元にある絵がトリガーとなって音楽が鳴り出したような気分で、絵と音楽が一体となっている。再生ページにはシークバーがあるため、曲の好きな位置に移動することも可能。もちろん繰り返し聴くこともできる。このあたりの仕様は一般的な音楽プレイヤーと変わらない。プレイヤーに表示されるアートワークはアニメーションのため、ちょっとしたMVのようだが、あくまでメインは曲と絵、そして絵に添えられた歌詞である。

ヨルシカ『幻燈』

 それにしても、歌詞を読みながら音楽を聴くという行為をしたのは、いったい何年ぶりのことだろうか。歌詞やクレジットを確認するためにライナーを取り出すことは仕事柄よくあるが、曲を聴きながら歌詞カードを読みふけったのはもう遠い昔のこと。久しぶりにこの密度の濃い時間を味わった気がする。CD世代の筆者にとって、音楽と紙に印字された歌詞を同時に鑑賞するという行為の豊かさは、やはり何にも代え難いものがある。逆に、現在のデジタルネイティブな人たちにとっては、まったく新鮮な体験になるのではないだろうか。

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