森七菜、まっすぐに歌声響かせる堂々とした姿 観客とコミュニケーション交わした待望の初ワンマン

 2022年9月、森七菜のワンマンライブ『もりななLIVE 2022「㐂〜よろこび〜」』が、地元・大分と東京で開催された。映画『ラストレター』の主題歌「カエルノウタ」で歌手デビューを果たしてから約2年半。これまでテレビの音楽番組や生配信などでのパフォーマンス経験こそあったものの、ワンマンライブの開催は今回が初めて。彼女はライブの場を通して直接ファンとコミュニケーションする機会を切望しており、それ故に今回のライブは、気合いの入った渾身のステージとなった。本レポートでは、9月27日に池袋のharevutaiで開催された東京公演の模様を振り返っていく。

 1曲目は、新海誠監督が作詞を手掛けた「背伸び」。イントロなしで、森の清廉な歌声がスッと響き渡るライブの幕開けに、思わず息を呑んだ。拳を力強く握りしめながら歌う姿からは多少の緊張が伝わってきたが、一方で、歌唱中に時おり見せる等身大の笑顔がとても眩しい。何より、サビにおけるまっすぐなロングトーンがとても美しかった。

 「元気ですかー! よろしくお願いします!」という弾けるような挨拶と共に幕を開けた2曲目は、彼女にとって名刺代わりの1曲である「スマイル」(ホフディランのカバー)だ。歌い始める直前まで、ステージの縁ギリギリまで近づいてファンとコミュニケーションする姿がとても印象的で、彼女がこの日を心の底から待ち侘びていたことがヒシヒシと伝わってきた。

 続く、コレサワが作詞作曲を手掛けた「君の彼女」では、ピンクとミントグリーンを基調とした映像演出と照明に彩られながら、とびきりキュートな歌声を届けてくれた。曲の展開に合わせて、ため息を入れたり、アンニュイな表情を見せたりするなど、コレサワが描き出したガーリーな主人公を歌声を通して演じていくかのようなライブパフォーマンスが見事だった。

 絵本作家の荒井良二が作詞を手掛けたカントリー調の「ロバとギターときみとぼく」では、体全体でビートを感じながら、その力強いバンドサウンドに負けないように丁寧に言葉を届けようと歌う姿が印象的だった。きっと、彼女が敬愛する人たちから送られた大切な楽曲だからこそ、そこに込められた繊細なニュアンスまで含めて余すことなく表現しようとしているのだろう。その歌手としての誠実な姿勢に強く胸を打たれる。また、「深海」において、Ayaseによる複雑なメロディをしっかり乗りこなしながら歌う姿も、とても頼もしかった。

 前半のハイライトとなったのは、森田童子「ぼくたちの失敗」のカバーだった。同曲に入る前のMCで、映画『ラストレター』の撮影時期に制作陣と行った食事の場で、岩井俊二監督から「カラオケで何か歌ってみて欲しい」というオーダーを受けてこの曲を歌った、というエピソードが明かされた。その歌唱が岩井監督をはじめとした制作陣の心を掴み、森にとっての歌手デビュー曲となった映画主題歌「カエルノウタ」が制作された、という経緯があり、つまり「ぼくたちの失敗」は、彼女が歌手として活動し始めるきっかけとなった原点の曲である。かねてより、ファンから同曲を歌ってほしいという声が多数寄せられており、ついに今回のワンマンライブでそのリクエストに応える形となった。ガラス玉のように透明に澄み切った静謐な歌声が儚い響きを放っていて、改めて、彼女が秘める歌手としてのとてつもないポテンシャルを感じた。

 一転して、続くMCパートでは、前のめりな姿勢で観客とコミュニケーションを取っていく。「お客さんと少しでも距離を詰めたい」と本人が語っていたように、時間の許す限り、一人ひとりの観客と目を合わせながら手を振ったり、観客が持参したメッセージパネルやうちわに書かれた「でっかいハートつくって」「ガン見して」といったリクエストに全力で応えたりといったように、とにかくアグレッシブな姿勢を見せた。ステージ上から最後列の観客の顔を認識できる規模の会場だったので、おそらく多くの観客が、目が合ったり、リクエストに反応してもらったりといったように、森と直接コミュニケーションできた実感を得ることができたはず。それは他でもない彼女自身が、誰よりも今回のライブの機会を切望し続けていた証なのだと思う。

 クールなポエトリーリーディングが冴え渡った「Lovlog」に続けて披露されたのは、この日のライブにおける一つのハイライトを担ったデビュー曲「カエルノウタ」であった。約2年半前にリリースされた音源では、繊細な歌声がイノセントな響きを放っていて、それはもちろん今も変わっていないが、今回のライブにおいては、力強いバンドサウンドの中で埋もれないどころか、むしろその中で鮮烈な光を放つような芯の強さを感じさせる歌声を披露してくれた。この約2年半における様々な人との出会いや新しい経験が彼女自身の成長に繋がり、そうした変化が今の歌声に反映されているのだろう。これまでの彼女の懸命な歩みがたしかに伝わってくるような名演だった。

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