みきとP×稲葉曇『VOCALOCK MANIA』対談 互いの楽曲への印象から歌声合成ソフトのトレンドまで語り合う
“VOCAROCK”好きをLOCKするイベント『VOCALOCK MANIA』が、1月22日に大手町三井ホールにてver.0として初開催される。「普段会えないボカロPに会える即売会」「ボカロPによる楽曲解説」「好きなボカロ曲が聞けるDJタイム」の3つの軸で“VOCAROCK”好きがひとつになることのできるイベントだ。
リアルサウンドでは、当日出演する予定のボカロP・稲葉曇×みきとP、Chinozo×和田たけあき、一二三×ゆよゆっぺの3組にお互いへの印象や楽曲制作に関する話題からイベントへの意気込みなどについて聞く対談を連続して展開。
第1回目は、代表曲「ロストアンブレラ」「ラグトレイン」が海外ファンにも波及した稲葉曇と、「いーあるふぁんくらぶ」「ロキ」など幅広いジャンルの楽曲を生み出し続けるみきとPによる対談をお届け。面識のなかったという二人だったが、お互いの楽曲への印象から歌声合成ソフトウェアに関する話題まで、深く語り合った。(小町碧音)
初対面の二人の意外な共通点
ーーお二人がお話しするのは今回の対談が初めてということですが、まずそれぞれの楽曲から感じていたお互いの印象は?
みきとP:イベントと対談出演の提案をいただいてから、改めて曇さんの曲を色々と聴いたんです。実は曇さんを初めて知ったのは、2018年に僕が「ロキ」を投稿した時で。
稲葉曇:「ロキ」は、僕の「ロストアンブレラ」と投稿日が同じでしたよね。
みきとP:そうですよね。かっこいい曲があがってるなって思って、そこで初めて名前を知って。曇さんの曲って、色んな人に歌われていたのもあって、「この人も曇さんの曲歌っているな」、とか思いながら聴いていました。だからなのか、なんとなく“野良猫”みたいなイメージがありましたね。
ーー稲葉曇さんはいかがですか。
稲葉曇:僕はずっとみきとPさんの作品が好きで、聴いてきていて。遠すぎない、ノスタルジックというかどこか懐かしい雰囲気を持ちつつ、無機的なボーカルが乗っている曲が特に好きなので、そういう印象が強いですね。一番好きなのは、「京都ダ菓子屋センソー」なんですけど。
みきとP:マジですか!
稲葉曇:もうずっと聴いていて。投稿された当時、2014年はv flowerが出たばかりで、使用して楽曲投稿している人がまだ少なかった頃でしたよね。
みきとP:そうなんですよ。
稲葉曇:僕の中でv flowerと言えば「京都ダ菓子屋センソー」なんです。
みきとP:その後くらいからv flower、めちゃくちゃ流行り出したんですよね(笑)。この曲では割と早めにv flowerと、ロック的なバンドサウンドを掛け合わせていて。誰も言ってくれなかったから、嬉しいです(笑)。
ーーみきとPさんから見て稲葉曇さんの楽曲の魅力はどのようなところにありますか。
みきとP:例えばマイナーコードを使うとしても、Am(Aマイナー)ではなくてAm7だったり、若干アンニュイというか。どこか落ち着かない、解決しきらない雰囲気って僕も好きで。自分の曲の場合はコード譜とかに落とした時、テンションとかAm7とか絶対に何かついているんですよね。ド直球のマイナーをほとんど使わないなと思っていたんだけど、そういうコード感が曇さんの楽曲にも渦巻いているんですよ。僕もギターのカッティングとか好きでよく使いますし、その辺りにシンパシーを感じるというか。先ほども言った“野良猫”感は、メロディに感じたところもちょっとあって。いわゆる王道のJ-POP的な、Aメロ・Bメロ・サビといった世間一般で言う美しいメロディとはちょっと違う、いい意味の野良感、インディー感もすごくいいなと思ってます。
稲葉曇:ありがとうございます。やっぱりメロディはこだわっています。ふと思いついたメロディって、感情が入っちゃうのでそれをボカロに歌わせる時にできるだけフラットにする。どうやったら無機的になるかなというのは、常に考えながら作っていますね。
ーーお二人が楽曲制作をする上で刺激を受けているコンテンツはありますか?
みきとP:音楽配信サービスとYouTubeです。特にSpotifyは延々とおすすめが流れるので、知らなかったけどかっこいい曲に出会いやすいんです。YouTubeではお笑いとか、なんでも観ますね。音楽系だったらHow toとか基礎的なコンテンツを観て、こうやって作るんだよな、みたいな答え合わせをしたりしていますね。
稲葉曇:昔はニコニコ動画でボカロ曲を探しまくって、そこから刺激されることが多かったです。でも最近Spotifyを使い始めてから、レコメンドが本当に良くて。ちなみに1月に出す新曲があるんですけど、その曲のリファレンスの1つもSpotifyで出会った曲で。
みきとP:曇さんは他のものに影響を受けて曲を作っているというより、本当に自分の中にあるものを出してるような雰囲気を感じてました。
稲葉曇:もちろん、自分の中では“この雰囲気が好き”っていうイメージがあります。ただ、その出し方って色々あると思っていて。例えば、昔はギターロックっぽい曲が多かったんです。でも、最近はあえてギターを目立たせない脇役的な使い方を増やしたりとかして。自分が好きな雰囲気を持つ曲は、どうやったら作れるかチャレンジしていっているところはありますね。それに、最近はいろんなボーカルで作るようにしています。
みきとP:あれ、曇さんはユキ(歌愛ユキ)マスターですよね?
稲葉曇:心はユキマスターですね(笑)。2022年はそれぞれボーカルが違う4曲を出しました。ユキと裏命と星界と弦巻マキ。
ーーVOCALOID(歌愛ユキ)、CeVIO AI(裏命、星界)、Synthesizer V(弦巻マキ)ですね。
みきとP:僕も「奈落」という曲で裏命を使ってみたのですが、すごく良かったです。頑張ってエディットしたら、かなりいいなと思える手応えがあったというか。
稲葉曇:裏命の伸びのあるボーカルがすごく好きです。「京都ダ菓子屋センソー」のv flowerに近い気がしますね。
みきとP:確かに「京都ダ菓子屋センソー」で初めてv flower使った時の感触にちょっと近いかも。あと、裏命はデフォルトで、語尾が下がる歌い方をしていて。すごくダウナーな感じの歌い方ができてアーティスティックだなって感じた。ユキもすごくいいっすよね……と言っておきながら、使ったことないんだけど(笑)。ユキって当初はアングラなイメージがあって、一部に熱狂的なファンがいた感じでしたよね。
稲葉曇:僕の曲が聴かれるようになったタイミングで、ユキを使ってくれる人がユキの個性を生かした曲を発表して、一気に波に乗った感じはあったかもしれません。
みきとP:自分だったらユキじゃなくて、初音ミクDarkとか初音ミクSoftを使っちゃうかもな。
稲葉曇:初音ミクWhisperとかも選択肢にはあったんです。でも、感情はやっぱりユキの方が少ないんですよ。ユキの方がリアルなのに感情が少ないところがすごく好きだから、よく使っているのもありますね。
みきとP:わかる気がする。
稲葉曇:最初、v flowerとも迷っていたんですよね。ちょうど稲葉曇として曲を出そうと思っていた時に、「京都ダ菓子屋センソー」のほかに、電ポルPさんもv flowerを使った「曖昧劣情Lover」を投稿していて。当時はv flowerがそこまでメジャーではなかったので、そういう部分も含めてv flowerで曲を出したいなと。でも結局、あのウィスパーボイスがいいと思って歌愛ユキにしました。