異色DIY音楽ユニット mubi、無二の歌声を最大に生かすクリエイティブの魅力を紐解く
春は出逢いの季節である。出逢いは、新たな刺激を生む。その刺激は新しい繋がりとなり己の日常を彩ると同時に、他人と接する機会が増え、自分を顧みることにもつながり、結果、己の成長の栄養分になる。そのため出逢いは、自分のための素敵なきっかけなのだ。
SNSなどオンラインでのコミュニケーションが発達し、出逢いのきっかけが多様化してきて久しいが、ここに、ある出逢いをきっかけに、素晴らしい作品を世に送り出し始めているアーティストがいる。
正体不明のシンガー・たにおと、音楽クリエイター・KAKUWAによるmubiだ。
mubiは、これまで多くのアーティストへの楽曲提供やプロデュースをしてきたKAKUWAが、ある日偶然出逢ったたにおの声に魅了され、これまでにない作品を生み出すことができると考えて、共に作品を作ることを提案し、結成されたユニットである。楽曲や作品を創り出すことにかけては、熟練の域に達していたであろうKAKUWAにとって、たにおの声は新たな刺激だったのである。
たにおの歌声を生かしたKAKUWAのクリエイティブ
mubiは、昨年11月12日にデジタルシングル「ヒナギクは何色」でデビュー。オンラインキャンペーンUXD『EVOLOVE』web CMのキャンペーンソングに起用された同曲は、ホーンやストリングスはもちろん、多彩な楽器の音色が飛び交う軽快なミディアムチューン。どの音色も一音一音が独立していて、個性を発揮する使い方をしているが、おそらく、たにおの声を生かすためのファクターというポジションだ。
さらに、楽曲制作・プロデュース・MV監督・ジャケットデザインをKAKUWAが担当しており、たにおの声を軸に枝葉の様に派生したイメージが統一され、一発でmubiのアーティスト性とその世界観を印象付けている。
また、mubiはデビュー以降、たにおによる「歌ってみた動画」を定期的にアップしている。ここにmubiが、たにおの声で勝負するユニットであることが窺えるが、面白いのはその選曲である。Vaundyや優里など現在の各チャートを語るには欠かせないアーティスト、ボカロP・ナノウなど、「#歌ってみた」で拡散性のある楽曲の他、石崎ひゅーい、GOING STEADY、フラワーカンパニーズ、電気グルーヴ、安全地帯など、時代やジャンルを問わず多彩な楽曲が並んでいる。狙っては出てこないラインナップだと思うゆえに、KAKUWAが、たにおのために様々な曲をチョイスし、アップロードしているのではないかと考察せずにいられない。特に「ワインレッドの心」は、率直に言うと、最も低音の部分が少し歌いにくそうなのだが、あえてキーを調整せずにそのまま生かしたことで、たにおの声質だからこそ成立する独特の“抜きのある表現力”を見せることに成功している。
mubiのDIYの”強さ”
すべてをセルフプロデュースすることをDIYと呼ぶならば、mubiは楽曲やアートワークはもちろん、自身のパブリックイメージや宣伝方法に至るまでDIYだ。同様のスタイルをとるアーティストは昨今珍しくないが、彼らには、KAKUWAの持つプロデュースとディレクション能力、経験値、プロジェクトを俯瞰で観られる視点があることで、どの要素もすべてハイクオリティであることが強いと感じる。
ここでmubiのDIYを象徴する一つである映像についても触れたい。前述の『EVOLOVE』web CMは、KAKUWAが広告キャンペーンの制作チームに参加し、「見た人が幸せになるようなweb CM」をテーマに、コマ撮りという手法などのアイデアから撮影までのクリエイティブディレクションを全て自身で行っている。また、同CM映像に起用された「ヒナギクは何色」MVの線画アニメーションは、KAKUWAが実制作までを務めるが、こちらではCMと異なる世界観が表現されており、次はどのような手法で映像にアプローチするのか、期待が高まる。