2022.11.23 12:00

清竜人×内田怜央（Kroi）、新しい音楽に挑戦する意義　互いのクリエイティビティへの信頼が生み出す刺激的な表現

文・取材＝森朋之、写真＝堀内彩香

「時代によって違う層の人たちに注目されるのが健全」（清）

ーーアルバム『FEMALE』についても聞かせてください。“原点回帰”を掲げた作品ですが、内田さんの感想は？

内田：大好物ですね（笑）。まず、エレピ（エレクトリックピアノ）の音が全部いい。いきなりエレピの話もどうかと思いますけど、サウンドメイクがとにかくやばいんですよ。音的なコンセプトってあったんですか？

清：コンセプトというか、楽曲に必要な音を妥協することなく入れようとは思ってましたね。打ち込みのほうが良ければそうするし、ベーシックの音、ストリングスなども含めて、録りたいものを録る、作りたいものを作ることを徹底して。もちろんレーベルの協力もあったんですが、そういうクリエイターとしての純粋な気持ちはメンタル的なコンセプトだったし、サウンド面のルールでもありました。

内田：楽器の生感もすごくあるんですよね。最近はある程度の音圧を出さないと（サブスクで聴いたときなどに）他の曲に負けちゃうんですけど、それをやるとどんどん生感が失われてしまう。『FEMALE』は音圧もしっかりあるのに、生感がちゃんとあって。ドラムの部屋鳴りだったり、実際に演奏している感じも伝わってきて、羨ましいです。

清：嬉しい。アルバム自体で言えば、コンセプチュアルな作品というよりも、シンガーソングライターとして1曲1曲を積み重ねて、それをアルバムとして形にしていて。デビューした当時の感覚に近かったし、かなりプリミティブでしたね。

内田：そうなんですね！　楽曲の根底にソウルを感じたんですが、もともとはどんな音楽がお好きなんですか？

清：そこまで深く特定のジャンルを聴いてるわけではなくて、かなり雑食ですよ。中学生の頃までクラシックをやっていて、それはいまだに好きで。あとは父親の影響でジャズやブラックミュージックの素地もありますね。ジョー・サンプル、マーカス・ミラー、ハービー・ハンコックあたりのライブに連れていかれたり。高校以降は自分で曲を作り始めて、国内外のポップスを聴くようになりました。

内田：アルバムを聴かせてもらうとR&B、ネオソウル的な雰囲気もまとっていて。現代的な音楽のエッセンスを感じさせつつ、新しい音楽を作り上げている印象もありました。

清：トレンディな作品にしようとは思っていたんですよ。自分の根底に流れているものも表現しているんだけど、今の時代に出す意味があるもの、若者に響くサウンドも散りばめているので。

ーーアルバムタイトル『FEMALE』については？

清：何だろう……あまりわからないんだけど（笑）、女の子が登場する曲、恋愛の歌も多くて。MVや映画も、女性キャストとの感情の交換を描いたものが多いので、そういう感じになったのかなと。タイトル、難しいですよね。いつもどうしてます？

内田：Kroiはベースの関（将典）さんに考えてもらってます。案を出してもらうんですけど、大体は「それいい！」って満場一致ですね。

清：そうなんだ。

内田：僕からももう一つ聞きたいんですけど、竜人さんのアルバム『MUSIC』（2012年）の世界観、あれは何ですか？

清：だいぶ前のアルバムだけどね（笑）。

内田：そうなんですけど、あのアルバムを再生するたびに「これをやられたら、もう何もできねえよ」って食らっちゃうんですよ。音楽を超えた表現というか、自分もそこまで行きたいという気持ちがあって。あの作品を作ったときの心境、表現に対する考え方を教えてもらえたらなと。

清：あのアルバムに『MUSIC』というタイトルをつけたのには意味があって。10代のうちにシンガーソングライターとしてデビューして、アルバムを3作（『PHILOSOPHY』『WORLD』『PEOPLE』）出して。納得できる作品を作った自負もあったんだけど、そのままピアノ弾き語りのオーセンティックなシンガーソングライター路線を続けたいと思っていたわけではなくて、自分自身にしかできないことをやりたいという気概はずっとあったんです。どこかでデカい花火を打ち上げてやろうと思っていたんだけど、奇を衒うだけなら誰でもできるし、アートと呼べるだけの音楽に落とし込まないといけないなと。『MUSIC』の制作はちょうどアニメやゲーム関係の楽曲提供を始めた頃とも重なっているんだけど、世間的にはジャパニーズカルチャーに注目されていた時期でもあったし、日本ならでのはサウンドとミュージカルを融合させたらどうだろうと思って。さらに清竜人という存在をアイコン化、戯画化して登場させるアイデアを思いついて、アルバムの着想を得たという流れですね。

内田：なるほど。グッドミュージックをやれるのはもちろん、ぶっ壊す精神、音楽で何かをひっくり返してしまうのが、竜人さんのすごいところだと思っていて。そういう精神が、最近の音楽から感じ取れなくなってる気がするんですよ。ただ単に「みんなコレが好きでしょ」みたいな曲ばかりになってしまうのは違うというか。『FEMALE』にも「なんだこれ？」というところがたくさん散りばめられてるんですよね。「みんな気づかないかもしれないけど、ここでひっくり返してるよ！」みたいな。やっぱり芸術家だなと改めて感じました。

ーー『FEMALE』以降のビジョンもあるんでしょうか？

清：どうしようかなと思ってるんですけどね。最近踊ってないから、踊りたいなという感じもあるし。

内田：毎回、進化ですね。自分の美味しいところを見つけて、ずっとそれをやり続けるカッコよさもあるんだけど、それだけで魅力的であり続けるのは難しいと思っていて。実験を続けて、新しいものを生み出すアーティストに惹かれるんですよね、どうしても。

清：常に新しいことをやり続けることで、新しいファンがつくことがすごく大事だと思っています。いま怜央くんが言ったように、同じような音楽を追求してファンと一緒にキャリアを重ねるやり方もあるけど、自分としては若い人にも聴いてほしいし、時代によって違う層の人たちに注目されるのが健全なのかなと。今の若いミュージシャンは、挑戦できる環境があると思うんですよ。機材の進化もあって、それなりのクオリティの音源を自宅で作れるから、新しい才能も出てきやすい。テクノロジーの進化とともに音楽業界が変化するのは世の常だし、素晴らしいことだと思います。

■リリース情報
清竜人 8th Album『FEMALE』
2022.11.30（水）発売
・完全生産限定盤（3CD＋BD＋DVD）：¥12,000税込
予約はこちら

＜アルバム収録内容＞
〈CD1〉
01. フェアウェル・キス
02. コンサートホール
03. If I stay out of life...? (feat. Leo Uchida from Kroi)
04. Love is over... (feat.さらさ)
05. 愛が目の前に現れても僕はきっと気付かず通り過ぎてしまう
06. Knockdown
07. nothing...
08. 離れられない
09. Someday
10. いない
〈Blu-ray〉
清竜人監督映画『IF I STAY OUT OF LIFE...?』全編収録
〈DVD〉
『清竜人弾き語りTOUR 2022』at 草月ホール
〈CD2〉
『IF I STAY OUT OF LIFE...?』Original Soundtrack、全30曲
〈CD3〉
Self-Cover Album『COVER』