キタニタツヤ、音楽活動の原動力を得て次なる景色へ 底知れないパワー放ったワンマンツアー最終日

キタニタツヤ、新たな一歩踏み出したワンマン

 キタニタツヤが7月2日、ワンマンツアーの最終日となるZepp Haneda公演を開催した(7月22日に仙台で振替公演有り)。

 最近は着々とコロナ禍以前の世界に戻りつつあるものの、大声での発声を控えるよう決められているなど、まだ完全に元に戻ったとまでは言えない状況が続いている。そうしたなかでも、事前に収容キャパの緩和によってチケットの追加販売もされたため、ソールドアウトした当日はファンが多数集まり、会場は開演を今か今かと待ち望む雰囲気で充満していた。

キタニタツヤ

 いよいよ開演。1曲目は「振り子の上で」からスタートした。ステージはあらかじめ白色の薄い紗幕で覆われており、曲が始まるとステージ奥から強い光が放たれた。そのため、その紗幕に演者の影が映される作りになっている。そして曲が終わると同時にその幕が一気に降ろされ、ステージ上のバンドメンバーたちとキタニの姿が出現。そのまま2曲目「PINK」へ雪崩れ込む。キタニが「みなさんよろしく!」と放つと、待ってましたとばかりに大きな拍手が起きた。

キタニタツヤ
 流れるようにして「聖者の行進」「ハイドアンドシーク」を披露。演奏陣の疾走感と力強さが会場を圧倒した。ギター、ベース、キーボード、ドラムという一般的な編成ではあるが、聴いた印象はそれ以上の存在感があり、キタニもそんなメンバーたちの熱量に負けじと声を張り上げる。ステージ上から彼らの底知れないパワーを感じた。

 曲を終えると、ここでキタニは神妙な面持ちで「感慨深い」と切り出した。曰く、活動を始めた頃はまだ「キャパ80人のところでライブをやってた」という。自主制作の期間を含めれば、約10年のキャリアがあるキタニ。「今このステージに立てることを誇りに思う」とファンへ感謝を伝えた。

 長い年月を少し振り返ったところで、中盤は「Cinnamon」で始まった。カッティングギターとエレピのアンサンブルが心地良い。生演奏によるライブの醍醐味とも言うべき一曲だ。次の「白無垢」もメロウなタッチが気持ち良い。キタニの訴えかけるような哀愁あるボーカルと、生のグルーヴの融合に酔いしれる。コーラスワークが特徴的な「Sad Girl」、歌詞や演奏に切なさのある「人間みたいね」を経て、ライブ後半へ。

 するとここで、今夜のハイライトとも言うべき瞬間が訪れた。キタニが「普段はどうしようもない“現実”っていう2文字があって、この箱を出たらそれで満たされているわけだけど。今だけはどれだけ夢見ても誰も怒る人はいないから、最後までめちゃくちゃになって帰りましょう」と話す。この言葉が次曲「クラブ・アンリアリティ」へのこれ以上ない前口上となった。

 舞台上に散在する10数個のスクリーンにカラフルな映像が映し出され、ミラーボールが点灯する。会場は夢心地の仮想的なディスコと化し、その場にいる観客を祝福するかのようなムードへ一変。ほんの一瞬だが、“現実”を忘れられたような気がした。

 そこからアクセルを踏むように、「Ghost!?」「逃走劇」「トリガーハッピー」と立て続けに披露。演奏陣のパフォーマンスからもキタニの歌唱からも、着実に熱を帯びているのを感じた。

 一つ確実にギアが上がったのを確認できたのが、次の「Rapport」である。地響きのような低音、攻撃的なギターリフ、歌のパンチ力、いずれもこの日一番の支配的なパフォーマンスであった。

 流れるように「タナトフォビア」「冷たい渦」へ。いずれもキタニらしい言葉の運びと、万人に受け入れられるポップネスを携えた、“現在のキタニタツヤの音楽の集大成”とも言うべき完成度の高い2曲だ。

 演奏後、「最近原点回帰的な曲を作ってる」と語るキタニ。そのなかで昔の自分がどういう人間だったかを客観的に考えたという。

「過去の自分はたくさん傷ついている人なんだなって。いろんなことに傷ついてるし、鬱陶しいくらい繊細だし、いろんなことに不満や怒りや悲しみを抱いてる。それを何も遠慮することなくアウトプットしていた」

 しかし、それではいけないと感じた、と続ける。

「それじゃ伝わらない。そのままアウトプットするのでは、ただ暴れてるだけなんだよね。やっぱり自分のことを分かってもらいたいっていうことの、積み重ねの歴史だった」

 先日取材した際にも、「人に聴いてもらうことを意識した」ということを繰り返し言っていたキタニ。こうしたマインドは、最近の彼の一貫したテーマなのだろう(※1)。人はそれぞれ根源的な衝動を持っている。彼には、それをただ吐き出すのではなく、人に伝わるようコントロールできる理性があるのだ。

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