音楽における“ヒットチャート”の難しさ ユーザーは結果とどう向き合うべきか

 音楽シーンにおいてヒットチャートの影響力は計り知れない。チャートに入ることもそのアーティストや楽曲を伝めるプロモーションとして絶大な効果を発揮するからだ。しかし、長らく続いてきたCD売上をメインとしたチャートは、音楽の視聴環境の変化に伴い細分化され、本当の意味でのヒットを示すことはこれまで以上に難しくなっている。長年音楽業界でプロモーション業務に携わり、現在は宣伝コンサルタント/新人アーティスト発掘・プロデュースを行う合同会社デフムーンにて代表を務める黒岩利之氏が、複雑化するヒットチャートの問題点、今後のチャートとの向き合い方について考察する。(編集部)

現代における“ヒットチャート”の難しさ

 日本においては様々な分野で順位付けが好まれる。音楽の世界でも、海外にはビルボード、国内にはオリコンというチャート/ランキングの権威が存在し、平成時代はそのヒットチャートの成績がテレビの情報番組等で積極的に紹介され、楽曲ヒットを表すバロメーターとして、可視化されてきた。

 しかし、時は令和になり、サブスク(定額制聴き放題)ユーザーが飛躍的に伸長し、そのフィールドから新たなアーティスト群が輩出され、デジタルチャートを賑やかすようになる。

 このように、音楽の楽しみ方が多様化した今、ひとつのチャートだけでは、リアルなヒットを示すことが難しくなってきたといえる。そんな中、新たな指標を設定することは可能なのか? チャートとはどうあるべきかを考察しつつ、検討を加えていきたい。

 まず、ヒットチャートには評論家の評価とは関係なく、厳正なる数字の論理が存在する。それは、かつてはCDの売上であり、今ではサブスクで聴かれた回数などを数値化し、順位付けしたものである。まずは、その数字の根拠を徹底的にオープンすることによって、信頼性を証明していく必要がある。

 平成時代はオリコンのCDランキングがヒットの指標として成立していた。CDの売上はオリコンが全国のレコード店のレジにあるPOSデータと連携することで、客観的な数字の根拠を示し、その集計結果には絶大な信頼感があった。

 しかし、着うたやダウンロードの時代を経てサブスクに至る音楽の視聴環境が変化していくと、CDの売上だけでは本当のヒットは測れない時代に突入していく。そこでは、ダウンロード、サブスク、YouTube、SNS等プラットフォームごとのランキングが生まれ、互いに影響を与えていくようになる。

 そんな中、Billboard JAPANは、本国のチャートを参考にラジオでのオンエア回数、SNSでのバズなどを指数化し、CDの売上だけにとどまらない独自のチャート=総合ソングチャート“JAPAN HOT 100”を形成。新たな時代の指標を担う存在として注目を集めた。

 先にも述べたようにチャートはヒットを表すバロメーターであり、ユーザーにとって、チャートにランクインすることがそのアーティストや楽曲を知り、聴くことのきっかけとなることは少なくない。そうすると、送り手であるアーティストサイド、あるいはアーティストを熱心に応援するファン層は様々な工夫をこらして、チャートインできるよう対策を講じていくことになる。

 Billboard JAPANの総合ソングチャートでは、ランキングの基準となる各指標を発表している。CDセールス、ダウンロード、ストリーミング、ラジオ再生、動画再生、ルックアップ(PCへのCD読み取り数)、ツイート、カラオケの8種類がそれに当たるが、一部指標では、レコード会社による施策や、ファンが組織票を動かしていくことで故意に数字が操作できてしまう問題が起きている。

 しかし、CD売上ランキング時代から現在に至る流れの中で、CD(特にシングル盤)では複数形態が当たり前になり、接触イベント参加券等の特典にCDが付属するかのような複数購入の促進が実施されてきた。そのような経緯からCD売上をベースにしたチャートでもすでに数字を操作することは可能であり、いずれの指標においてもその流れを止めることは困難であろう。

関連記事