水樹奈々×saji ヨシダタクミが表現する、絶望の先にある一縷の希望 アニメ『トモダチゲーム』音楽対談 

 大切な友達を信じるか、裏切るか……。借金返済ゲームに巻き込まれた5人の高校生が、極限状態の中で人間の本性に直面するアニメ『トモダチゲーム』(日本テレビ系)。オープニングテーマ「ダブルシャッフル」を水樹奈々、エンディングテーマ「灯日」をsajiが歌っている。sajiのヨシダタクミは水樹に楽曲提供をしている間柄。今回はそれぞれ、この作品から何を感じ取って音楽にしたのか? を語り合ってもらった。(斉藤貴志)

水樹奈々「すべてに一喜一憂して、ずっと心がかき乱されてしまう」

水樹奈々

ーー水樹さんとヨシダさんの出会いは、7年前に楽曲提供した「レイジーシンドローム」からでした。

水樹奈々(以下、水樹):コンペの中にあった1曲で、とても際立っていて「絶対に歌いたい!」と直感的に思いました。これまでの水樹ソングになかった切り口で、めちゃめちゃカッコ良くて。私の中から新しいものを引き出してもらえると、チーム満場一致で選ばせてもらいました。

ヨシダタクミ(以下、ヨシダ):あれは僕が学生時代に書いた曲でした。当時は他の方に作家として曲を提供したことがなくて。水樹さんのディレクターさんを紹介していただいたので、「自分たち用のデモならあります」と、恐る恐る1曲だけ出させていただきました。

ーーその後も様々なタイプの楽曲を提供されています。

水樹:本当に幅広く書いていただいています。メロディはもちろんですが、私は、ヨシダさんの歌詞が好きで。

ヨシダ:偏屈なキャラがよく出てきますよね(笑)。

水樹:そこが魅力的です。完璧でなくて、どこか青い美しさ。それがメロディにも投影されていて、切なさや感動が生まれてキュンキュンします。

ヨシダ:僕は曲を作るうえで、時計の針を17歳で止めています。その時期が一番多感で、世の中への期待も不安もあって、劣等感も持っていた。音楽も一番好きだったその頃の自分に届けたいというポリシーがあるので、青さはなくなりません(笑)。

水樹:そしてやっぱりバンドサウンドがカッコイイんですよね。シンプルで骨太でゴリゴリした感じ。そこにすごく惹かれます。

ーーヨシダさんも水樹さんが歌うことを想定した曲は、書きがいがありますか?

ヨシダ:水樹さんの曲に関しては、正直いまだに僕の中で正解を持っていません。印象としては探求心の固まりで、永遠に山を登っている感じの方だと思っていて。

水樹:そうですね(笑)。

ヨシダ:楽曲のコンセプトやアプローチを日々変えてきて、今回の『トモダチゲーム』のオープニング曲を聴いたときも「そう来るのか!」とビックリしました。

TVアニメ「トモダチゲーム」ノンクレジットOP | 水樹奈々「ダブルシャッフル」

ーー『トモダチゲーム』のオープニング、エンディングテーマを作るに当たり、それぞれ原作や脚本からインスパイアされたことはありましたか?

ヨシダ:作品のファンの方には、主題歌はイコールで紐づくじゃないですか。曲を聴いたらアニメを思い出す。僕も子どもの頃からそうでした。その一端を担うことは絶対忘れないようにしたうえで、作品に寄り添いすぎてもファンソングになってしまう。原作があれば読ませていただき、キャラクターの面白いところをピックアップしています。今回の片切友一で言うと、「主人公なのに、そんな悪い顔をするんだ」とか(笑)。

水樹:そうなんですよね(笑)。

ヨシダ:まるで悪役の表情。この作品では全員がそんな顔を見せますけど、そういうことを曲に反映して、ファンの方が「この歌詞はあのことを言っているのかな」みたいな気づきがあるようにしています。それと、自分自身がどんな人間なのか、結構考えました。

ーー「友達、いくらで売りますか?」がキャッチコピーの作品ですからね。

ヨシダ:自分自身に置き換えたとき、僕はどこまで人を信じられるだろうかと。

水樹:私も『トモダチゲーム』の原作と脚本を読ませていただいて、「自分がこの5人の中に入ったら、最後まで人を信じ抜くことができるか?」と考えました。私はすごく単純なので、たぶんすべてに一喜一憂して、ずっと心がかき乱されてしまう。きれいに騙されて、そのショックからなかなか立ち直れないかもしれません。だから、友一が常に冷静でそれぞれの性格を把握し、行動や思考を分析しているのはすごすぎる! 自分ではこんな精神状況にはとてもじゃないけど持っていけないと感じながら(笑)、この心の動きをどう楽曲に落とし込んでいくか考えました。

ーー今までにないものが必要になりました?

水樹:私が今まで主題歌を担当させていただいたアニメは、友情、絆、愛といったストレートなテーマがほとんどだったんです。だから、楽曲もドラマチックに歌い上げるものが多かったのですが、今回は「拳と拳でぶつかり合って、最後は抱き合って涙する」という話ではないじゃないですか(笑)。常に周りのことを「信じて大丈夫なのか?」と審議する必要のある心理戦。やはりこれまでと違うアプローチが必要でした。友一の中には目的のために手段を選ばない怖さもありますが、友だちを大切にする気持ちもある。自分の中で天使と悪魔がせめぎ合うことは、誰でも小さな選択からあるので、そういった部分をピックアップして、作品とシンクロさせていきました。メロディやアレンジもトリッキーで、何が本当なのかわからず翻弄されて、展開が読めない様子を表現できたらと。でも、最後に光が見える形には絶対したくて。

ヨシダ:水樹さんの曲はサビらしいサビが必ずあるイメージでしたけど、今回は場面ごとに移り変わって、流れるように進んでいって。2番でまた違う展開になるし、面白い曲だなと思いました。

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