Subway Daydream、“歌”を武器により開かれた存在へ 音楽への情熱とポップさが共存した1stフルアルバム『RIDE』を語る
洋楽のオルタナ/インディロックからの影響を感じさせるサウンドとキラキラと眩しいメロディの力でじわじわとリスナーを増やしている大阪発の4人組バンド・Subway Daydream。双子の兄弟である藤島裕斗(Gt)と雅斗(Gt/Vo)、中学からの幼馴染のたまみ(Vo)とKana(Dr)からなる彼らが、満を持して1stフルアルバム『RIDE』をリリースした。本作は、2021年4月にリリースされた1st EP『BORN』から約2年間でのバンドの成長と、さらにここから広がる未来への可能性を感じさせる、とても充実した作品となった。
ディープな音楽への情熱と愛を感じさせるサウンドメイキングは相変わらず音楽好きを唸らせそうだが、それ以上にこのアルバムを輝かせているのはボーカル・たまみの歌声だ。曲によって様々な表情を見せながら楽曲をポップにリフトアップさせるような彼女の歌は間違いなくこのバンドの大きな武器。もちろんメインソングライターである藤島裕斗をはじめメンバーもそこには自覚的で、このアルバムはそこにぐっとフォーカスした曲作りが貫かれている。
洋楽好きによるオルタナポップバンド、というとどこかマニアックな匂いも漂ってくるが、Subway Daydreamに関してはそういうものとは全く違う。この国の音楽ファン、すべての人に刺さるべき魅力とポテンシャルを彼らは持っている。(小川智宏)
Snail Mail、Alvvaysのような音楽性をやっていくには“ネアカ”すぎた
――2020年の結成からここまでを振り返ってみてどうですか?
藤島裕斗(以下、裕斗/Gt):本当に最初は友達同士で集まって何もないところから始まったんですけど、そこから一瞬なようで、でも思い返せばいろいろあったなって感じます。
たまみ(Vo):うん、あっという間やった気がします。コロナ禍もあって活動ができない時期もあったので、「今から」って感じがしますね。
Kana(Dr):でもその間にたくさんの人に聴かれるようになって……実感があるようでないようなふわふわした感じもあるんですけど、みんな純粋に楽しんでやれているので、その楽しさを失わずにこれからも進んでいけたらなって思ってます。
――雅斗さんはどうですか?
藤島雅斗(以下、雅斗/Gt・Vo):バンドを始めるまでの自分とバンドを始めてからの自分はほぼ別の人間になってる感じがします(笑)。毎日が新しいことの連続で、バンドをやってなかった頃の自分は遠い昔のように感じるんです。でも日数だけで言うとまだまだそんなもんなんやっていう、不思議な感覚ですね。
――今回『RIDE』というアルバムができたわけですけど、前作のEP『BORN』と比べてもかなり印象の違う、その間の進化を感じさせるすばらしいものになったと思います。自分たちではバンドの変化についてはどう感じますか?
裕斗:曲の作り手の観点でいうと、やっぱりこの2年弱の活動を通して、前よりたまみちゃんのボーカルを中心に据えるという意識がどんどん強くなっていったんです。もちろん自分が影響を受けたサウンドの要素も交えているんですけど、サウンドよりも歌や歌詞がどんどん中心になってきたのかなって。
――それは自覚的、意識的にそういうふうにしていこうと思ったのか、それとも自然にそうなっていったんですか?
裕斗:ライブ活動を重ねていく上でのたまみちゃんの成長がすさまじくて。自分も曲を作る上で彼女の成長におのずと引っ張られて、作る曲もだんだん歌モノ寄りになったりしていったんだと思います。
――確かに『BORN』までの曲を聴いていると、日本も海外も含めて、いろんなバンドに対するリスペクトやオマージュがわりとはっきり出ていたと思うんです。今回もそういう部分はあるけど、曲を作る上でのプライオリティの面で歌が重要度を増した感じがしますね。今「すさまじい成長を遂げた」と言ってもらいましたが、たまみさんは自分ではどうですか?
たまみ:いやあ、そう言っていただけて嬉しいです(笑)。でもライブとかレコーディングとかをたくさんして、その中で「こう歌いたい」とか「こう歌ったらもっと気持ちが伝えられるんじゃないか」とか、どんどん考えていくうちに自分らしさみたいなものが見えてきて。今回のアルバムはそれが一つになったかなって思います。特にきっかけがあったわけではないんですけど、少しずつそういう気持ちになっていきました。
――そもそもこの4人でバンドを始めたときは、将来像とか「こういうふうに進んでいきたいよね」みたいなイメージはあったんですか?
Kana:最初ギターの裕斗と私で「バンド組みたいね」ってなったときは、カナダのAlvvaysとかSnail Mailとかがすごくいいよねっていう話から意気投合したんです。オルタナというかドリームポップというか、そういう感じのジャンルでやっていきたいねという話をしていたんですけど、活動を続けていくうちにたまみちゃんの歌をもっとみんなに届けたいなって思うようになって。
――原点にはSnail MailなりAlvvaysなりがあったけど、やっていくうちに「そうじゃないんじゃないか」と思うようになっていったってこと?
雅斗:最初メンバーが集まって、ライブをやる前からレコーディングをしていたんです。『BORN』もそうで、2、3回くらいしかライブしていない状態でレコーディングしていたので、やりたい音楽、みんなが影響を受けた音楽を詰め込んでっていう感じだったんです。でもその後ライブ活動をやっていくうちにお客さんの反応がダイレクトに見えて、Subway Daydreamとしてやりたい音楽っていうのがどんどん固まっていったんじゃないのかなって思います。
裕斗:うん。初期は自分が好きなものをそのまま出すっていうのを意識的にやっていたところもあるんですけど、やっていく中で……その、そもそも根本的にメンバー全員ネアカなんですよ(笑)。
――ネアカ?
裕斗:オルタナとかインディロックとか、僕もすごく好きですし、Sonic Youthとかも大好きなんですけど、そういう音楽をやるにしてはちょっと性格が明るすぎた(笑)。最初は意識的に、無理に暗くしていた部分も正直あるんですよ。ただ、やっていく中で、やっぱり自分の音楽の原体験はSMAPとかJ-POPだったし、歌の国・日本で育ってきたので、その根本に染みついた自分の日本人感みたいなものは圧倒的にあって。それを最初は頑張って拭おうとしていたんですけど、だんだん無理しなくなってきて、今が本来のSubway Daydreamなのかなっていう気はしてます。
メンバー全員が大きな信頼を寄せるボーカル・たまみの歌声
――それにしても2021年にリリースされた「Pluto」くらいから曲がいきなりガラッと変わってポップになっていった感じがするんですけど、そこはライブをやったことが大きかったんですか?
雅斗:そうですね。ライブやと自分たちの想像しない部分で「ここで盛り上がってくれるんや」とかもわかるし、強いメロディやノれる曲はお客さんが特に楽しそうやなとかも感じるので。そういう部分にはバンドとしてもやっぱり影響を受けているんじゃないのかなと思います。
――たまみさんはもともと歌を歌いたかったんですか?
たまみ:そうですね。小さい頃からJ-POPを聴いてよく歌っていました。オリジナルのバンドはSubway Daydreamが初めてなんですけど、Kanaちゃんが誘ってくれたんですよね。すごい推してくれて(笑)。私も「歌いたい!」って言って入りました。
――Kanaさんが激推ししたんだ(笑)。
Kana:私とたまみちゃんはずっと大親友で、中学生のときはよく休みの日にカラオケに行ったりしていたんです。そのときから歌を聴いて「この人すごい」と思っていたし、「いつかバンドを組みたいね」っていう話はしてたんです。なかなか実現しなかったんですけど、大学卒業するギリギリのときに裕斗と「バンドしたいね」って話になって「これはたまみちゃんとバンドをやる最後のチャンスや」と思って。それですぐに声をかけました。
――裕斗さんはたまみさんの歌声を初めて聴いたときにどういうふうに思いました?
裕斗:それこそ最初はAlvvaysとかSnail Mailとかっていうイメージがあった上で聴いたんですけど、その瞬間にもう、サウンドよりも歌かもなっていうのは思いました。余計なものがない歌というか、心の中にすっと入ってくるというか。聴いたことのない不思議な魅力がある声だなって。
――じゃあ、ある意味その瞬間から今のこのSubway Daydreamの形に向かっていく矢印はできていたっていうことなんですね。
裕斗:今思えばそうやったかもしれないですね。結果的にたまみちゃんの歌がすごく真ん中にあるので、もうそれは決まっていたのかもしれないです。
――これはたまみさん以外の3人に聞きたいんですけど、彼女の歌のどんなところがすごいですか?
雅斗:たまみちゃんの歌声は、どんな人が聴いても好きになるんじゃないかなって僕は思います。初めてスタジオに入ったときとかも、家に帰ってから「これは今までとはちょっと違うな」って裕斗と話したりしてました。
Kana:うん。それは私も同意見! 聴いたらたまみちゃんの声やなってわかるし、どんな曲を歌ってもたまみちゃんの声があることでSubway Daydreamになるんじゃないかなと思う。なんか、マイナスイオンが出てますよね(笑)。人を癒すというか。
裕斗:癒し効果もあるけど、力強さもあって。逆に僕ら楽器隊が裏でどんなことをやっていても、たまみちゃんっていう軸があるから、そこに戻れるという安心感はありますね。曲を作る上でもライブをする上でも安心感がある。いつでも戻ってこれる、実家のような安心感(笑)。
――雅斗さんはツインで歌ったりコーラスをつけたりしていますけど、自分の声と彼女の声のバランスというのはどう考えていますか?
雅斗:裕斗はこのバンドにおける僕のボーカルの立ち位置を「楽器」と言ってくれるんです。Subway Daydreamの楽曲の中の楽器の一部の役割を果たしてるって言ってもらったことがあって、それを聞いてこのバンドでコーラスをやったりボーカルをやったりするときの立ち回り方がわかったというか。たまみちゃんの歌があった上で、どういう要素が欲しいかみたいなところを落とし込んでいく感じです。そういう意味ではツインボーカルっていう見え方ではたぶんないんでしょうけど、「あるとやっぱり違うよね、いいよね」って思ってもらえるようなバランスを心がけるようにしていますね。
たまみ:雅斗くんと私の声の相性がいいなというのは初めの頃から思っていて。ハモるとすごく気持ちいいなってずっと思ってます。
雅斗:嬉しい! ありがとう。なんか照れますね(笑)。