桑田佳祐、アリーナで響かせたソロ35周年の集大成 ポップスの愉快さと批評性を届ける極上のエンターテインメント空間に
そしてライブは後半へ。まずはベストアルバム『いつも何処かで』から新曲を披露。「なぎさホテル」は、神奈川県逗子市にあったリゾートホテル(石原慎太郎の小説『太陽の季節』の舞台としても有名)をテーマにしたドリーミーなポップチューン。そして「平和の街」は、軽やかなビートと旋律に乗せ、〈平和の街で 共に生きよう〉と語りかけるナンバー。過去への憧憬と郷愁、未来に向けたビジョンを示したこの2曲は、ソングライターとしての桑田佳祐の“今”を強く示していると思う。
真っ赤なライティング、ブルースと歌謡が結びついたメロディ、〈淋しくて淋しくて 魂に死化粧〉という言葉が響き合う「現代東京奇譚」の後は、「ほととぎす [杜鵑草]」。侘びと寂を感じさせるリリック、そして、豊かな抒情性に溢れた旋律を丁寧に紡ぎ出す桑田に対し、客席から大きな拍手が送られた。言葉を詰め込み、グルーヴさせるスタイルで日本の音楽シーンに革新を与えた桑田だが、日本語の美しさを活かした「ほととぎす [杜鵑草]」のような楽曲もまた、彼の真骨頂だ。
軽やかなギターカッティングから始まった「Soulコブラツイスト〜魂の悶絶」によってライブは一気にクライマックスへ。桑田が首に巻いた赤いタオルはもちろん、アントニオ猪木への哀悼とリスペクトの表れ。“迷わず行けよ、行けばわかるさ!!”の名ゼリフを叫ぶと会場全体のテンションがさらに引き上げられた。「Soulコブラツイスト〜魂の悶絶」は、2021年9月にリリースされた新作EP『ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼き feat. 梅干し』の収録曲。「SMILE〜晴れ渡る空のように〜」「炎の聖歌隊 [Choir(クワイア)]」もそうだが、これほどのキャリアを持っているアーティストが新しい曲をセットリストの軸にできるのは本当にすごいことだと思う。
さらにソロデビュー曲「悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)」、アジア、南米、中東のビートが混然一体となった「ヨシ子さん」(不気味なお面をかぶったダンサーのパフォーマンスもいい味)で祝祭的空間を作り上げた後、突如として“お嬢”美空ひばりが桑田に憑依(?)。「わたしね、マンネリ大嫌い。水着の女の子がたくさん出てきて、波乗りの歌を歌ったり、ほんとにイヤ」「じゃあ、最後にわたしの歌聴いて帰ってね」と「真赤な太陽」をカバー(スクリーンには“ジャッキー吉川とブルー・コメッツ”をバックに歌う美空ひばりの映像)。そのまま帰ろうとすると白い水着姿の女性が大挙して登場、桑田をステージの真ん中に押し戻し、お約束の「波乗りジョニー」へ突入。水着の女性にコブラツイストをかけられ、投げ捨てられながら歌う桑田、まさに千両役者である。このまま華麗にフィナーレかと思いきや、エンディングでトランペットの菅坡雅彦が『8時だョ!全員集合』オープングテーマのイントロ的フレーズを独奏。桑田、バンドメンバー、ダンサーが全員でズッコケる。“なんだもう、しょうがねえな(笑)”的なムードのまま、本編は終了。鳴りやまない手拍子に導かれ、すぐにステージに戻った桑田は「オイっす!」といかりや長介風に挨拶。今回のツアー、裏テーマにはザ・ドリフターズへのリスペクトもあったのかもしれない。
アンコール1曲目は、「ROCK AND ROLL HERO」。オーセンティックなロックンロールのなかで歌われるのは、アメリカに向けられた愛憎、そして、この国に対する複雑な思い。ちょうど20年前に発表された楽曲だが、〈舵取りのいない泥の船は どこへ行くのか?〉〈青春の同志よ 沈黙は愛じゃない〉といったフレーズは、むしろ現代の社会にこそシリアスに響く。リアルな肉体性と鋭利な批評性。「ROCK AND ROLL HERO」のパフォーマンスは、今回のツアーの最大のポイントだったと断言したい。
ド派手なレーザーに彩られた「銀河の星屑」、そして、ウインターソングの大定番「白い恋人達」へ。ライブ終盤において桑田のボーカルはさらに激しさを増し、ドラマティックなメロディを生々しく響かせる。シンガーとしてコンディンションは、昨年のツアーよりも明らかに上。やはりこの人は、ステージに立ち続け、観客と向き合うことで進化していくアーティストなのだろう。
「長い時間マスクしていただき、お立ちになって聴いていただいてありがとうございます。いい年を迎えられそうですか?」という言葉の後は、ラストの「100万年の幸せ!!」。「実力派メンバーの本領発揮。胸のすくような生演奏でお届けします」と言うから何のことかと思ったら、曲の後半でメンバー全員がステージ前方に出てきて、みんなでダンス(生演奏ではなく、カラオケだったというオチ)。開放的な雰囲気のなか、ライブは大団円を迎えた。
ソロ活動35年の軌跡はもちろん、この先の音楽活動へのさらなるビジョンを示す圧倒的なライブをやり遂げた桑田佳祐。あらゆるジャンルを飲み込みながら誰もが親しめるポップスへと結実させるセンスと技術、そして、常に大衆に寄り添い、すべての人を楽しませ、鼓舞するパフォーマンスは間違いなく、今が最高潮だ。2023年はサザンオールスターズとしてデビュー45周年を迎える。期待するなという方が無理である。
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