浪漫革命、全員主役だから鳴らせる柔軟で真摯なポップス バンドの現在地や音楽シーンへの素直な想いも語る
プロデューサー目線も持ったプレイヤーへの成長
ーー2番なので藤本さんの歌詞かと思いますが、〈僕らここに いたしるしを お互いにつける〉という言葉が出てきたのはどうしてなんですか。ここもすごく人柄の出た歌詞ではないかなと思いました。
藤本:僕もすごく気に入ってます。〈しるし〉って心の傷のことなんですけど、人って自分の存在をわかってほしいから誰かを傷つけてしまうんだと僕は思っていて、傷つけ合うのは相手と関わり合おうとするからなんじゃないかと。でも1回傷つけ合った人たちは、次はもっと違う存在の示し方ができるようになるから、傷は心の思い出になるーーそうやって印をつけ合うことができるんじゃないかと思って書きました。
ーーそれは「ひとり」という曲に何を感じたから書けたんだと思います?
藤本:最初に聴いたとき、サビの歌詞がすごくいいなと思って。〈きっといつか優しくなれるから〉ということは、今はまだ優しくないと思っているんだなと感じて、これから傷つけ合ったり、人と触れ合う経験を通していつか優しくなれる、誰かと繋がれるんじゃないかと思って出てきた歌詞でした。それも1番の〈僕が僕で いれた理由は 目の前にある〉という歌詞と対になっていて、その相手と何があったのかを歌っているのが〈僕らここに いたしるしを お互いにつける〉なので、1番と2番で同じことを違う言い方で書いてる感覚ですね。
藤澤:歌っていても一度で2回おいしい曲なんですよね。1番が奏太くんで、2番がふじぴーさんだけど、僕が歌うことで“ひとり”が考えたかのようにまとまって聴こえたら嬉しいなと思っています。ソロで歌っても楽しいけど、バンドで歌う意味はそういうところにもあるのかなって。しかも、そこに絡んでくるTOYさんのドラムがめちゃくちゃTOYさんっぽいんですよ。歌詞もメロディもリズムも全部揃って、バンドだなって感じられる曲ですね。
ーー「ひとり」もそうですし、浪漫革命の多くの曲に共通して言えるのが展開の面白さですよね。聴き始めと聴き終わりで、曲の印象がガラッと変わるような演奏というか。
大池:展開多いですよね。
TOY:さっき、初期に比べてバランス感覚がよくなってきたという話がありましたけど、それはみんながよりプロデューサー目線のプレイヤーになってきていて、曲をどう構築していくかという視点がだいぶ磨かれてきたからなのかなと。「ここは引っ込めたほうがいい」とか、「クライマックスに向けてどうやって盛り上がっていこうか?」みたいな5人の考えが1つの物語のなかで反応し合って、ごちゃごちゃするのではなくグッとくるものになってきているのかなと思います。
ーーTOYさんは5人のなかでの役割をどう感じていますか。
TOY:僕は誰かが持ってきてくれたデモを広げる役割なんですけど、いつもその曲に引き出されているような感覚です。完成したどの曲を聴いても「同じようなフィルを叩いているな」って思うことはなくて、曲によっていろんな引き出しが開くことが自分でも面白くて。そこに普段のインプットがうまく組み合わさると、より面白いことができたなって思えます。とはいえフレーズはそんなにスムーズに決まらないので、作曲したメンバーと一緒にスタジオに入ったときに、微妙な違いのものを聴き比べてもらったりとか。
藤澤:いつもたくさんアイデアを考えてきてくれて、シンプルに嬉しいんですよね。「好きなように叩いちゃってくださいよ!」って思うんですけど、そう言うと「いや、どっち!?」って怒られるので(笑)。そこが素敵なところ。
TOY:一応自分なりの正解を出したいと思ってるから。迷惑かけてます(苦笑)。
藤澤:いや、マジでTOYさんの叩くフィル大好きですよ。個人的に「ベイベ」の最後がカッコよくて。最初は曲の前半でも使っていたんですけど、TOYさんがいろいろ考えて、曲の最後に持っていったんです。でも聴けば聴くほどそこで鳴るのがカッコいいし、TOYさん最高やなって思いました。ベースとドラムのグルーヴ力も全然違う気がしますね。
TOY:リズム隊の2人でスタジオに入って仕上げたりすることも増えたから、1st、2ndよりもっとお互いのカッコよさを引き出し合えたのかもしれないです。
「最高だと思う人同士が、和気あいあいと音楽をやれる世界になればいい」
ーー確かに、冒頭からグルーヴでかなり掴んでくるアルバムでもありますよね。
藤澤:1〜2曲目の楽器の絡み合いがめちゃくちゃ綺麗だなと思います。ベース、ドラム、ギター、どれも一切の無駄がなくて!
後藤:僕も1曲目「そっとぎゅっと」のギターがすごく好きですね。浪漫革命はアコースティックっぽい音像がやっぱり合うなと。最初は初期のユーミン(荒井由実)みたいな、アコースティックだけど疾走感がありそうなイメージで、Bメロ以降は山下達郎さんとか吉田美奈子さんあたりのギターサウンドを意識して弾きました。少しシティポップっぽい感じというか。それこそプロデューサー視点で、ギター単体で見るのではなくて、全体でどういう曲にしたいかを考えたアレンジがうまくマッチしたなと思います。
藤澤:ブラックミュージックが好きで集まってるメンバーでもあるので、その感性を取り込みつつ、ジャンル問わず幅広い人に「いいね」と思ってもらえるような曲を生み出せたのは嬉しいですね。
ーーまさしくソウルフルなポップスとしての強度が高まったアルバムだと思います。先ほどは現状に満足していない声も上がりましたけど、バンドとして『ROMANTICA』の先も見据えているんじゃないでしょうか。藤澤:……ちょっと話の趣旨がズレますけど、僕は音楽業界のシステムが変わったらいいなってよく考えていて。というのも最近、バンドマンの友達が急に亡くなっちゃったりしてすごくショックだったんですけど、会社員みたいに健康診断に行っていれば防げたんじゃないかと思うんですよね。もちろん、バンドマンで健康診断に行ってる人は少ないと思うんですけど、大それたことを言うなら、そういう基本的なところから変えていきたい。物価が上がって売れているアーティストのチケット代は上がっていきますけど、僕らの後輩たちは、チケット代を上げることにすら考えが及ばないバンドも多いんです。でも、食べ物とかの物価が上がるなかでチケット代が一定だったら、実質的な価値は下がってることになるじゃないですか。せっかく音楽が好きな人がこれだけいっぱいいる世の中なんだから、アーティストの規模感次第で格差が広がるんじゃなくて、もうちょっと音楽を楽しくやれる環境が整えばいいのになって思います。
ーー音楽面でコラボするとかそういった交流だけじゃなくて、もっと根本的なところでコミュニティとして繋がり合うような感覚ですよね。それはネット上で簡単にコラボレーションが成立する時代において、バンドであることの強みであり、課題なのかもしれません。
藤澤:そうですね。YouTuberの岡田さんと話していていいなと思ったのは、バンドだと上下関係が密なことが嫌な人もいるかもしれないけど、助け合いがしやすくなったりして、いい面もたくさんあるじゃないですか。そういうことがもっと音楽業界でも起こって、自然な流れで、最高だと思っている人同士が和気あいあいと音楽をやれる世界になっていけばいいなと。特にコロナ禍でライブができなくなると、一番しんどい思いをするのは貯蓄のないバンドマンたちなんです。それで活動が止まった人もたくさんいましたし、僕たちもどうすればいいかわからなくて、かといって今の年齢からバイトに明け暮れるっていうのも切なくて。もっと衒いなく能動的に手を取り合ったりしながら、みんなでいい環境を作りたいなって考えた末のアルバム制作でした。
マネージャーやレコード会社の担当者みたいな人たちは、若手アーティストを育成をしている時点で、ちゃんとフックアップする文化が強いと思うんですよね。自分の好きなアーティストやバンドに売れてほしいと願うから、身を尽くして仕事できるというか。そういう愛は、アーティスト同士のマインドのなかにもっとあってもいいのかなと思うんです。自分が素敵だなと思うバンドと、もっと深いところで一緒に何かをやっていって、新しいものが生まれていくシーンになればいいなと思いますし、『ROMANTICA』が話題になって、浪漫革命が売れたらそういう影響力を持てるバンドになりたいなって考えています。
■リリース情報
浪漫革命
3rdアルバム『ROMANTICA』
2022年9月14日(水)発売/¥2,500(税込)
<収録曲>
1. そっとぎゅっと
2. リリ
3. ベイベ
4. ひとり
5. ふたりでいること
6. フーアン
7. 月9
8.Thats life with you
9. 優しいウソで feat. 岡田康太
■イベント情報
浪漫革命『ROMANTICA』購入者限定フリーライブ
日程:9月28日(水)
会場:渋谷La.mama
時間:OPEN19:00/START19:30
入場方法:CD購入者限定でドリンク代のみで入場可能