Deep Sea Diving Clubのシティポップにあるオリジナリティの背景 谷 颯太が語る、“東京三部作”に至るまでの歩み
誰にでもわかる言葉で新しい表現をすることが一番難しい
――「Miragesong」の歌詞は谷さんが書いていますけど、この曲はスムーズに書けましたか?谷:歌詞を書くにあたって出原から長文の要望書が届いて、それで熱量をすごく感じたんです。「ちょっとこれは気合を入れていかなきゃな」って。自分は書き出すまでに結構時間がかかるタイプで、何かフックが生まれるまでが長いんですよ。本を読んだり、遠くに行ってみたりするんです。今回も最初からスラスラ書けたわけではなくて。ただ〈身の丈に合わない 想いの丈だけ〉の1行目が出た瞬間に1番は一瞬で完成して。2番はレコーディング前日に差し替えた部分もあるんですけど、全体的にはその1行ができてからは早かったですね。
――出原さんからの長文の要望書には何が書いてあったんですか?
谷:たとえば「難しい言葉をあまり使わないでほしい」とか。比喩も誰にでもわかるように書いてほしい、でもちょっとおしゃれな表現を入れてくれ、みたいな。最初は「おいおい」と思いました(笑)。言いたいことはわかるけど、なかなか難しいことを言うなと(笑)。でもお題がある方が自分は進みやすいタイプで、問題を解いているみたいで楽しかったですし、大喜利みたいで好きなんですよ。そういう部分でいいディスカッションをしながら作っていきました。
――歌詞のテーマとか内容というよりも、言葉使いだとかわかりやすさだとか、そういったところに意識を向けていたということ?
谷:今までは自分なりの表現をしようとばかり思っていたんですよ。新しい言葉を作りたいんですけど、難しい言葉を使えばそれができると思っていたんです。でもこの曲を書いてみて、誰にでもわかる言葉で新しい表現をすることが一番難しくて、一番その言葉に対して真摯に向き合うことなんだと気づきました。最初「煙に巻いてる」という言葉を使ったりしていたんですけど、画数の多い漢字を使って難しい文章にして、自分のことも煙に巻いて何が自分らしさか結局わからなくなってたようにも思えてきて。技法にすごくとらわれていた感じがするというか。「Miragesong」のような曲ができて本当によかったと思いますね。誰でも知っている単語を使って情景を描写することでみんなにわかってもらえるし、共感を呼ぶという点でも今後もこうした表現に挑戦していきたいです。
――確かにわかりやすいんですよね。風景が浮かぶし、みんな見たことや経験したことがあるようなことが描かれている歌詞だと思うんですけど、その分、だからこそすごくディープな感じにもなっていますよね。
谷:そうなんですよね。ウェイトを軽くしたつもりだったんですけど、その分パンチ力が増すというか。今まで逆のことをしていたなっていうのは思いましたね。どちらも好きなんですけど、かなり新しい技に気づけたと思います。
――〈ショーケースに映る 冴えない自分〉の部分がこの曲のパンチラインだなと思うんです。この自己認識みたいなものが谷さんにとっては大事なのかなって。
谷:そうですね、かなり内向的なので。この曲ってラブソングに見えると思うんですけど、実はずっと自分の話をしてるんですよ。手に入れたいとか好きだとか言ってるんですけど、結局は自分とずっと対峙し続けているし、自分のことばっかり言っている。「男ってこんなもんですよね」とか出原と言いながら書いたんですけど、そういうところもかなり自己投影されていると思います。サビは1行決まったときに、これだと思って。より自分のことを話せばもっと説得力も増すだろうなと思ったし、嘘をつかずに済むというか。本当に思ったことを書いている文章なので、そう考えると恥ずかしいですね。
――結構さらけ出してる感じがするんですよね。Deep Sea Diving Clubにはすごくポップな曲たちがいっぱいあるじゃないですか。サウンドもカラフルだし華やかなんだけど、そういう曲であればあるほどその裏側が出てくる感じがありますよね。「T.G.I.F.」とか「Happy Feet」とか。
谷:「Happy Feet」はあえて出しましたね。自分が好きなのはやっぱり陰のある部分なんですよ。極端な二面性を持っていて、基本「ハッピー、最高!」っていうテンションは大好きだし、たとえばミュージカルとかを見て感動して最高っていうのも本当に心の底から好きなんですよ。ただ、もっと好きなものというか、本当にどちらかを選べと言われたら選ぶのは暗いところというか。すごく優しい人が怒っているところとかを見るとグッとくるんです。みんな唇を噛み締めて生きている感じが人間だなと思うし、誰かが感情を表に出す瞬間がすごく好き。自分が聴いていて響くのはそういう曲なんですよね。「Miragesong」は切なくしたかったわけでもないんですけど、書いているうちにそういう部分が自然と出てしまったなとは思います。
――暗いというか、本音の部分が出ている感じですよね。このインタビューで最初にこれまでの経歴を伺ったときに、「今までの失敗を踏まえて」と言っていたじゃないですか。失敗と思わなければ失敗ではないと思うんですよ。でも失敗だという意識がたぶん谷さんの中にあるんですよね。
谷:続かなかったということはそういうことなのかなと思うので。やっぱり続けることが何よりも一番難しいことですよね。昔スポーツもやっていて思ったんですけど、続けるからこそ次に技術とか先の話ができるんです。やっぱりまずは続ける。そう考えると過去のことも結果的に失敗として受け入れた方が自分の人生的にはいいのかなって。変なプライドで「いい感じでしたけどね」って言うよりは「失敗でした」って言える人間の方が成長していけるんじゃないかなと。
――失敗したという気持ちからスタートしていることがすごく重要というか。そういう谷さんがこういう歌詞を書いて、それをポップな音に乗せて歌っているっていうことに意味があるんだと思います。
谷:そうですね。Deep Sea Diving Clubは結成して3年なんですけど、かなりスピード感があるねと周りの方々から言っていただくんですよ。でも自分からしたら中学生ぐらいからバンドをやっていたし、そう考えると音楽人生的には10年くらいになるんです。だからちょっとばかり「やっと」っていう気持ちもあるんですよね。やっとこうやっていろんな人に聴いていただけるようになったって。出原も鳥飼(悟志/Ba)もそうなんですけど、続かなかったことがある人間なんですよ。そういう部分で特にこの2人は自分と近いと思っていて。みんなそういう経験があるからこそ折れないというか、柔軟性が高いので衝撃を食らっても上手に戻ってくる。考え方が柔らかくいられるのはそういう経験からだと思いますね。
■リリース情報
2022年12月7日(水)デジタルリリース
Digital Single「Miragesong」
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