花譜ら擁するKAMITSUBAKI STUDIOが創出する新たな音楽表現 初主催フェスで提示したクリエイティブレーベルとしての可能性
続けて登場したのは、ヰ世界情緒。ダークなムードに満ちた「パンドラコール」が、ここまでの展開を通して熱し切ったフロアの空気を一気に変えていく。品性と艶やかさ、そしてクールさを帯びたパフォーマンスは圧巻だが、その一方で曲間で水を飲んだ後に「いつもより、お水がおいしいな」と呟く姿は、等身大でキュートだ。彼女自身にとって思い入れの深い楽曲として紹介された「ヰ世界の宝石譚」では、音楽的同位体・星界とのデュエットが実現。また、新曲「そして白に還る」が初披露されるという嬉しいサプライズも。「みんなの顔が見れて、とっても幸せです」と想いを丁寧に伝えた彼女は、壮大な景色を描き出していくバラード「かたちなきもの」を通して自らのパートを感動的に締めくくってみせた。
これまで4人が継いできたバトンは、いよいよ花譜へと託された。ステージに登場した彼女は、「KAMITSUBAKI FES、盛り上がってますかー?」「まだまだ盛り上がれますか?」とフロアを熱くアジテートしていく。その声からは、彼女自身の興奮と熱狂が確かに感じ取れた。「ニヒル」を歌い終えた彼女は、大好きな仲間と一緒にステージに立てることの喜びを語り、そして「最高の思い出を一緒に作りましょう」と満場のフロアに呼びかける。音楽的同位体・可不と共に披露した「青春の温度」をはじめ、最新作『狂想』の楽曲を軸とした今回のステージ。そのラストを飾ったのは、アルバムのフィナーレを飾る「邂逅」であった。時おり声を震わせ、昂らせながら、胸の内の感情の全てを余すことなく伝えていくエモーショナルなパフォーマンスは圧巻だった。何よりそのパフォーマンスは、これまで花譜の楽曲の多くを手掛けてきたカンザキイオリ(3月、KAMITSUBAKI STUDIOからの卒業を発表)に向けた新しい旅立ちを祝福するメッセージのように響いているように思えてならなかった。〈孤独じゃないよ 目を閉じれば 僕がいるよ〉という言葉の深い余韻が、いつまでも胸の中に残り続けている。
フェスは、まだまだ終わらない。「KAMITSUBAKI DISCOTHEQUE」による狂騒のディスコパートを経て、この日に始動した音楽的同位体5体による合成音声ソフトユニット V.I.P(Virtual Isotope Phenomenon)のパートへ。現在アメリカに語学留学中のため今回のフェスには不参加となった理芽の音楽的同位体・裏命を含む5人が横一列に並び、ツミキの楽曲「フォニイ feat. 可不」、ど〜ぱみんが制作を手掛けたV.I.Pのオリジナル曲「Penumbra」を初披露するという嬉しいサプライズ展開が続く。
そして、アメリカにいる理芽から届いたビデオレターの後に、彼女のピンチヒッターとして音楽的同位体 裏命を迎えた5人でV.W.P(Virtual Witch Phenomenon)のパートへ突入。次々とセンターを交代しながら、五者五様の歌声を活かしたマイクリレー&コーラスワークで観客を魅了し、そして最後は再びV.I.Pをステージに迎え入れた9人体制で「電脳」「定命」を披露。一つに重なる9つの歌声、また、ラストでフロア全体から巻き起こった怒涛のV.W.Pコールは凄まじかった。
エンドロールの後、KAMITSUBAKI STUDIOから、各バーチャルシンガーの今後のリリース情報などが立て続けにアナウンスされた。それはまるで、この日の公演は、これまでの歩みの一つの総括であると同時に、新しい物語の幕開けの一夜であることを伝えているように思えた。新しい音楽体験を、そして、音楽から派生していく新たな物語を送り届けるためのKAMITSUBAKI STUDIOの挑戦は、このフェスを経てさらに加速し続けていくのだろう。
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