スガ シカオ、原風景からエロまで思うまま書き連ねる“無垢な自分” ファンクとの新しい向き合い方も語る

 スガ シカオ、デビュー25周年イヤーの締め括りを飾る12thアルバム『イノセント』が完成した。生と死。そしてギリギリの性的表現が混在するおよそ4年ぶりのオリジナルアルバムは、タイトル通り、スガの音楽に対する“無垢”な独自性と類まれなるセンスがこれでもかと凝縮された一作となった。

 さらに本作ではスガが新たに立ち上げたファンク集団“ファンクザウルス”も登場。25周年を経て迎えた新展開の意図とは? スガ シカオにたっぷりと語ってもらった。(内田正樹)

スガ シカオ NEW ALBUM 『イノセント』 予告動画

「誰も書かないテーマなら、ライフワークのつもりで書いていく」

ーー今回の『イノセント』というアルバムタイトルは、アルバム完成前にSNSで発表された大まかな収録曲のタイトルと曲調と曲順のみを元にリスナーが考えるという無茶振りの公募によって決まりました。スガさんとしては25周年イヤーを締め括るイベントの一環というか、ある種の賑やかしみたいな感覚だったのでしょうか?

スガ シカオ(以下、スガ):いや、マジでしたね。僕はアルバムも曲もタイトルを考えるのがすごく苦手で、いつも最後まで悩むんですよ。『労働なんかしないで 光合成だけで生きたい』(2019年)の場合は先に同じタイトルの曲ができていたからそのままつけたけど、『THE LAST』(2016年)の時はレーベルスタッフからの提案に僕が乗っかって決まったの。もうそれぐらい毎回困ってきたので、いっそ公募したら良いものが来るんじゃないかと思って。

ーーまさにタイトル通り、スガさんの音楽に対する“イノセント”な部分で構築されたアルバムだと感じました。まずアルバムは詞曲ともにヘヴィな「バニラ」から始まりますが、菅波栄純(THE BACK HORN)さんのギターとSATOKO(FUZZY CONTROL)さんのドラムがえらくカッコいいですね。

スガ:実はこの曲は『労働~』制作時のセッションで録った曲だったんです。まず僕がスリーコードで押し切るようなLed Zeppelinみたいなリフを作って、それを栄純とSATOKOに演奏してもらったんだけど、いざやってみると予想以上に古臭いブルースロックみたくなっちゃって、お蔵入りになっていた。でもコロナ禍で時間ができた時に「そういえば」と思い出して。僕がレコーディングデータをぶった切って並べ替えて、コードを変えたベースを自分で弾いて、プログラミング音も上から被せて、全く違う曲に作り直したんです。

ーーそうなんですか。とてもぶった切って再構築したとは思えないグルーヴですよ。

スガ:栄純とSATOKOが聴いても、「え、こんなのやったっけ!?」となったぐらいの様変わりで(笑)。『Sugarless III』(2021年)に向けて「バニラ」を書き下ろしたんだけど、結局その方向性がアルバムと合わなくて、次は「覚 醒」を書いたら「これも合わないじゃん」ということで、3曲目で「JOKER」ができた(笑)。でも「バニラ」と「覚 醒」が最初にできていたおかげで、今回は早々にアルバムの方向性が見えていました。

ーーこれはデータの並べ替えの最中、かなり手応えがあったんじゃないですか?

スガ:そうですね。強烈な手応えを感じていました。自分としてはビリー・アイリッシュ的なアプローチというか。出だしのクールなデジタルビートが途中からロックっぽくなるという、これまでもたびたびやってきたダークなダンスビートものの最新版であり、真骨頂を狙いました。

ーー曲のスタートから何分経ったのかわからなくなるような、スガさん特有の時間操作みたいなアレンジスキルも炸裂していますね。

スガ:時間操作は『THE LAST』の時にも結構使っていて。テンポ120のビートに対して186のベースラインを当ててグルーヴを作って、時間のねじれみたいな感覚を作るのが自分のアレンジの癖だと思うから、今回もすごく強く出ていますね。音楽をデジタルで管理すると、どうしても自分の創造性よりもコンピュータの制御力の方が強くなる時があって。例えば手で音を打ち込んでも、ちょっとでもズレるとコンピュータが勝手に直しちゃうので、要するにグリッド線に従わなきゃいけない音楽か、そうじゃない音楽かに分かれる。もちろんコンピュータ側からすれば、制御して正解を見つけるのが最もイージーな結論なんだけど、僕はコンピュータを使いつつも、常にその逆を攻めていくという感じで……正直、最近のJ-POPのアレンジって、僕にはちょっとステレオタイプに感じられるというか、大半は幾つかのジャンルやパターンに収まっているような気がする。そのどれに寄せるのも僕にはしっくりこないし、もっと自分流を研ぎ澄ます方がいいなという思いもますます強くなってきたので。

ーー「バニラ」の歌詞は、いわゆるSM的なシチュエーションを想起させるモノローグです。〈勘違いしないで欲しい/君に苦痛を与えたり/痛みにゆがんだ顔/ぼくは見たいわけじゃない〉とか〈でも誤解しないで欲しい/君の首を絞めるのは/君を傷つけたりしたい/わけじゃない そうじゃない〉って、なかなか過激な台詞ですね。

スガ:5曲目の「獣ノニオイ」もそうだけど、今回はこれまで以上に性的な歌詞をたくさん書きたかったんですよ。

ーーそれはどうして?

スガ:だって、ほとんど誰もやらないじゃん?

ーーたしかに、今や桑田佳祐さんくらいかもしれない。

スガ:でしょ? ひと頃は避けていたんですけど、『THE LAST』の辺りから心機一転、また突っ込んだ歌詞を書き始めた。昔から変わらずに書きたいテーマだし、こんなに誰も書かないんだったら、もうライフワークのつもりで書いていこうと思って。

スガ シカオ 「バニラ」 Music Video(for public)

ーー「バニラ」はMVを撮影したものの、完全版はスタンガンやホチキスを使用したプレイなどにより、あまりに内容が際どくてYouTubeの規約に合わず。結果、ソフトな編集版“for public”がアップされ、完全版は初回限定盤DVDのみに収録という着地となりましたが。

スガ:実は「バニラ」に関しては、映像を利用したもっと壮大な計画があったんですけど、内容的な事情もあって頓挫しちゃって(笑)。

マネージャー:「バニラ」のMVは僕がプロデュースしたんですけど、前からガチガチにロックなスガの映像を一度作ってみたいと思っていたから。こんな時代だし、毒にも薬にもならないことをやるよりも楽しいかなって(笑)。

スガ:僕も「バニラ」なら、普段スガ シカオを聴かない人に届くような変わった映像を作るのは悪くないと思ったんだけど、当初の計画だと毒が強過ぎちゃったみたいで、「過激なビデオを撮る」という企画だけがぽつんと残って、今回のMVになりました。とはいえビデオ撮影の現場に本物のSM嬢のお二人が衣装を着て入られたのを見た時、僕も「これは想像以上だ……」と震えましたよ。だって完全版では本当に血が流れてますからね。

ーー2曲目の「さよならサンセット」は昨年行われた『スガ シカオ 25周年ツアー 大感謝祭 2022』東京公演で披露されていました。その時のMCで、この歌詞は「亡くなった友達に向けて書いた」と話されていましたが。

スガ:僕には食べ歩き同好会みたいな、仲の良いグループがあってね。その仲間が僕の福岡公演をみんなで観に来てくれて、一緒にカラオケに行ったりしたんだけど、その中の一人の女の子がその後、福岡で倒れて入院して、数日後に亡くなっちゃったんです。それがちょうど「さよならサンセット」を作っている時だったから、本当はサウンドから引っ張られるようなもっとカラッとした歌詞を書きたかったんだけど、上手い言葉が思いつかなくて。その後、彼女を偲ぶ会をやったり、彼女の誕生日に集まってバースデーパーティをやったりして、結局こういう歌詞になって……ちょうど今日(取材日)が彼女の命日です。

ーーそうでしたか。〈君がいない日々を それぞれ行くよ〉というフレーズが響きました。

スガ:僕も彼女も互いにあくまで友達の一人だから、彼女が亡くなったからと言って僕の生活に何か大きな変化があるわけじゃない。でも心に納得のいかない何かが残っていて。自分で書いていてもよくわからなかったんだけど、結局、彼女のことを書いているわけじゃなくて、たぶん、彼女と仲が良かった僕たちがこれから先、彼女のいない世界をどう生きていくかということについて書きたかったんだと思います。

スガ シカオ 「さよならサンセット」(from 大感謝祭 2022)

ーーこの曲の編曲と演奏は、KAPPASWG(Gt)、Antoine Katz(Ba)、Juny Mag(Key/編曲)、FUYU(Dr/プロデュース)という、『Sugarless III』収録の「心の防弾チョッキ」を手掛けたチームですね。近年、欧米のチャートを賑わしている音楽のエッセンスも随所に感じられるし、先ほどお話しされていた「自分流のアレンジを研ぎ澄ます」という点においても有効に機能していて。

スガ:そうですね。彼らは元々FUYUの人脈で、以前YouTubeで多国籍セッションをやった面々です。サビで全部の楽器を抜いてチェロだけ残るところとか、この曲のアレンジもすごく気に入っています。彼らには前もって「“スガ シカオっぽさ”に寄せなくていいから」と言ってあったから、作ってみるまでどうなるかわからなくて。いろんな意味で刺激的ですよ。

 ーー実は『Sugarless III』の時、「次のアルバムはこのチームがメインになるのかな?」と勝手に予想していたのですが、蓋を開けたらまさかの新バンド・ファンクザウルス爆誕でした。3曲目「叩けばホコリばっかし (Short Mix)」、6曲目「バカがFUNKでやってくる (Short Mix)」、10曲目「メルカリFUNK (Short Mix)」、12曲目「おれのせい」はファンクザウルス名義の楽曲です。

スガ:最初は、FLYING KIDSの1stアルバム(『続いてゆくのかな』/1990年)に入っていたインタールードみたいな、気持ちのいいファンキーなグルーヴがヒュッと流れてきて、その前の曲の濃さを洗い流してヒュッと終わる、みたいなのをやろうとしたんです。でも気づいたらどんどんエスカレートしちゃって、3~4曲作ればよかったのに初回のセッションで7曲ぐらいできちゃって(笑)。僕の悪ノリが止まらなかった。

ーー悪ノリですよねえ。曲の余韻を丸ごとひっくり返してますから。

スガ:そうそう(笑)。とにかくアルバム全体が暗いディープな世界になっちゃうのが嫌だったので、そういう意味では結果オーライ。例えば『THE LAST』は良いアルバムだと思うんだけど、前半にディープな思いが詰まり過ぎていて、今聴くとちょっと苦しいんだよね。ファンクザウルスはそうならないための“息抜き”でもある。

ーーそこも不思議ですよね。これは極論かもしれないけど、ディープなスガ シカオファンは全編ディープなアルバムでも全然ウェルカムだと思うんですよ。でも他でもないスガさん自身がそれを最も嫌っていて。

スガ:そうですね。まず僕自身がそんなの聴きたくないし。あとは『労働~』を作ったことも大きかった。それまで好き勝手にアルバムを作っていた自分が、『労働~』で初めてリスナーの顔を意識したという経験があったから、今回は『THE LAST』ほどのディープさまで行かなくて済んだので。

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