Tielle、混沌とした世界で歌う未来への希望 最新ミニアルバム『Light in The Dark』に表れた音楽家としての思想

Tielle、音楽家としての思想

 2015年に澤野弘之のボーカルオーディションで見出され、アニメ『機動戦士ガンダム ユニコーンRE:0096』のOPテーマ「Into the Sky」のゲストボーカリストに抜擢。2019年からソロシンガーとしての活動を始めたTielle(チエル)が前作『CONTRAST』から1年9カ月ぶりとなる2枚目のミニアルバム『Light in The Dark』をリリースする。自身3度目となるワンマンライブの開催も決定している彼女に、暗闇から光を祈り、未来への希望と限りのない愛を込めた新作の制作過程をたっぷりと語ってもらった。(永堀アツオ)

矛盾の中で生きることが気持ち悪かった

Tielle

ーーまず、2枚目のミニアルバム『Light in The Dark』が完成した心境から聞かせてください。

Tielle:実はもう2~3年前ぐらいから構想をしていて、完成度の高いデモも出来上がっていたんです。いよいよメジャーに挑戦できるんじゃないかなっていう作品ができたタイミングでワーナーミュージックさんと出会うことができて。そこからスタッフの方と話し合う中で、いい曲が多いから良きタイミングまで温めておこうとなり、タイアップも全て後からついたんです。だから、私はこれが出せるということで、ちょっと燃え尽きた感覚があります(笑)。それぐらい、私の全てを詰め込んだ作品です。

ーーでは、前作『CONTRAST』をリリースした頃にはもうできたということですか。

Tielle:できていました。『Light in The Dark』のリリースに向けて動いていたとき、ドラマ『スイートリベンジ』の主題歌「Sweet Love」(『CONTRAST』収録曲)のお話をいただいて。ドラマ側の希望を受けて作ったときに、すごくポップな楽曲ができて。そこで制作陣と話して、『Light in The Dark』に入れるには曲の毛色が違うんじゃないか、世界観が変わってしまうのではないかとなり、急遽「Sweet Love」を中心とした『CONTRAST』を作ったんです。最後に「GHOST」を入れたんですけど、『CONTRAST』の中で「GHOST」だけちょっと毛色が違うのは、この『Light in The Dark』に繋げるための曲だったからなんです。

ーーなるほど。「GHOST」は ピアノとボーカルから始まる、主に英語歌詞のバラードでした。

Tielle:基本的に私が伝えたいメッセージ性みたいなところはずっと変わっていなくて。死生観というか、貧困や争い、今、現実で起きてることを音を通して嘆きたいし、叫びたいんです。「GHOST」は、まるで自分が幽霊になってしまったと感じるくらい、生きている感覚がない状態を表していて。でも、それは死と生の間にいるからこそ感じることができるんだよと。死のことをダークに歌うのではなく、高らかと歌いたいんです。嘆いてるけど、天使のハーモニーが聞こえてくるんじゃないかなっていう。白黒の世界に少し色が差すような感じで歌いたいなと思ってできた曲で、私の思想が色濃く出ていると思います。

ーー2021年7月に渋谷WWWで行った2度目のワンマンライブ『&BEYOND』では、「In the dark」へと繋がる今回のアルバムの1曲目、「Noir.」をピアノで弾いて、その後に「GHOST」を歌っていましたよね。

Tielle – 2nd Live「&BEYOND」 | YouTube Music Weekend vol.5

Tielle:そうなんですよ。『Light in The Dark』に繋がっていることが、後々分かってもらえたらいいなと思って。私が発信するメッセージは一貫しているんですけど、周りの世界は本当に混沌としていて。日本に生きているから感じにくいかもしれないけど……それは、感じないようにしているだけであって、トルコやシリアでは地震が起きているし、ロシアとウクライナの戦争は終わらないし、アメリカでは今でもアフリカ系アメリカ人への差別が続いている。アフリカなどの貧困問題があるとしても、その影響下にない人たちは食べ物を残しますよね。そんな矛盾の中で私達は生きてるっていうことが、自分も含めてずっと気持ち悪いと感じていて。それを直接的に言ってしまったら、少し政治や宗教色が強く出てしまうから、どうにか日々のメロディの中に組み込みたい。私が自分の音楽をジャンルレスと言っているところもあるので、それをいろんな目線で言いたいし、いろんな音楽ジャンルでアプローチしてみたいと挑戦したアルバムになってます。その中で『Light in The Dark』も「GHOST」と同じようにダーク(Dark)にするのではなく、ライト(Light)の方に重きを置いていて。常に暗闇の中に一筋の光が差すような思いで歌っていますね。

ーーまさに暗い心の海の底に煌めく光が差すような、歌の力を感じる作品になってると思います。「Noir.」はピアノによるインスト曲で暗闇から始まりますね。

Tielle:ベートーベンみたいに弾いてほしいとお願いしました。「In the Dark」もそうなんですけど、レコーディングのときは部屋を真っ暗にして、ピアノと私のボーカルの隣にマイクを複数置いて、空気の音やレコーディングブースの木の軋む音までも全部収録しました。深い深い海底に鳴り響くような、本当の絶望を表したかったんです。

ーーそこからピアノとボーカルのみのバラード「In the Dark」へと繋がります。

Tielle:私、どんな曲を歌っても、声からホープ(希望)が抜けないんですよね。

ーー澤野さんの楽曲「Into the Sky」でゲストボーカルを務めた際も“母性”や“マリア様のよう”という声がリスナーからあがっていました。

Tielle:だから、今回は希望を削いでみたかったんです。煮えくり返るようなドロっとした感情を歌えたらいいなと思って挑戦してみた結果ではあるんですけど。

ーー絶望の淵に追い込まれて、言いようのない孤独を感じながらも、〈誰か僕を見つけて〉と歌っています。でも……。

Tielle:自分で〈暗い海の底に連れて行ってくれ/そこが居心地がいいから〉と言っているんですよね。人が悲観的になっているときは、自分からどんどんネガティブな方に寄っていく節もあるなと思って。そういう、愚かでどうしようもないような人間味を表したかったんです。孤独を自ら好んでいるということすら、自分自身が気づいてない。でも、そこに住まざるをえないみたいな感覚ですね。

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