RADWIMPS、なぜ歌詞に“心臓”が多く使われる? BUMP OF CHICKEN、サカナクションら音楽性を示す頻出ワード
キャリアが長くなると、連なるディスコグラフィーの中で作家性が浮かび上がってくる。特に同じメンバーが作詞を手掛ける場合、そのバンドが持つ作家性は克明になるものだ。本稿では、歌詞の頻出ワードを元に、そのバンドごとに大切にしているものは何か、を考えてみたいと思う。
まず、取り上げたいのがRADWIMPS。フロントマンの野田洋次郎は歌詞において独特のフレーズ展開を行うことが多く、センセーショナルなテーマにも積極的に切り込んでいく、作家性の強いアーティストだ。そのため、どの楽曲を聴いても特徴的なワードを発見するのだが、その中でも“心臓”というワードが楽曲内で象徴的に登場している。 新海誠監督の最新作『すずめの戸締まり』の主題歌「すずめ feat.十明」でも、〈心の臓〉というワードが登場しているし、映画『余命10年』の主題歌「うるうびと」でも、〈心臓〉が登場する。他にも「オーダーメイド」や「有心論」(“心臓”ではなく〈左心房〉)など、バンドを代表する楽曲でも、“心臓”やそれに関するワードが登場している。
なぜ、“心臓”というワードが象徴的に登場するのだろうか。
考え方はいくつかあるが、心理的な描写をするうえで“心臓”が象徴的に登場しているように思う。というのも、野田洋次郎は内面の描き方として、臓器や血液といった具体的な描写を行うことが少なくない。例えば内面を“心の中”のような言い方にはせず、ダイレクトに〈心臓〉といってみせる。内面や感情という目に見えないものの描写を、具体性のある言葉で表すことで、歌詞のリアリティやメッセージを鋭く表現しようとしているのではないか。そう考えたとき、臓器の全ての源でもある“心臓”を象徴的に登場させるケースが多いのは、必然のようにも感じる。
同じく内面描写を得意としているバンドであれば、BUMP OF CHICKENの名前も挙げたくなる。フロントマンである藤原基央の場合、心理描写を行う際に、“星”や“天体”、あるいは“宇宙”などをモチーフに使うことが少なくない。また、“世界”というワードを身近かつ素朴なものとして描くことも多いが、これら以外にもBUMP OF CHICKENの楽曲内の頻出ワードはいくつか存在している。
例えば、“約束”もそのひとつだ。「クロノスタシス」や「シリウス」のような近年の楽曲でも登場するし、「カルマ」や「車輪の歌」、「ゼロ」「三ッ星カルテット」など、世界観が異なる楽曲でも〈約束〉というワードが登場する。BUMP OF CHICKENの楽曲は内面の描写が多いため、目に見えないものを歌詞で描くこと、楽曲内の登場人物の所在が判明しないこともある。その中で、〈約束〉というワードが登場人物の距離感や関係性を映し出すケースもよく見られる。二人の親密性を描く場合は、“約束”が必要ないものとして描かれ、時間の経過の中で関係性が変わってしまった場合は“約束”は交わされたが果たされなかったものとして描かれる。目に見えないものを丁寧に扱い、表現するBUMP OF CHICKENだからこそ、“約束”という一つの言葉にも多様な解釈が生まれるのだろう。