まらしぃ、待望の全国ツアーへ コロナ禍を経て変化したリアルのライブに対する意識

まらしぃの中で変化したライブへの意識

 2021年3月、日本武道館にて前代未聞のピアノ1本での単独公演『marasy piano live in BUDOKAN』を行なった音楽家、まらしぃ。技巧派ピアニストでありボーカロイドプロデューサーであるネット世代を牽引するハイブリッドな存在だ。

 2022年夏には、演奏曲すべて『東方Project』(弾幕シューティングゲーム)のカバーというワンマンツアーを成功。東京公演は、クラシックの名門・サントリーホールで開催された。そして、2022年12月3日からは長野まつもと市民芸術館を皮切りに待望の全国ツアー『marasy piano live tour 2022-2023』がスタート。ベスト選曲が期待される最新ツアーである。

 そもそも、まらしぃとはピアノでカバー曲を披露する“弾いてみた”カルチャーの開拓者であり、YouTubeチャンネル登録者数は186万人を突破。ボカロ文化圏、ピアノ文化圏、アニメ文化圏、ゲーム文化圏、同人文化圏を横断し、昨今では、自身主催のフェス『まらフェス』の開催、大人気リズムゲーム『プロジェクトセカイ』へのオリジナル楽曲の提供などでも知られている。

 なぜ、まらしぃは文化や世代を超えて愛されているのか? 顔出ししない本人へのインタビューにて紐解いていきたい。(ふくりゅう/音楽コンシェルジュ)

リアルでのライブの大切さをあらためて意識するようになった

まらしぃ(写真=Subcul-rise Record)
(写真=Subcul-rise Record)

——先月8月21日、クラシックの殿堂であるサントリーホールでの東方曲オンリーでのコンサート、感動しました。

まらしぃ:サントリーホールは、ピアノを演奏する人であれば目標であり、憧れのステージだったので感慨深かったです。自分は、いわゆるクラシック王道の路線ではないので、サントリーホールの舞台に立てたことの重みを強く感じました。

——音楽文化は進化し続け、継承され、アップデートすることで今があると思うので、令和時代の音楽を語る上で、まらしぃさんがサントリーホールのステージに立たれたことはとても意味があることだと思います。アレンジも攻め攻めでしたよね。

まらしぃ:サントリーホールが京都、名古屋からの3公演目だったので、よりチャレンジできました。

——あらためて、東方曲をピアノで演奏されてみて発見はありましたか?

まらしぃ:どの曲も大好きなんですよ。でも、やっぱり一番弾きたかったのは、最後に演奏した「ネイティブフェイス」ですね。

——弾幕シューティングゲーム『東方Project』を代表する楽曲です。

まらしぃ:学生時代にこの曲を弾いてみたことから、まらしぃという活動が始まりました。それこそ、中学生の終わり頃に辞めていたピアノを再開するきっかけになった曲なんです。それをクラシックの殿堂であるステージで演奏できたのは嬉しかったですね。あらためていい曲だなって。

——ああいう場で演奏するのは、やはり緊張しますか?

まらしぃ:しますよ(苦笑)。最初の曲が終わるぐらいまでは緊張しますね。

——クールでかっこいい佇まいで、緊張しているようには感じなかったです。

まらしぃ:もちろん、リハーサルはやるんですが、本番で1曲目を弾き始めて、「ああ、今日はこんな感じか」ってわかるんですよ。確認できると、ちょっと安心ができるんです。

——なるほど。2022年12月3日から年をまたいでの全国ツアー『marasy piano live tour 2022-2023』が始まります。振り返ってみると、2020年に大阪城音楽堂でまらしぃさん主催の『まらフェス2020』がコロナ禍の影響で残念ながら中止となり、代わりにオンラインライブが行われました。そして、翌年3月に日本武道館公演、今年6月に『まらフェス2022』を日比谷野外大音楽堂で開催してリベンジされたというここまでのストーリーがあります。

まらしぃ:ライブは多くの協力者が必要で、なかなか気軽にできるものではないのでパンデミックの影響で『まらフェス2020』が中止となったのは大きかったです……。楽しみにしてくれていたお客さん、アーティスト、スタッフがいたので……。

——心揺さぶられますよね。まらしぃさんのリアルのライブへのこだわりを強く感じます。

まらしぃ:最近は特に強いかもしれません。コロナ禍になってから、東京での収録の現場やライブなどがすべて止まってしまい、2カ月ぐらい無職の期間があって。もともと僕はインターネットの動画サイトから配信でスタートした人間なので、時間があるなら配信をやろうかなと途中から気持ちを切り替えました。2日に1回は配信をして、『まらフェス』のオンラインライブもその流れからだったんです。

——なるほどね。

まらしぃ:今でも、週に2、3回は配信を続けていて。そこから知ってくださった方が多いんですよ。

——僕の息子(15歳と11歳)もそうですね。配信をよく観ています。

まらしぃ:嬉しいですね。そんな方々の中には、僕が以前ライブツアーをやっていたことを知らない人も多いんですよ。なので、日比谷野音での『まらフェス2022』や先日の東方曲だけでのライブで初めて生音でピアノのライブを体験してくれた方がけっこういて。何気なく時間ができたので配信をやってましたけど、そういう新しい方々にライブに来ていただくきっかけにもなったのは嬉しかったです。もちろん配信も好きなんですけど、できない期間があった反動もあってリアルでのライブの大切さをあらためて意識するようになりましたね。

——一期一会な感覚ですよね。

まらしぃ:本当にそうなんですよ。次いつライブができるかわからない、みたいな。

——今年の夏フェスでも、様々なアーティストが残念ながら出演をキャンセルされていました。

まらしぃ:ライブができることの大切さが身に染みています。

——生ライブの付加価値は確実にあがっていると思いますね。また、『まらフェス2020』が中止になってしまった後に『シノノメ』とタイトルされたオリジナルアルバム2作品がリリースされました。こちらも時間をかけてしっかり制作された重要アイテムです。

まらしぃ:kors kさんにアレンジしてもらった「シノノメ」という曲がきっかけで、いつか作ってみたいと思っていた「雨」をテーマにしたアルバムになりました。「雨」がどこからやってきたかというと自分が雨男だから。ライブのとき「雨降ったらごめんね」みたいな(苦笑)。でも、当時は緊急事態宣言など先が見えない状況でしたし、「晴れたらいいね」という気持ちを込めています。時間はたくさんあったので、ボカロ盤とピアノ盤の2バージョン作ることもできました。じっくり腰を据えた作業ができましたね。

シノノメ(Shinonome)/ まらしぃ feat.初音ミク(Hatsune Miku)
シノノメ(Shinonome)/ まらしぃ(marasy)

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