連載「lit!」第16回:Guiano、子牛、もちづき、まるらぴ、Zeeka……『無色透名祭』盛り上げたボカロの夏曲
「夏」はボーカロイド楽曲のテーマとしてよく用いられてきたが、今年も夏にまつわるボカロ曲が多く投稿された。また、今年は匿名動画投稿イベントの『無色透名祭』が7月に開催。同イベントでは、イベントアカウントから楽曲が投稿され、タイトルとボーカル以外の情報がないまま制作者の知名度や素性を問わず楽曲を楽しむことができる。白背景に黒文字、タイトルのフォントまで指定された匿名性の高い動画に合わせた多彩な楽曲がアップされた。イベント終了後まもなく2カ月が経つが、楽曲の制作者本人によるMVが付けられたバージョンの投稿も続いている。そんな今年の夏にリリースされたボカロ曲を紹介する。
「鳥 (feat.可不)」Guiano
ゆったりとしたテンポ感と同じ言葉が繰り返される歌詞、短い単語でさりげなく踏まれる韻が心地いい楽曲。Aメロをアレンジしたような旋律で構成されるBメロの後半、〈嘘を吐くのだろう〉でメロディが上昇し爽やかにサビに突入するのかと思いきや、一瞬別の音声ソフトを使ったのではと思うほど印象の異なる低音で〈馬鹿みてえ〉〈だけど言えねえ 前も見えねえ〉とリズミカルに繰り返す。突然のダウナーな展開にもかかわらず、そこに冷笑するような、あるいは攻撃的なニュアンスは見当たらず、可不の歌声からは無表情を感じる。それもリズムのいい譜割りを強調するようで、穏やかな気持ちよさすらある。
どのセクションも音数は決して多くないが使っている音色はその都度大胆に変化していて、シンプルな曲調にも関わらず動きがあるのも魅力的。低い可不の声色に通じるような、終盤のくぐもった音色のギターソロも落ち着いていて、一貫して聴き心地がいい1曲だ。
「海のサーチライト / 初音ミク」子牛
「生臭そうな曲を創りました」。ニコニコ動画の概要欄にはそんな本人コメントが書かれているが、海にまつわる言葉が次々と流れ込んでくる歌詞からはこれ以上ないほど海の匂いを感じる。ボーカロイドをはじめ音声合成ソフトを使った曲には、人間が歌うことを想定しないことで気が軽くなるのか、自由な言葉選びによるユーモラスな楽曲も少なくない。まさに「海のサーチライト」はそんな子牛のセンスが炸裂した楽曲だ。
Aメロの序盤から〈脳裏に焼き海苔 乗り込んでノリノリ〉と「脳裏」「海苔」「乗り」「ノリ」と隙のない言葉遊びが広がり、Bメロでは〈海藻回想買いそうだ回送で向かいそう〉と歌詞のほとんどが言葉遊びになっているという徹底ぶり。遊び心満載の緻密な歌詞だが、カッティングギターが率いる疾走感のある曲調は歌詞の語呂の良さもあり爽快で、メロディの気持ちよさやトラックの疾走感含めて癖になる。