harmoe、TrySail、Lonesome_Blue……ユニット/バンドで拡張する女性声優たちの表現

 声優の多くが音楽活動をしている昨今。毎月声優による作品のリリースが相次いでいるが、ソロ活動だけでなく、声優同士がユニットを組んでリリースする作品も見逃せない。本稿では、ソロとは異なる魅力を発揮して活動する声優ユニット/バンドの新譜を紹介する。

 岩田陽葵と小泉萌香によるユニット、harmoeは6月22日に1stアルバム『It's a small world』をリリースした。「音楽と物語はいっしょに歩く」をキャッチコピーに掲げた彼女たちの楽曲は、世界各地を舞台にしたおとぎ話をモチーフにした楽曲が揃う(※1)。今作も、アラビアンな雰囲気とタイトなリズムが融合した「アラビアン・ユートピアン」や、切なさの漂う「雪のかけら」などバラエティ豊かな作品が収録された。楽曲はTomgggやyuigot、KOTONOHOUSEといった、電子音を中心に自由度の高い心躍るサウンドを操るトラックメイカーが手がけており、harmoeが掲げるテーマの幅広さと作曲陣のアイデア力が互いに引き立てあった存在感のある楽曲が並ぶこととなった。

【harmoe】『アラビアン・ユートピアン』Music Video Full ver.【3rdシングル】

 そんな世界を周遊するようなアルバムであるが、yuigotによる1曲目「一寸先は光」から早速旅の始まりを感じることができる。日本のおとぎ話、一寸法師がモチーフになっており、琴などの和楽器の音色が日本らしさを感じさせる本曲。同時に、ポップなエレクトロサウンドがこれから始まる旅路を連想させる。〈これはまだ見たことのない僕に会うための物語〉とアルバムの内容を彷彿とさせる序盤のフレーズも印象的で、岩田と小泉の対照的な声色が順に奏でられるのも2人の揃った足並みが表現されているようだ。アルバムの最後を彩るTomgggによる「セピアの虹」も、楽曲の雰囲気は違えど「一寸先は光」同様にアルバム全体を象徴するような楽曲だ。旅の前夜のうずうずする感情を写し取っており、それでいて1曲目とは異なるミディアムな曲調が、どこか夢のような幻想的な雰囲気を醸している。

 ポップな音使いと甘い歌詞の「HAPPY CANDY MARCH」では冒頭やサビでの可愛らしい言葉遣いとは裏腹に、Aメロで〈迷い込んだ暗い森でも 手を繋いで信じ続けたね 茨の道擦りむいても 逃げ出さずに歩いたんだ〉と堂々と前進する姿が描かれており、トライバルな雰囲気漂う「ククタナ」では、動物の気配を察知し〈危ない気配だ〉と逃げる場面の直後にビルドアップを挟み、歌詞のスリリングな雰囲気を楽曲でも表現した。モチーフとなるおとぎ話がサウンドと歌詞で繊細に描かれており、細かな箇所まで楽しむことができる。

【harmoe】『HAPPY CANDY MARCH』Music Video Full ver.【1stアルバム】

 麻倉もも、雨宮天、夏川椎菜によるTrySailは6月8日にニューシングル『はなれない距離』をリリース。3人の優しく爽やかな歌声の魅力が発揮された表題曲は〈スって ピタって キュンて〉という囁くような歌声や〈ちゃんと聞こえてる?〉という歌詞など、ASMRのような心地よさと距離の近さを思わせる楽曲。遠かった距離を一瞬で埋める様子が描かれた歌詞や音像の距離感で物理的な親近感を抱かせる、瑞々しい感情の詰まった楽曲だ。サビ前でリズミックに歌詞を畳みかける部分は遊び心満載で、昂る気持ちが表れているセリフ調の歌詞はもちろん、ピアノのグリッサンドや細かいフレーズ、ブラスの音色がカラフルな印象を抱かせる。2コーラス目ではさらに楽器隊の自由度も増し、Bメロでのシンセサイザーやサビに向けて盛り上がるドラミングなど、演奏からも楽しげで平穏な雰囲気が伝わるようだ。

TrySail「はなれない距離」Music Video -Full size-(TVアニメ『阿波連さんははかれない』OPテーマ)

 カップリングの「Etoile」は表題曲とは印象を変え、弦楽器のイントロと優しい歌声が、柔らかい光が降り注ぐ景色を思わせる穏やかで明るい楽曲。サビの終盤、〈進もう〉と手を取り引っ張り上げるように語りかける歌詞と、物語の始まりを予感させる希望的でキラキラしたサウンドが彼女たちの明るくフレッシュな歌声にぴったりだ。

「Etoile」

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