『グラミー賞』ラップアーティスト選定はなぜ賛否両論? 第65回ノミネートから考える、ヒップホップ評価を取り巻く課題
2023年2月5日(日本時間:2月6日)に行われる『第65回グラミー賞』のノミネートが11月16日(日本時間)に発表され、連日話題になっている。毎年どの部門も賛否両論の意見が目立つが、特にラップのカテゴリに対する批判は多く、今年も多くの意見が飛び交っている。この記事では、『第65回グラミー賞』の主要部門のノミネートをおさらいしつつ、グラミー賞におけるラップカテゴリについて考えたい(※1)。
最優秀レコード賞
・ABBA「Don’t Shut Me Down」
・アデル「Easy On Me」
・ビヨンセ「Break My Soul」
・メアリー・J. ブライジ「Good Morning Gorgeous」
・ブランディ・カーライル「You and Me on the Rock feat. Lucius」
・ドージャ・キャット「Woman」
・スティーヴ・レイシー「Bad Habit」
・ケンドリック・ラマー「The Heart Part 5」
・リゾ「About Damn Time」
・ハリー・スタイルズ「As It Was」
最優秀アルバム賞
・ABBA『Voyage』
・アデル『30』
・バッド・バニー『Un Verano Sin Ti』
・ビヨンセ『Renaissance』
・ブランディ・カーライル 『In These Silent Days』
・Coldplay『Music Of the Spheres』
・ハリー・スタイルズ『Harry’s House』
・ケンドリック・ラマー『Mr. Morale & the Big Steppers』
・リゾ『Special』
・メアリー・J. ブライジ『Good Morning Gorgeous (Deluxe)』
最優秀楽曲賞
・アデル「Easy On Me」
・ビヨンセ「Break My Soul」
・ボニー・レイット「Just Like That」
・DJ キャレド Feat. リック・ロス、リル・ウェイン、ジェイ・Z、ジョン・レジェンド、フライデー「God Did」
・ゲイル「abcdefu」
・ハリー・スタイルズ「As It Was」
・ケンドリック・ラマー「The Heart Part 5」
・リゾ「About Damn Time」
・スティーヴ・レイシー「Bad Habit」
・テイラー・スウィフト「All Too Well」(10 Minute Version) (The Short Film)
最優秀新人賞
・アニッタ
・オマー・アポロ
・ドミ&JD・ベック
・ムニ・ロング
・サマラ・ジョイ
・ラトー
・Måneskin
・トベ・ンウィーグウェ
・モリー・タトル
・Wet Leg
ビヨンセが9部門ノミネートされ、夫のジェイ・Zとともに通算88回の史上最多ノミネートアーティストになった。7部門ノミネートのアデルは、「Easy On Me」が収録されているアルバム『30』が34カ国で1位を獲得し、2021年に全米で最も売れたアルバムとなった。6部門ノミネートのハリー・スタイルズ『Harry’s House』は、テイラー・スウィフト『Midnights』に次いで、2022年の最大週間セールス記録を保持している。
多くのファンが注目する最優秀新人賞は興味深いノミネートになっており、ジャズ界の新星であるドミ&JD・ベックが選ばれていることも驚きだ。数年間ジャズファンの間では話題になっていた2人の若手天才プレイヤー ドミ&JD・ベックは、今年アンダーソン・パークの新レーベル<APESHIT Inc.>からデビューしていた。また、ブラジルではすでにトップアーティストであるアニッタがノミネートされていることも興味深い。
毎年ヒップホップファンから賛否両論の意見が飛び交う、最優秀ラップアルバム賞は以下の通り。
最優秀ラップアルバム賞
・DJキャレド『God Did』
・フューチャー『I Never Liked You』
・ジャック・ハーロウ『Come Home The Kids Miss You』
・ケンドリック・ラマー『Mr. Morale & The Big Steppers』
・プシャ・T『It's Almost Dry』
DJキャレドの『God Did』は毎回恒例の豪華なゲストでBillboard 200で1位を獲得し、フューチャーの『I Never Liked You』も彼にとって8枚目の1位となった。ケンタッキー州出身の若手ラッパー ジャック・ハーロウの『Come Home The Kids Miss You』は3位となったが、メディアやヒップホップファンからの評価は振るわなかった。ケンドリック・ラマーの5年ぶりとなった待望の新アルバム『Mr. Morale & The Big Steppers』は大きな話題になり、黒人コミュニティにおける世代を超えたトラウマなどについてラップした内容は大きく評価された。プシャ・Tの『It’s Almost Dry』は、リアルなストリート・ストーリーテリングとプロダクションのクオリティの高さが評価され、プシャ・Tにとって初のBillboard 200の1位となった。