ドレイクの新作『Honestly, Nevermind』はいかにして生まれたか? 多くの“消失”を歌い続ける理由に迫る
しかし、失ったものについてのアルバム、という感触を『Honestly, Nevermind』がとりわけ強く放っているのは、個人的な消失についてドレイク自身が常に歌ってきたからだろうか。自らの孤独やパートナーシップへの不安、過去の恋愛についての未練のある歌詞が多いドレイクだが、本作もそれは然りである。例えば儚さを醸す終盤の11曲目「Down Hill」は、一夜にして壊れてしまった過去の恋愛の記憶を回想する、いかにもドレイクらしい失恋についての曲である。失われたパートナーシップについての歌詞は、何よりもドレイクらしさを示すものとして、本作に存在する。
一方で、本作中、最も情報量の密度が高い7曲目「Sticky」は、フランク・オーシャンの宝石ブランドから、YSLのクルーの収監など、最近のさまざまなトピックに言及しながら、最後には昨年亡くなったヴァージル・アブローの声が聞こえてくる曲である。さらに、ハウスに支配された本作中でラッパーとしてのドレイクを思い出させる14曲目「Jimmy Cooks (feat. 21 Savage)」(ちなみにこの曲のタイトルは、かつてドレイクが俳優時代に演じたキャラクター:Jimmy Brooksとかけている)では、今年この世を去ったリル・キードやDJ Kay Slayの冥福を祈っている。ここ1年以内に世界が失ったアーティストたちへのトリビュートという側面も、本作においては見逃せない点である。
『Honestly, Nevermind』には、身近なところから大きなところまで、様々な消失が影を落としている。その中で、何かを取り戻そうとダンスミュージックに振り切るドレイクの姿は希望的にも映る。彼は、そして我々は消失を乗り越えられるのだろうか。
〈Oh, when you’re ready
We can put this behind us
Baby, we can find us again, I know〉(過去のことを乗り越える、その準備ができたら、
俺たちはまた出会えるさ)ーー『Honestly, Nevermind』収録曲「Massive」より
■リリース情報
ドレイク
『Honestly, Nevermind』
発売中
デジタル配信:https://umj.lnk.to/Drake_HonestlyNevermind
<トラックリスト>
Intro
Falling Back
Texts Go Green
Currents
A Keeper
Calling My Name
Sticky
Massive
Flight’s Booked
Overdrive
Down Hill
Tie That Binds
Liability
Jimmy Cooks (feat. 21 Savage)