claquepot、細部に至るまでの徹底したこだわり 初のフルアルバム『the test』を機に明かす音楽ルーツや創作の裏側

claquepot、楽曲制作の徹底したこだわり

目で見たときの美しさも意識

――今回の『the test』は、ベストアルバムのような内容になっています。そうなった経緯を教えてください。

claquepot:最初はパッケージを作る予定はなかったんです。ずっと配信リリースでいいと思っていたんですけど、心境の変化もあってパッケージにしようと。パッケージにするなら1発目でベストアルバムっていうのをやりたかったんです。ここまでは単発でシングルを作っていたので、それをまとめるならベストかなと。

――アルバムには1st EP『DEMO』の楽曲は未収録で、それ以降の曲が逆時系列で収録されています。これはどんな意図からですか?

claquepot:逆時系列にそれほど意図はないんですけど、『DEMO』の曲を入れなかったのはデモだから(笑)。入れてほしいという声もファンの方からいただいたんですけど、僕の中で括りを大事にしたかったんです。『DEMO』は収録曲の題名をすべて4文字で統一させていたので、そこからはみ出したくなかったんですよね。

――『DEMO』は1つのコンセプト作品になっていると。

claquepot:そう。それ以降、今回のアルバムまでは、タイトルをすべて英語小文字で表記するという括りでやっていたので、そこに『DEMO』の曲を入れて乱したくないなと思って。そこは“椎名林檎さんイズム”を大事にしましたね。

――曲名の文字数が揃っているとか、並べたときに文字数がシンメトリーになってるとか。

claquepot:そこはかなり意識的にやってます。目で見たときの美しさですね。デザイン重視。そもそもclaquepotという名前も全部小文字で、マルが多い文字の形っていう見た目からつけているので、そういう視点で制作することが多いです。揃っていると安心するというか、ゾワゾワしない(笑)。

――曲順についてはいかがでしょう? 先ほど、逆時系列はそこまで意識していなかったと言っていましたが。

claquepot:歴史を遡ってもらえればいいかな、というくらいでした。バラバラに並べる考え方はなかったですね。時系列か、逆時系列か、わかりやすく年表の方がいいなと。だったら今回は遡るスタイルにしようと思ったんです。

「sweet spot」からライブで闘う曲を意識しないといけないと思い始めた

――時間軸で並べられていることもあって、楽曲の質感や作風の移り変わりが感じ取れるアルバムだと思いました。特に「sweet spot」を境に質感が変わる。

claquepot:そうかもしれないですね。

――2019年2月から4カ月連続リリースした楽曲を収録した『DEMO』が第一期。次の2019年7月「home sweet home」から6カ月連続リリースした楽曲を収録した『press kit』が第二期。その後、2020年6月の「sweet spot」以降、現在までを第三期というように、楽曲作りの志向性が3つに区分されているのでは? と考えました。

claquepot:厳密に言うと、そういう区分はありますね。『DEMO』は第一期というよりゼロという感じ。どうやっていくかしっかり決める前の準備期間だったので、「home sweet home」から本腰を入れた感じがありますし、それで言うと「sweet spot」はターニングポイントでした。

――どんな分岐点でしたか?

claquepot:それまでは自分が好きな踊れる曲、ノれる曲を作ろうと思ってやっていたんですけど、ライブの回数が増えてきて、ライブで闘う曲を意識しないといけないと思い始めたのが「sweet spot」からですね。フェスに出たらこういう曲が必要とか、対バンだったらこうとか、ワンマンのときはこういう曲があった方がいいというのを明確に考えて作り出しました。

――さらに細かく分けると、2019年のclaquepot、2020年のclaquepot、といった区分もあるんじゃないかと思いました。

claquepot:2020年にコロナ禍に入ったので、それはちょっとあるかもしれないですね。2021年の「hibi」「resume」と、今年4月の「tone」はメッセージ性が濃くなった感じがありますし、表現も少し直接的にしています。そこも転換点だったかもしれないですね。

――楽曲を作る際、ミックス作業にも立ち会いますか?

claquepot:基本的には立ち会います。ミックスのときにエディットすることも多くて。元々あった楽器の音をミックスでがっつり消すこともありますし、かなりいじることもあります。僕の中ではミックスが編曲の最終作業になっているところがありますね。

――というのも、『press kit』と、それ以降では音像にも変化を感じたんです。『press kit』の時期は中高域が出ていて、シンセの音を重視しているんじゃないかと。それ以降は低音がよく聞こえるし、意図的に音数を減らしているようにも思いました。

claquepot:音数は少なくなりましたね。特に「useless」から減りました。

――それはどんな考えから?

claquepot:音数が多いとそれぞれの音がつぶれるなと思い始めて。あと、ライブをやるときにバンドアレンジに変えなければいけないので、それを想定して音数を計算し始めました。ライブでの再現性もそうですし、バキバキなシンセを入れるとライブでエレピで弾いたときに全然違う感じになっちゃうとか。

――低音域に関してはどうですか?

claquepot:聞こえ方は意識してますね。スネアのヌケを考えるようになったことと、ビート周りの音の作り方がすっきりしたところはあります。音数というと上モノの印象があると思うんですけど、そもそもビート周りの音数が少なくなった。そのぶんはっきり聞こえるようになったのかもしれません。

曲作りで大事にする“自分の好みの範疇は絶対に超えない”というルール

――『press kit』以降は、ボーカルアプローチにも変化を感じます。

claquepot:レコーディングで学ぶことがすごくあったんで、最初の頃と今では全然違いますね。細かく言うと、『DEMO』のときはアタックの強さとかニュアンスの出し方が今より大げさだったんです。そこからどんどん、ニュアンスの付け方を引き気味にして、パワーも押さえるようになりました。肩肘張らない歌い方というか、自分のレンジの無理をしない。それって大事だなと思って。

――あと、歌にグルーヴがすごく出るようになったと感じました。

claquepot:解釈が変わりましたね。レコーディングだと正しいピッチで正しくリズムを取って、オートチューンで補正してリズムもクオンタイズするのが正しいと思っていたんですけど、今はずらしますし、コーラスの語尾とかもあえて合わせないことがあります。そのルーズな感じが楽しいなと思っていて、『press kit』の後は、その辺りを意識してレコーディングするようになりましたね。

――曲を作る際、今、いちばん大事にするのはどんな部分ですか?

claquepot:自分の好みの範疇は絶対に超えないこと。だけどJ-POPとしてどれくらい落とし込めるか。そのギリギリのところの攻めですね。海外のサウンドをそのままトレースしちゃうと、僕が好きなJ-POPとはちょっと離れちゃうんです。もちろんR&Bは好きですけど、それを自分が体現できるか? というと必ずしもそうじゃないので、良い案配が取れるか、ずっと模索しながらやってます。

――サウンドメイクでこだわる部分は?

claquepot:その時々でまったくリファレンスが違っていて。ディープハウスをやりたいと思うときもあるし、ファンクをやりたいというときもあるんですけど、やりたいと思ったときに、そのジャンルの曲をめっちゃ聴いて、どういう音を使っているのかを分析しつつ、僕はどちらかというとミーハーというかフラットなタイプなので、「このコード進行はマニアックすぎるだろ」というところはスパッと切るんです。なので、自分の中で良いと思ったところだけをつまみ取って作る。それを良いバランスにするよう心がけていますね。その方がわかりやすいなって。「難解な方が良い」みたいな捉え方は違うなと思っているので。

――このリズムの跳ね方は難しすぎるだろ、とか。

claquepot:まさにそうですね。自分の声に合ってないなとか、細かいリズムで映えるタイプの声質でもないしなって思うと、スパスパとやめられます。

――理想と現実の狭間で葛藤はありませんか?

claquepot:ありますね。上を見ればキリはないし、やりたいと思う気持ちはありますけど、自分より秀でてる人はいっぱいいるんで、それをやる必要はないと思うようになりました。そこじゃないところで勝たなきゃという使命感というか、逆に「こっちもいいね」っていうところまでいければいいなと思っています。

――楽曲制作の手順についても聞きたいんですが、曲を作るときは楽器を使うんですか?

claquepot:キーボードを使います。僕はプレイヤーじゃないのでコードを少し弾ける程度なんですけど、そこから作ります。

――ビート先行? メロディ先行?

claquepot:全部のパターンがありますね。

――歌詞先行もある?

claquepot:ありますね。歌詞というか、歌詞のアイデア先行。あとは踏みたい韻先行もあります。ライミングから言葉を探して、それをリリックに広げていくとか。メロディを作ってからトラックのイメージを膨らませるパターンもありますし、トラックからメロディを作っていくパターンもありますし、バラバラですね。

――ライミングも相当重視しているんですね。

claquepot:ヴァース部分はライミング先行のことがかなりありますね。頭で踏むか、語尾で踏むかみたいなところでグルーヴを考えて、それによって符割も変わるみたいな。特に「okashi」と「rwy」は、それまでは語尾踏みだけでもいけるなと思っていたんですけど、頭で踏むことをめちゃくちゃ意識して作りました。

――ボツ曲と合格曲の線引きはどういうところにあるんですか?

claquepot:ボツ曲は1曲もないです。次はコレと思って狙って作るので、それを使わないという選択肢がない。だから、今のところ作った曲全部がリリースされています。なんとなく作ってみよう、ということがないので。

――決め打ちの制作方法は楽ですか、大変ですか?

claquepot:これくらいのタイム感が自分的にしっくりきていますね。長くコツコツとこもって作れるほど職人気質でもなく、かといって全部を他人に任せられるほど制作作業に興味がないわけでもない。だから今が一番いい案配かも。

――1曲、大体どれくらいの時間で完成しますか?

claquepot:ベースとなるデモは1日で作っちゃいます。そこからアレンジを誰にお願いしようかと考えて、ちゃんとデモとして完成までに一週間くらいですね。

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