リナ・サワヤマ、マネスキン、ヤングブラッド……海外アクトがサマソニに残した、型に縛られず生きるメッセージ

ヤングブラッド、メーガン、The 1975が作る“居場所としてのコミュニティ”

 SNSが広範囲に普及し、インターネットを通して多くの人々が様々なコミュニティを通して繋がることができるようになった現代において、アーティストのファンはそれ自体が一つの大きなコミュニティとなる。これについては「ファンダム」という言葉が使われることが多いが、あえて別の言い方をすれば「居場所」ということになるだろう。アーティストの楽曲だけではなく、そのファッションや趣味嗜好、SNSの投稿などに夢中になり、何よりその人物が発するメッセージや考え方に共感し、支持をする。そうした人々がお互いに精神的な繋がりを感じることもあれば、SNSやDiscordといったツールを活用して実際に形のある繋がりとなることもある。それはアーティストを起点とした「連帯」と言い換えることもできるだろう。

 重要なのは、あるアーティストのことを支持している状態が、その人にとって居心地良くいられる、自分らしくいられる状態になりうるということだ。また、前述のリナ・サワヤマやマネスキンを含め、多くの場合はアーティスト側もそのことをはっきりと自覚しており、コミュニティと真摯に向き合いながら活動を行っている。

 今回がサマソニ初出演でありながら、そのぶっ飛んだパフォーマンスとポップでエモーショナルな楽曲群で会場を大いに盛り上げたヤングブラッドはその代表的な存在と言えるだろう。ある時、ファンであるトランスジェンダーの女性から、かつては両親の理解を得ることができずにいたが、その音楽とコミュニティによるサポートによって自らのアイデンティティに誇りを持ち、両親からも受け入れられるようになったというエピソードを打ち明けられ、その経験から「mars」という楽曲を作ったように(※1)、ヤングブラッドはファンの「居場所」を作ることに極めて自覚的なアーティストだ(ちなみに本人は自らがパンセクシュアルであることを公言している)。

 今回のステージにおいてその姿勢が明確に表れたのは、「superdeadfriends」を披露した瞬間だろう。この時、ステージの背後にある巨大なスクリーンには「FREAK SHOW」という言葉が大きく映し出されていた。

YUNGBLUD - the freak show (Official Audio)

 「FREAK」(変人)という言葉について、人によってはネガティブな印象を受けるかもしれないが、コミュニティによっては肯定的なニュアンスで用いられることも多い。ヤングブラッドの場合も「the freak show」といった楽曲などを通して、「型に縛られない人々」「誰にも邪魔されず、自分らしく生きている人々」といった意味合いでこの言葉を使っている。つまり、「FREAK SHOW」という言葉は、ここに集まった誰もが、誰にも邪魔されることなく自分らしく過ごすことができるという、ヤングブラッドによる宣言というわけだ。

「我々は君が黒人だろうと、白人だろうと/アジア人だろうと、セクシャリティが込み入っていようと、気になんかしない/この目で世界を見る時が来たんだ/もし君がここに留まってくれるのなら、きっと気に入るものを見つけられるさ(We don't care if you're black or you're white/Asian or sexually intertwined/It's time to take a look at the world through our eyes/If you stick around, you might like what you find)」(「superdeadfriends」より。筆者訳)

YUNGBLUD - superdeadfriends (Official Audio)

 この「相手を徹底的に肯定する」という姿勢は、今回のサマソニが初来日公演となった世界的なフィメールラッパー、メーガン・ジー・スタリオンのステージにおいても強く感じられるものだった。パフォーマンスでは一貫して会場に集まった“Hot Girl”に向けて声をかけ続けていたメーガンだが、セットリストの終盤では次のような言葉が語られた。

「愚かな男たちに呼びかけるために、少しだけ時間を使う。私たちの体についてどうするべきか言ってくる奴ら。私たちはそんなの好きじゃない。言われっぱなしになんかさせない。女性たちよ、私たちは私たちのために立ち上がるべき。ここにいる全ての女性たち、私の東京hottiesたちよ、もし誰もあなたのことを美しいと言わなかったとしても、あなたは美しい。あなたはうまくやれてる。めちゃくちゃイケてる。あなたは強い。私はあなたに感謝するよ。だから、今からヘイターたちにメッセージを送ってやろう」(筆者訳)

 メーガンもまた、代表曲の「Savage」や米国の政治家まで巻き込む論争を生んだカーディ・Bとの「WAP」などを通して、女性に向けて「主体的に自分らしく生きられるように」とメッセージを発信し続けてきたポップアイコンであり、この言葉もそうした表現の延長線上にある。

Megan Thee Stallion - Her [Official Video]
Megan Thee Stallion - Savage [Lyric Video]

 この「自己肯定感」は、今回のサマソニで様々なアーティストが発信したメッセージにおける一つの共通点と言っても良いだろう。それはヘッドライナーを務めたThe 1975やポスト・マローンにおいても同様であり、それぞれのステージにおいて、集まった観客に向けて心からの感謝を伝え、一人ひとりの存在を称える場面があったのだから。だが、それは裏を返せば、多くのコミュニティにおいて自己肯定感を感じることができずにいる人々が少なくないことを意味している。その原因は様々だが、その内の一つに「人が自分らしくいられることを認めない」人々がいることは確かだろう。だからこそ、そこに集まった人々を称賛する一方で、そういった人々に対しては明確に中指を立てるのである。行動を起こさなければ、現状が変わることはない。

 今回のサマソニに対して、The 1975が「ジェンダーバランスが適正なフェスティバルにのみ出演する」という要望を出し、その前提でラインナップが組まれていったというのは(※2)、そんな「行動」の最たる例と言えるだろう。また、本稿で挙げたリナ・サワヤマ、マネスキン、ヤングブラッド、メーガン・ジー・スタリオンは、今回が初めての来日公演でありながら最大規模のステージとなるMARINE STAGEに出演しており、それはサマソニを主催しているクリエイティブマン自身による、一つの意思表示であると捉えることができる。様々なアーティスト、そしてスタッフの想いと行動の積み重ねによって、今年のサマソニが生まれたのだ。

The 1975 - I'm In Love With You (Official Video)

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