杉真理×クリス松村、デビュー45周年“Mr. Melody”の軌跡を辿る 竹内まりや、大瀧詠一ら魅了した音楽のバックストーリー

杉真理×クリス松村、“Mr. Melody”の軌跡を辿る

 1977年にシンガーソングライターとしてデビューした杉真理のデビュー45周年を記念したCD BOX『Mr. Melody~杉真理提供曲集~』がリリースされた。70年代後半から現在に至るまで、アーティスト活動を続けながらソングライターとして数多くの楽曲を提供してきた杉真理。300曲以上に及ぶ曲の中から本人が厳選した116曲をCD6枚に収録した本作は、竹内まりや、松田聖子、須藤薫をはじめ、アイドル、俳優などの幅広い楽曲をコンパイル。CMでお馴染みの「ウイスキーが、お好きでしょ」のような誰もが知るナンバーからマニアも唸るレア曲まで、杉の多彩な才能をたっぷり堪能できる作品集となっている。

 リアルサウンドでは、Mr. Melodyこと杉真理と、多くのアーティストからの信頼も厚い音楽通のクリス松村との対談が実現。ソングライターとしての杉真理の魅力や名曲誕生の知られざるエピソードを深掘りする。(佐野郷子)

竹内まりやへの楽曲提供がソングライター人生の始まり

杉真理×クリス松村

クリス松村(以下、クリス):『Mr. Melody~杉真理提供曲集~』のCD6枚、全116曲のフルボリュームは圧巻ですね。杉さんのファンもここまでチェックしきれなかったというようなレア曲も収録されていて。

杉真理(以下、杉):せっかくのこういう機会だからと思って頑張って厳選したんですけど、100曲を超えちゃいましたね。

クリス:このBOXはブックレットの杉さん自身が書かれたライナーノーツが素晴らしい! だって、116曲分ですよ! お疲れさまでした。

杉:記憶をたどりながら、資料にあたったり、ウィキペディアで調べたり、そのウィキが間違っていたり(笑)、さすがに大変でした。

クリス:杉さんの膨大な提供曲で最もよく知られているのが、石川さゆりさんが歌った「ウイスキーが、お好きでしょ」だと思うのですが、あの歌はCMソングとして今も流れていることもあり、世代を超えて愛されていますね。

杉:ありがたいですね。あの曲を作った頃はウイスキーの人気が低迷していて、何とか起死回生を狙いたいという意図があったんですが、もしかしたらウイスキーとともに(曲も)地味に埋もれてしまうのかな……と、思っていたら、装いも新たにCMが制作され、ハイボールの復活とともにあの歌もたくさんのアーティストがカバーしてくれました。

クリス:ゴスペラーズ、竹内まりやさんなど様々なアーティストのカバーバージョンがありますが、今回収録されたのはオリジナルの石川さゆりさん。そもそも、あのCMソングはどういう経緯で生まれたんですか?

杉:歌手は石川さゆりさんで、演歌ではなくジャズというのがCM制作サイドの意向でした。僕はジャズはそんなに詳しくないんだけど、美人シンガーでジャズというと、ジュリー・ロンドンが思い浮かんだんです。

クリス:もしかして、「Cry Me a River」ですか?

杉:そうです。「Cry Me a River」みたいな雰囲気の曲を作ろうと思ったんです。

クリス:そもそも杉さんが曲を提供するようになったきっかけは?

杉:僕は1977年にMari & Red Stripesとしてデビューしたんですが、2枚目のアルバムをリリースした後に急性髄膜炎になり、バンド活動を休止せざるを得なくなってしまった。そのタイミングで、デビューが決まったのが竹内まりやでした。

クリス:杉さんとまりやさんは、慶應義塾大学で音楽サークル「リアルマッコイズ」にいたんですよね。

杉:そうなんです。彼女の1stアルバム『BEGINNING』に2曲を作ったことが、ソングライター人生の始まりでした。無名の新人によくぞ頼んでくれたと思います。

クリス:まりやさんの大学時代は「憧れはビートルズ(The Beatles)と杉真理」だったそうじゃないですか。

杉:ありがたい後輩です(笑)。でも、『BEGINNING』には細野晴臣さん、加藤和彦さん、山下達郎さんのような先輩方が曲を提供していたし、大学のバンド仲間だったとはいえ僕なんかで大丈夫なのかなと思いましたよ。

クリス:私も当時は、“すぎ まり”だと思っていました。

杉:みんなそうでしたよ。その頃からCMソングを書いてみないかという話も来るようになって。

クリス:でも、デビューして、さあこれからという時に体調を崩されて……。

杉:入院中はさすがに落ち込みましたが、退院後は楽しいことをやっていくしかないと思ってCMや作曲の仕事を引き受けたんです。譜面を書くのが苦手な自分にできるのだろうかと不安もありましたけど。

クリス:300曲以上もお書きになっているのに譜面が苦手とは意外です。

杉:ビートルズだってそうなんだからというのが心の支えでしたね。思い返すと、最初にまりやが僕に声をかけてくれたのは大きかった。

クリス:だって、まりやさんに「歌ってみたら」と勧めたのも杉さんだったんでしょう?

杉:そうなんですよ。当時、僕の両親は浅草にあった社宅に住んでいたんですが、その社宅の風呂場のエコーを利用して、まりやのデモテープをつくったんですよ。「目覚め (Waking Up Alone)」とか。

クリス:私はこの作品集を聴いていると、杉さんの人生の出会い、ご縁、関係性がすべて愛に包まれて音楽になったんだなと思ったんです。

杉:ありがとうございます。確かに病気をして、活動ができなくなったことは転機になりましたね。また再び、音楽やバンドができるのは夢だと思っていたので。だから、ちょっとくらい大変なことがあっても、あの頃を思えば、というのはありましたね。

クリス:若い頃に、「生きる」ということの壁にぶつかって、仲間に励まされながら音楽を諦めずに、1980年に杉真理としてソロデビュー。そこからが今に繋がる杉さんのリスタートだった。

杉:そうですね。『Mr. Melody~杉真理提供曲集~』は僕のソロ活動ではなく、Bサイドということもできるし、僕の人生のフェーズが変わってからの歴史でもありますね。

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