Kroi、より多くの人に向けて音楽を発信 『telegraph』で発揮された5人のポップセンスとプレイヤビリティ
Kroiがメジャー2ndアルバム『telegraph』をリリースした。前作『LENS』収録の「Balmy Life」が各チャートで好アクションを記録。さらに「Juden」(ダイハツ「ROCKY-e:smart」CMソング)、「Small World」(ドラマ『しろめし修行僧』OPテーマ)、「Pixie」(「国際ファッション専門職大学」2022年度TVCMソング)などの話題曲を次々と発信、King & Princeへの楽曲提供(アルバム『Made in』収録「Last Train」)など、注目度を大きく上げている彼ら。先行配信された「熱海」などを収めた本作『telegraph』は、ファンク、R&B、ロック、アシッドジャズ、フュージョンなどを奔放に取り入れたバンドサウンド、心地よいグルーヴをたたえたメロディラインなど、音楽の多様性と快楽に満ち溢れた作品に仕上がっている。メンバーそれぞれのプレイヤビリティが発揮されているのも、このアルバムの魅力。独創性とポップネスを併せ持った本作『telegraph』の制作について、メンバー全員に語ってもらった。(森朋之)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】
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「いい気分になれる音楽も作れる」というところを見せたかった
ーーニューアルバム『telegraph』、楽しませてもらいました。聴いていると気分がよくなるアルバムだなと。
内田怜央(以下、内田):よかったです(笑)。確かに自分たちで聴いていても、気分のいいアルバムになったと思いますね。今まではけっこう、天邪鬼なタイプの曲もあったので、このタイミングで「いい気分になれる音楽も作れる」というところを見せたかったというか。
ーー天邪鬼なタイプというのは、あえて鋭い部分を前面に押し出していたということですか?
内田:逆張り的な発想ですね。世の中でいいとされている音楽の逆をやれば、自ずと新しいものになるっていう。安易なところもあるけど、表現としては重要だったと思うんですよ。インディーズから成り上がっていくときは、そういう質感が合っていたので。でも、メジャーデビューさせてもらって、1枚アルバム(『LENS』)を出して。ここでこういうアルバムをリリースすることで、さらに表現の幅を広げたかったんですよね。
千葉大樹(以下、千葉):アルバムとEP(『nerd』)を経て、去年はやれなかったアプローチも取り入れられるようになって。1年前に比べるとかなり成長できているし、制作に対する意識も変わってきたんですよね。今回のアルバムはクリエイションにも納得できているし、完成度も高いと思うので、どういう反応が返ってくるか楽しみです。
ーー千葉さんは楽曲のミックスも担当していますが、具体的にはどんなところに変化を感じていますか?
千葉:個々の音作りとかミックスのやり方とか、いろいろありますね。怜央が作るデモ音源の段階で、かなり音数が増えていて。それを組み立てるためには、細かい部分も磨かないといけなかったんですよね。僕だけじゃなくて、全員のプレイやフレーズからも成長を感じたし、全体的にすごくスムーズな制作でした。
内田:確かに音数は増えてるね。
千葉:音を重ねて迫力を出すというより、奥行きを作ることを意識していて。全員がどういう音像になるか汲み取りながらアレンジしたし、個別に話しながら音を決めて。
関将典(以下、関):アルバムの制作は半年前くらいからはじまったんですけど、新曲はもちろん、これまでのデモのなかから今回のアルバムに合いそうな曲をピックアップしたので、音楽的な幅はかなり広がってますね。『LENS』はわかりやすくファンク、R&Bが軸になってたんですけど、今回はさらにいろんなジャンル、世界観、空気感の曲があって。キャッチーな要素も増えているし、より多くの人を取り込めるアルバムになったと思います。
内田:ジャンルを広げることはめちゃくちゃ意識してますね。現代におけるオリジナルは、何かと何かの組み合わせだと思うし、素材を探したり、「どういうかけ合わせが面白いだろう?」というのは常時考えているので。それを続けていると、どんどん広がっていっちゃうんですよ。
ーー組み合わせ方によっては、まだまだ新しい音楽は作れると?
内田:まだやっていないことはたくさんあると思います。今ある手札というか、好きな音楽やジャンルのなかにも、まだ気づけていないこともあるだろうし。身近な人と話しているときに生まれるアイデアもあるし、永遠に続けられるでしょうね。アーティストは先を予測して、「次はこれが来る」と提示しなくちゃいけないと思うんですよ。(流行やトレンドに)乗るというより、作品を通して、「次はこれだよ」と。その察知能力が高い人がいい作曲家なんだと思います。
関:ちょっと話がズレちゃうかもしれないけど、例えばApple Musicで「空間オーディオ」(曲の要素の配置や移動を3次元空間で行える機能)が使えるようになったじゃないですか。あれを利用すれば新しい聴かせ方ができると思うし、技術の変化によって、作曲やサウンドメイク、プロモーションのバリエーションが増えていくんだろうなと。
ーーリスニング環境の広がりがプレイに影響を与えることもありそうですね。
長谷部悠生(以下、長谷部):そうですね。今回のアルバムに関しては、前作『LENS』以上にテーマや音像を絞り込んでフレーズを決めていて。その分、やれることが増えてきたと思います。あと、ギターソロもけっこうあって。Kroiはもともと各々の楽器がソロを取ることが多いんですけど、これまで以上にそれぞれのキャラクターが感じられると思います。
益田英知(以下、益田):幅が広がったぶん、いかにインプットするかも大事で。さっき千葉が「音数が増えた」という話をしてましたけど、「ドラムはどの帯域にいるべきか」ということも曲ごとに考えてましたね。ただ単にいい音で録るだけではなくて、他の楽器とのバランスを意識しながらレコーディングやミックスができたのは前作との違いかなと。
Kroiの思い出も詰まった「熱海」
ーーなるほど。先行配信された「熱海」も新鮮でした。ここまでポップに振り切った楽曲も、これまでなかったような気がします。
関:「熱海」はもともと、怜央がボツにしようとしていた曲なんですよ。休憩中にポロッと「こんな曲も作ってて」って聴かせてくれて。それで「こんないい曲、ボツにするのはもったいないよ。録ろう」ということになりました(笑)。アルバム『LENS』の後に出したEP『nerd』、配信シングル「Small World」「Pixie」はガッツリ力が入っていたから、ちょっと肩の力が抜けた方向性も見せておきたくて。
内田:みんなが「熱海」をレコーディングしようと言ったのは、めちゃくちゃ意外でしたね。一人で作っているときは楽しかったんですけど、「Kroiでやる曲じゃないな」と思ってたんですよ。でも、「明るい曲が欲しいよね」という話になったときに、なんとなく聴かせてみたら「いいね」って。このバンド、やべえなって思いました(笑)。
ーーポップでいい曲ですからね。どうして内田さんは、この曲をボツにしようと思ったんですか?
内田:何だろう? 一人で曲を作っていると、さじ加減がわからなくなることがあって。「熱海」はまさにそういう曲かなと思ってたんですよね。
長谷部:今までになかった感じの曲だし、すごく新鮮でしたね。
千葉:うん。すぐに「いい曲だな」って。
益田: 最初は「軽っ!」って思いましたけどね(笑)。こんなに素直な感じの曲はやったことがないなと。
関:歌詞も面白いんですよ。〈海鮮丼〉とか(笑)。
長谷部:(笑)。この曲、伊豆で合宿レコーディングしたんです。光が差し込んでくる開放的なスタジオで気持ちよく演奏して、MVは熱海で撮って。俺らの思い出も詰まってます(笑)。
千葉:楽しかったよね(笑)。
内田:みんなが背中を押してくれました(笑)。深みのある曲にしようなんて全然考えてなくて、とにかく希薄な感じにしたくて。もともと熱海が好きで、熱海の曲を作りたいなと思ってたので、形になってよかったです。
関:MVを撮ってるときも、「この歌詞は、この川のことだよ」って教えてくれて。リスナーのみなさんもぜひ、この曲を聴きながら熱海の街を歩いてみてほしいです(笑)。