新連載「lit!」第3回:My Hair is Bad、BUMP OF CHICKEN、羊文学……この春、テレビや映画で話題のロックミュージック5選
今月から始まった連載「lit!」。この連載は、週替わり形式で様々なジャンルの作品をレコメンドしていくもので、今回は、国内のロック/バンドの作品を5つ紹介していく。
今回の選出におけるテーマは、「2022年春、ポップカルチャーシーンを彩る最新ロック5選」。BUMP OF CHICKENの「クロノスタシス」は、映画『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』の主題歌、Eveの「Bubble feat. Uta」は、Netflix映画『バブル』のオープニング曲に起用されている。また、羊文学のアルバム『our hope』には、アニメ『平家物語』(フジテレビ系)の主題歌「光るとき」をはじめとしたタイアップ曲が複数収録されており、My Hair is Badのアルバム『angels』のリードナンバーは、バンドにとって初のタイアップが実現した「歓声をさがして」(テレビ朝日のバラエティ大改革プロジェクト「スーパーバラバラ大作戦」タイアップ曲)だ。また、期待のニューカマー Chilli Beans.の新曲「マイボーイ」が、ドラマ『モトカレ←リトライ』(MBS)のオープニング曲に抜擢されている。
このように様々な映像作品や企画とのタイアップを通して、ロックバンドがポップカルチャーシーンの前線へと躍進していく機会が増えている。今回紹介する楽曲についても、映画やドラマ、アニメやテレビCMを通して、すでに耳にしたことがある方が多いのではないだろうか。今回は、そうした楽曲、および、その曲が収録された作品について一つずつ紹介していく。この記事が、それぞれの作品に出会ったり、興味を深めるきっかけになったら嬉しい。
My Hair is Bad『angels』
新潟県出身の3ピースロックバンド・My Hair is Bad(通称:マイヘア)から、5枚目となるフルアルバム『angels』が届けられた。とても個人的な話にはなってしまうが、椎木知仁(Vo/Gt)と同い年の筆者にとって、〈さよなら 僕の二十代へ〉と歌う今作のラストナンバー「花びらの中に」は、とてつもなく深く刺さる楽曲となった。メンバー全員が30代を迎えたタイミングでリリースされた今回のアルバムは、これまで、青春の日々におけるリアルな感情を紡ぎ続けてきたマイヘアにとって、一つの大きな節目の作品になるのだと思う。20代の季節は過ぎ去ってしまったけれど、彼らはこれからも、否応もなく続いていく人生における喜怒哀楽の感情や、その中で出会うかけがえのない人に向けた深い想いを、爆音に乗せて鳴らし続けていくだろう。そして、ロックは決して青春時代のBGMではなく、長い人生に伴走し得る音楽であることを、その活動を通して証明し続けてくれるだろう。過去や今だけではなく、まっさらな未来に向けて鳴らされる数々の楽曲を聴いて、その確信はより深いものになった。彼らはこれからも変わらず、私たちの人生にとって必要なロックバンドであり続けていく。
羊文学『our hope』
現在放送中のドラマ『17才の帝国』(NHK総合)主題歌への参加をはじめ、その歌声がシーンから大きな注目を集めている塩塚モエカがボーカルを担うオルタナティブロックバンド・羊文学。美しい轟音、透徹に澄み切ったグルーヴ、巧みなコードワーク、そして清廉な歌声。そうした一つひとつの羊文学のロックを形成する要素は、今作においても健在どころかさらに洗練されている。そして何よりも特筆すべきは、楽曲全体、アルバム全体を俯瞰して見ると、その総体としてのポップな輝きが格段に増していることだ。モノクロの風景に一つずつ鮮やかな色彩が加わっていき、次第に辺り一面を鮮烈な光が満たしていくような、とても大きな驚きと歓びの感情が次々と押し寄せてくる。まさに、圧巻の音楽体験だ。この混沌とした時代において、それでも諦めることなく、堂々と『our hope』(=私たちの希望)を鳴らし続けること。それは、彼女たちが今作に至るまでの過程で育んできた表現者としてのスタンスであり、2022年という時代と向き合うミュージシャンとしての覚悟の表れでもあるのだろう。そして、その覚悟が深まるたびに、彼女たちの表現は全方位に向けて開かれていく。今、羊文学は、その感動的な変化の中にある。このバンドは、もっともっと大きな存在になっていくと思う。