秋山黄色、新曲「SKETCH」で描く“身近な他者”の存在 『僕のヒーローアカデミア』のキャラクターも連想させるEDテーマ

 今年3月には充実の3rdアルバム『ONE MORE SHABON』を発表し、その後、地元・栃木での初のホールワンマンや全11公演のツアー『一鬼一遊 TOUR Lv.3』を開催。夏には全国のフェスやイベントに積極的に出演しつつ、デジタルシングル「ソーイングボックス」をリリース。さらに10月には大阪・東京でのホール公演『一鬼一遊 TOUR Lv.4』を行うなど、勢いを落とすことなく活動を続ける秋山黄色から新曲「SKETCH」が届けられた。

秋山黄色『SKETCH』

 「SKETCH」は、11月23日にリリースされる同名シングルからの先行配信曲で、アニメ『僕のヒーローアカデミア』(読売テレビ・日本テレビ系)第6期のエンディングテーマとして制作された。J-POPシーンの真ん中に投げ込む王道バラードという意味では、1stアルバム『From DROPOUT』収録曲「モノローグ」(ドラマ『10の秘密』主題歌で、秋山にとって初の書き下ろし曲)でのトライを彷彿とさせるだろう。しかし“1番になかった展開を2番に用意する”という得意の手法をあえて避けるような構成から、「モノローグ」とはまた違う課題意識を持って制作された曲だと想像できる。ピアノやストリングス、デジタルサウンドを取り入れつつ、メロディやリズムの一つひとつをパズルのように噛み合わせた緻密でクラシック的なアレンジも、低音の鳴りに重きを置いた音像も聴き応え抜群だ。

 『僕のヒーローアカデミア』は、総人口の約8割が“個性”と呼ばれる超常能力を持つ世界を舞台にした物語。社会の平和を守る職業・ヒーローと敵(ヴィラン)と呼ばれる犯罪者が二大勢力として描かれていて、主人公の緑谷出久はヒーロー育成校に通う高校生だ。幼なじみの爆豪勝己をはじめとしたクラスメイトや、緑谷の師でもあるかつてのNo.1ヒーロー・オールマイトをはじめとした教師陣、プロヒーローや一般市民など、様々なキャラクターが物語を賑わせる。

 作中一貫して描かれているのは、正義と悪は表裏一体であるということ。彼らの属する社会ではヒーローは正義、敵(ヴィラン)は悪として扱われるのが一般的だが、自分の信念に基づいて行動しているという点ではヒーローも敵(ヴィラン)も同じであり、同等の暴力性を有する。また、キャラクターの回想シーンなどを通じて、人の価値観とは出生の背景や生まれ育った環境から構築されるものだと語ることで、ヒーローになるか、敵(ヴィラン)になるかはボタンの掛け違い程度の些細な差であると示唆している。緑谷はその“些細な差”を誰よりも理解している人物で、だからこそ、敵(ヴィラン)連合のリーダーであり、巨大な力を手に入れた青年・死柄木弔のことさえも救おうとする。秋山がエンディングテーマを担当した第6期はヒーローと敵(ヴィラン)の全面戦争がメインテーマで、幼少期の凄惨な記憶を取り戻した死柄木の覚醒や、彼の暴走を止めようとする緑谷らヒーローの奮闘が描かれている。人の死など、つらいシーンも多い。

 正義と悪を扱った秋山の曲といえば、『ONE MORE SHABON』収録の「アク」が思い当たる。〈あんたが散々正しかろうと/反対も大概逆も悪も無いよ/人の手さ〉、〈罪と罰なんてな 「何処にいるか」だね〉とあるように先述の表裏一体性をまさにテーマにした曲で、秋山と『ヒロアカ』の親和性は高そうだ。そのため、秋山がエンディングテーマを担当すること自体は意外だとは思わなかったが、とはいえもう一度同じテーマで曲を書くとは考え難い。では、今回はいったいどんな曲を書き下ろすのか。一人の『ヒロアカ』ファンとしてはそこに注目していた。

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