菊地成孔による新バンド・ラディカルな意志のスタイルズ 初ライブで示した“反解釈”というコンセプト

菊地成孔、新バンド初ライブレポ

 菊地成孔による新バンド“ラディカルな意志のスタイルズ”のデビューライブ『反解釈0』が、ジャン=リュック・ゴダール逝去の翌日(2022年9月14日)、東京・WWW Xで開催された。

 2021年4月にDC/PRGを解散させた菊地成孔が新たなバンドを立ち上げた。バンド名の“ラディカルな意志のスタイルズ”はアメリカの評論家/作家であり、リベラルな批評で70年代以降の世界に大きな影響を与えたスーダン・ソンダグの著作名。ライブのタイトル“反解釈”も同じくスーダン・ソンダグの著書の名前である。

 このバンドの“立ち上げ声明”で菊地は、「<インストルメンタルのダンスミュージック>、以上の説明がつかない」「今まで組織してきた運動体の中でも、最も「今、社会に必要なものは何か?」という、一種の社会主義に1番法っている」と記している。デビューライブに参加したのは、菊地(ss, perc)、林正樹 (pf)、松丸契 (as)、秋元修(Dr)、北田学(b-cl)、Yuki Atori(Ba)、相川瞳(vibraphone, perc)、ダーリンsaeko(perc)、すべての楽曲を菊地とともに制作したアリガスもメンバーの一員となる。衣装、グッズ、バンドロゴのデザインなど、ビジュアルはすべて服飾ブランド「HATRA」が担当。この日もメンバー全員、「HATRA」のコスチュームとイヤーカフでステージに立った。

「こんばんは、戦後最悪の東京へ」「お客さんに騒がないように言ってくれ、と言われた。長く音楽を演奏する仕事をしてきたが、フロアがこんなことになるとは夢にも思わなかった。声を出してはいけないらしい。踊ってもいけない。ついでだから拍手もやめようじゃないか」「曲が終わってもじっとしている。それはおそらくすごい拘束感。それはしばらくすると、必ず気持ちよくなってくる」「よろしくおねがいします。“ラディカルな意志のスタイルズ”です。最後までごゆっくり、お苦しみください」

 冗談とも本気ともつかない口上からライブはスタートした。1曲目(音源は一切発表されていないので曲名はわからない)は緻密に構築されたアンサンブル、エキゾチックかつ官能的なホーンの旋律を軸にした楽曲。DC/PRGに通じる構造の楽曲だが、醸し出す雰囲気は明らかに異なる。

ラディカルな意志のスタイルズ(写真=林直幸)

 以下、見たこと、聴いたこと、気づいたことを列挙する。

・緻密なポリリズムを軸にしたアレンジの曲はDC/PRGを想起させるが、高揚感や祝祭感は抑えられている。

・前衛的にしてスキルフル、しかもポップな楽曲もあり、ティポグラフィカ(ギタリストの今堀恒雄、菊地を中心にしたインストバンド。97年解散)のテイストも感じられた。

・唯一、楽曲名が明かされたのは「折りたたみ北京」。これも本のタイトル(『折たたみ北京 現代中国SFアンソロジー』/ハヤカワ文庫)

・スティーブ・コールマン、立花ハジメの楽曲のカバーも(たぶん)。

・途中、菊地が「拍手していいですよ。冗談です、冗談」と言い、フロアの空気が緩み、少しずつ踊り出す客が増える。筆者の近くの女性はときどき痙攣的に笑っていた。

・菊地はステージのやや上手側に立ち、客側に顔を向けてバンドを指揮(DC/PRGでは背中を向けていた)。担当する管楽器はソプラノサックスのみ。あとはパーカッション。ピアノ、ベースなどのソロ演奏のとき、“やべえな”という感じでニヤニヤしていた、のはいつもと同じ。

ラディカルな意志のスタイルズ(写真=林直幸)

・ハイライトというべき楽曲は、菊地がテキストを朗読しながら演奏された。テキストの主題は<長い言葉を略すという行為は、ウクライナ戦争後の世界で、まずは生理的に、次に倫理的に、最終的には法的に規制されます。危険性があるからです>。最後の<とは言えしかし、長い言葉の省略行為は、あるとき自然に、燃料が切れた機関車のように停止するのか? しません。それを止めるには禁止するしかない。すなわち、今から省略を禁じる。ジャン=リュック·ゴダールへ>というフレーズに対しては、さすがに大きな歓声と拍手が巻き起こった。

・ライブ終盤に差し掛かるとバンドメンバーもリラックスしはじめ、高度なスキルとプレイヤビリティを発揮。個人的には相川のビブラフォンに惹きつけられた。

・本編ラストのホーンセクションは、カタルシス感たっぷり。この曲だけでもまずは音源化してほしい。

・アンコールはマイケル・ジャクソンのカバー。フィーチャリング・ボーカルとしてBANDERASの萩谷嘉秋が登場。

・演奏時間はジャスト2時間。「時間通りに終われたことがないので、それだけですごいうれしい」(菊地)

・グッズとして販売されたTシャツは袖が長めのデザイン。オーバーサイズで着るのがおすすめ。

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