浪漫革命、全員主役だから鳴らせる柔軟で真摯なポップス バンドの現在地や音楽シーンへの素直な想いも語る
京都で結成された5人組バンド・浪漫革命より、3rdアルバム『ROMANTICA』が届けられた。無邪気さが存分に詰まった1stアルバム『NEW ISLAND ROMANCE』(2019年)、深みのある感情表現とソングライティングに磨きがかかった2ndアルバム『ROMANTIC LOVE』(2020年)を経て、今作では想いを届けるポップスとしての強度が抜群に高まっている。藤澤信次郎(Vo/Gt)の歌唱スタイル、多彩なフレーズと展開を昇華したアンサンブル、そしてときにはバンドサウンドにすら固執しないフレキシブルなアイデアが、浪漫革命を“ソウルフルなポップスメイカー”に仕立て上げているのだ。全曲のクレジットが浪漫革命であり、全員が主役、全員が互いをリスペクトしているからこそ生まれるバンドマジックは必聴。自分達の現状やバンドシーンへの素直な意見も含め、藤澤、大池奏太(Gt/Cho)、後藤潤一(Gt/Cho)、藤本卓馬(Ba/Cho)、TOY(Dr/Cho)の5人に話を聞いた。(編集部)
「本当にやりたいポップスがやっとできた」
ーー浪漫革命結成から5年ということですが、今の活動に対しては率直にどのように感じていますか。
大池奏太(以下、大池):じろー(藤澤)と僕の2人が大学の同期で、そこから先輩・後輩を誘って始まったバンドですけど、僕的には5年経った今でもあまり変わらないまますくすくと成長してきた感じがしています。
後藤潤一(以下、後藤):そうだね。曲作りの進め方は結構変わらないところもあるけど、毎回どの曲も発見があって、ずっとワクワクの連続というか。最初僕は1曲も作っていなかったんですけど、だんだん作るようになってきたということもありますし、みんなでコミュニケーションを取りながら音楽性の幅が広がってきた感覚があります。
TOY:僕はうまく行ってないことへの焦りがあります。コロナ禍になってしまったこともありますけど、本当はもっとスピード感を持って動きたかったなという歯がゆさですね。今回の『ROMANTICA』はコロナ禍の集大成的なアルバムになった気がしていて、2年間の自分の過ごし方が出ていると思います。
藤本卓馬(以下、藤本):確かに、結成当時に思っていたスピード感じゃないなというのはあって。もっと早く売れていたかったなって思うんですけど……逆に今は、結成当時に思っていた場所にはいないけど、予期せぬ面白いことがいっぱい起こってきていることも事実で。「あんなつぁ」のMVがバズったのもびっくりしたし、YouTuberの岡田康太さんとコラボできたり、「フーアン」のタイアップ(石原さとみ出演のすき家CMソング)が決まったりとか、突然降ってくることが多い2年間だったので、これから面白くなっていきそうだなっていう期待は溢れてますね。
ーー藤澤さんはどうですか?
藤澤信次郎(以下、藤澤):まず、浪漫革命は友達同士でやってるバンドという認識は5年間変わっていないところですね。無謀な自信かもしれないけど、僕らは最初いい曲を作っていいライブをしたら売れると思っていて。実際いろいろ評価ももらったし、結成1年目に夏フェスに出まくったりしたんですけど、それでもなかなか音楽で稼げないという現実の厳しさを目の当たりにしてきた5年間だったと思ってます。作曲とかライブ以外の裏の努力、いわゆる社会人的な努力が必要だなということに気づいてきたというか。1〜2年目なんてただ曲を作ることが全てで、ちぐはぐな曲も形にしていくのが楽しかったし、まるで青春のようでしたけど、もちろん今もそれがありつつ、他の部分での地力がすごくついてきたなと。5年間でいろんなバンドマンともコミュニケーションをよく取るようになって、言い方が難しいですけど、あとは実際に稼ぐ道筋に沿って動くだけだっていうくらい、バンドとして考え方の下地ができたんじゃないかなって。でも、なんでバンドをやっているのかと考えたときに、友達とやれているからだと思えなかったらしんどくなってしまうので、そこを共有できてるのは幸せだと思います。
ーー今話していただいたことは、『ROMANTICA』のソングライティングにはどう出ていると思いますか。
藤澤:ノウハウが積み上げられて、曲作りに余裕ができました。5人とも手法や考えが違うんだけど、お互いの想いを受け入れて、アレンジしながらその想いを際立たせていくプロセスは、今回のアルバムが一番うまくいったんじゃないかな。あるいは、みんなが持ってきてくれた曲がどうやったらよくなるのかっていう考え方が、より無駄なくシンプルになったのかもしれないです。1stアルバム(『NEW ISLAND ROMANCE』)の頃はびっくりさせるポイントを作らないと単調すぎて満足できなかったんですけど、2ndアルバム(『ROMANTIC LOVE』)を作ったことで「やってきたことは間違ってなかったんだ」という自信がついて、この3作目で足し算・引き算のバランス感覚がちょうどいい塩梅になってきたのかなと。「これが浪漫革命の音楽です」という意志も込めて、『ROMANTICA』というタイトルになりました。
ーー余裕が出た結果、ものすごく自由な作風になりましたよね。「月9」を聴いていても、もはやバンドサウンドにすらとらわれていなくて。
後藤:「月9」はふじぴーさん(藤本)が作ったんですけど、打ち込みや同期で作ったので、バンドサウンドという縛りを取っ払った、本当にやりたいポップスがやっとできた気がします。
藤本:僕らのライブで「ハイレグBIKINI」(浪漫革命×ザ・おめでたズによるコラボ曲)をやろうとなったときに、ラッパーがやってるパートを浪漫革命の楽器隊で歌うことになったんですけど、そういう曲が自分達のオリジナルにも欲しいなと思って、「月9」ではみんなにラップパートを考えてもらいました。そしたらめちゃくちゃうまくハマって。「ハイレグBIKINI」を作っていなかったら、この曲を5人で歌って打ち込みでやるという発想に至らなかったかもしれないので、僕らのライブの自由さを反映できて嬉しいですね。
ーー浪漫革命はどうしてそんなにバンドの固定概念に縛られず、自由なんでしょうか。
藤澤:僕はみんなが目立ちたがり屋だからだと思います(笑)。例えば、ドラムってライブのポジション的に後ろになりがちじゃないですか。でも僕らは、TOYさんが前に出てきてくれるだけで嬉しいし面白いし、最高なんですよ。めっちゃ歌うまいし、発音もいいので。どうしてもバンドだとボーカルだけ目立つことも多いけど、僕はもっとみんな最高だよということを言いたくてバンドをやってるので。全員が「俺を見てくれ!」と言ってるのは、浪漫革命っぽいなと思ってます。
大池:本当に、こんなに全員が前に出て、マイクを持って歌おうとするバンドは少ないと思う(笑)。すごいバンドやなと思います。
「お互いのよさをわかっているから、歌っていても嘘がない」
ーー「月9」の歌詞のテーマについてはどういう発想だったんですか。
藤本:4年前にサビとAメロ、Bメロはできていたんです。当時僕が就活中だったんですけど、サラリーマンってだいたい月曜日に暗くなりがちじゃないですか。ほんまに嫌なことが起こるかわからんのに、“月曜日”という言葉にとらわれて日曜の夜から憂鬱な気分になる。僕も1回就職したんですけど、そのことを身をもって体験したので、みんなの気分が沈む月曜の夜9時に放送される月9ドラマみたいに、テンションが上がる曲があればいいなと思って作りました。
ーー月曜日のネガティブなイメージを反転したんですね。〈ドラマチックが見たいなら/起こすしかない〉という歌詞がすごくよくて、楽しい時間を受け身で待つんじゃなくて、あくまで能動的に行動を起こそうっていう曲になっていると感じました。
藤本:はっぴいえんどの「風をあつめて」がめっちゃ好きなんですけど、あの曲って“風に吹かれる”とかじゃなくて、〈風をあつめて/蒼空を翔けたい〉という自分から向かっていくような発想じゃないですか。そういうバイブスを曲の随所に入れていきたいなって。
ーーその一方で「ひとり」「ふたりでいること」「優しいウソで feat. 岡田康太」などもそうですが、“君”と一緒にいることの大切さを衒いなく歌うのも浪漫革命らしさですよね。
藤澤:実はそれってすごく難しくて。ライブで歌っていても、実際にお金を払って観にきてくれるお客さんたちの顔が目の前にあって、「こういう人たちが僕らを応援してくれていたんだ」というのがわかると、自分じゃないことは歌えなくなるんですよ。浪漫革命はみんなで曲を書いているので、他のメンバーが書いてきた歌詞を歌うときはすごく難しいんです。でもそこで大事なのは、最初に言った“友達だから”っていうことにも繋がりますけど、歌詞を読んで「潤ちゃんの言っていることだからわかるわ」「奏太くんなら確かにこう言いそう」って思えるかどうかで。お互いのよさをわかっているし、なぜみんながそうやって書いたのかもなんとなくわかる。自分があまり使わない言葉でも、書いた人の想いが汲み取れれば自分のこととして歌えるんです。全く知らない人が書いた歌詞を歌ってと言われても無理かもしれないけど、友達だからふじぴーさんや奏太くんや潤ちゃんになり切れるし、みんなも「じろーだったら歌えるんじゃないか」と思って書いてくれると思うので、そこがうまく噛み合っているバンドなのかなと思ってます。最終的に歌っていて、自分のなかで嘘がないというのは大事かもしれないですね。
ーーなるほど。
藤澤:特に「ひとり」は、先にシングルで出しちゃったのがもったいなかったなと思うくらい大好きなんですけど(笑)、この曲はめっちゃ奏太くんなんですよ。奏太くんって、虫も殺さないくらい優しいし、「〇〇はこういうところが素敵だよ」って言葉で伝えてくれたりするんです。それは僕にはできないことで。「ひとり」の歌詞は1番が奏太くん、2番がふじぴーさんなんですけど、マジで人柄がそのまま出ているなと思ってグッとくるんです。
大池:(照)。「ひとり」はじろーに歌ってもらう前提で作っているので、歌い回しとかもそういう想定です。
藤澤:でも、僕だったら〈伝えたい/ありがとう ごめんね〉って言葉ではっきりと言えないんですよ。それを言えるのが奏太くんだからなあ。いいところだと思います。自分が好きな歌詞って何だろうと考えてみても、やっぱり人となりが伝わってくるものが好きで。例えばRADWIMPSって昔はただ“カッコいいから好き”くらいの感じだったんですけど、大人になってから「オーダーメイド」の歌詞とか聴いていても、たぶん野田洋次郎さんってそういう言い方が好きな人なんだろうなって思うんです。ファッションとかにも全部表れているじゃないですか。僕はそういう歌や音楽が好きですね。