矢沢永吉、活動50周年で立った新国立競技場のステージ B’zも駆けつけた特別な一夜

「50年、歌えると思ってなかったねえ……」

 ライブ途中、MCでそうしみじみとつぶやいた。その表情はなんだか嬉しそうで、照れくさそうで。自分のために集まってくれた6万人のオーディエンスを見渡していた。

「音楽以外にも、なんか俺にできることがあるんじゃないかと思って、いろいろトライしたんですけど……結局ダメだったね。でもダメでいいんだよね。なんでもいいからひとつもらえたかなと思ったら、こんな感謝はないなと最近はつくづく思います」

 音楽と歌うことにそう感謝した。72歳とは思えぬシルエット、キレのあるステージング、佇まい、そしてその歌声、圧倒的な存在感——。誰もが認める日本が誇るロックスター、矢沢永吉が活動50周年を迎え、リニューアルされてから初の有観客ライブ開催となる国立競技場に立った。『EIKICHI YAZAWA 50th ANNIVERSARY TOUR「MY WAY」』だ。

 初日の8月27日は気温も高く、矢沢曰く「ステージは40度くらいあった」ほど熱かったそうだが、二日目の28日は涼しい風が心地よく吹いていた。真っ白のスーツやリーゼント、それぞれ思い思いの“YAZAWA”に扮した6万人が会場を埋め尽くす。気候は快適であったが、開演前から場内の熱気は高く、スタンド席の至るところからウェーブが発生し、今か今かと主役の登場を待ち侘びていた。

 定刻を少し過ぎると、SEと共にステージ上のスクリーンにバックステージにいる矢沢の姿が映し出される。ロングコートにサングラス、「待ってろよ」と言わんばかりのにこやかな笑顔を見せながら歩きだす。荘厳なSEに合わせてステージでは無数の火柱が、一発、二発と高揚感を煽ってくる。そしてステージに矢沢の姿が現れると、トドメの火柱が上がった。

 颯爽とコートを脱ぎ、サングラスを外し、半袖姿で真っ白なマイクスタンドを抱き、振り回し、己の武器のように自在に操りながら、歌う。その姿はまさに永遠のロックスターそのものだ。

「みなさん……本当にようこそいらっしゃい! 今日2日目の国際です……国際じゃないや! 国立! ごめん、間違えた!」

 オーラを放つ歌とステージングの貫禄とは裏腹に、口を開けば飾らない人間性が溢れ出る。そんなところも矢沢が50年愛され続けてきた大きな理由である。

 『EIKICHI YAZAWA 50th ANNIVERSARY TOUR「MY WAY」』はこのあとも福岡、大阪と続くため、本稿ではセットリストを含めてごく一部の様子しか書けないことをご容赦いただきたい。バシッと硬派にキメたロックナンバーから甘いバラードまで、緩急と新旧を織り混ぜながら、まさに矢沢の魅力の詰まった珠玉の代表曲オンパレードのセットリストで、名曲たちが次から次へと披露されていく。来場者に配られたリストバンドライトが会場を青く染めたり、映像を交えたり、さまざまな演出がこの巨大なライブに彩りを添えていく。

「昨日はめっちゃ暑かったよ! たぶんステージは40℃くらいあったんじゃないかな? 俺の知り合いが観に来てて、“倒れるんじゃないの”って。僕も“倒れてなるものか!”みたいな感じでね。今日、10℃も下がって、最高じゃん! 今から2時間、矢沢永吉50周年やりますんで。一緒に最後まで、いって、いって、いって、いって、ヨロシクーー!」

 こうしてあらためて昔の曲を目の当たりにすると、そのスタイルが一切ブレず、まったく変わっていないことがありありとわかる。音楽と歌、そのルックスとプロポーション、そして生き様、言動、影響力……世間からのパブリックイメージを含め、矢沢永吉ほど変わらないアーティストはいないだろう。普遍的なロックスターだ。

 そんな矢沢のアーティスト人生が垣間見える場面があった。中盤にアコースティックギターを抱え、小気味よいストロークで優しく弾き語った「アイ・ラヴ・ユー,OK」。1975年にリリースされたソロデビューシングルだ。しかし、キャロル時代のロックンロールを期待していた当時のファンには受け入れられなかった。それでも矢沢はこの曲を歌い続け、「50歳になっても5万人くらいのコンサートをやって、この曲を歌う」と語っていた。そして、1999年9月15日、横浜国際総合競技場(現・日産スタジアム)で行われた50歳バースデーライブ『TONIGHT THE NIGHT! 1-9-9-9-0-9-1-5~ありがとうが爆発する夜~』で同曲を歌った。その際、感極まって途中で歌えなくなってしまったことはファンのあいだで語りぐさになっている。オフィシャルYouTubeチャンネルには、1995年に福岡ドーム(現・福岡 PayPayドーム)のグラウンドにてガットギターでひとり同曲を弾き語る映像、さらに今年6月に放送されたテレビ番組でリニューアルされた国立競技場に初めて足を踏み入れた模様がアップされている。楽曲を作った上京時のことを話しながら、無観客の場内でこの「アイ・ラヴ・ユー,OK」をアコースティックギターで弾き語った。そして今ここには6万人のオーディエンスが矢沢を観ている。そんな会場を見渡しながら嬉しそうにこの大事な曲を歌いきった。矢沢の歌を追うように、後奏でグスターボ・アナクレート(Sax)の甘い音色のサックスが夏の夜空に艶っぽく響いた。

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