Orangestar、青屋夏生、烏屋茶房……MVに実写を使用するボカロ曲の共通性
烏屋茶房
最後に触れたいのは、烏屋茶房の「いなくなりたくなる夜だ」。主にアニメやゲーム関連の楽曲を制作している烏屋茶房。2021年9月に発表した同楽曲は、感傷的な歌詞と浮遊感のあるサウンドが印象的だ。MVでは、人が青色の暗闇の中で箱を被り、部屋の隅に座り込む姿が映し出されている。ボーカロイドを用いた楽曲で人物がはっきりと映し出されているのは、非常に珍しい。
とくに暗闇の中、箱をかぶったままスマホの画面を見つめるシーンは〈手のひらの中の頼りない光じゃ/孤独を全部/埋められやしない〉という歌詞に紐づいた演出になっている。これにより、日常の中にある寂しさや葛藤と、現実離れした世界観が共存している。この演出こそが、現実と理想の狭間にある夜を感じさせているのだろう。
他にも烏屋茶房は、「夜を壊して」や「ある逃避の」など、実写MVをいくつか発表している。
これらの実写MVに共通して言えることは、アニメーションを用いたMVよりも、どれも人間味のある表現が魅力であることだろう。また、目に見えない感覚を可視化するような演出に、ボーカロイド楽曲と実写映像の融和性が感じられた。映像と楽曲をリンクさせた演出が聴き手のイメージの解像度を上げているのだろう。広がりを見せるボカロシーンにおいて、多角的なアプローチのMVは新たな可能性となるはずだ。