ASA-CHANGが語る、20年聴き継がれる「花」に込めた思い 現代の日本語ポップスに対する問いかけも
ASA-CHANGから見た、レイ・ハラカミや長谷川白紙らの印象
ーー改めて今回の20周年記念集の内容を見ていくと、2002年のアルバム『つぎねぷ』に収録されていた、レイ・ハラカミさんによるリアレンジ版「あたらしい花」も収録されています。この音源をハラカミさんから受け取られたときのことは覚えていますか?
ASA-CHANG:覚えてます。実はこの音源の前に、ハラカミくんからは別のバージョンが届いていたんです。それは「花」を別物のようにアレンジしているトラックで、いい作品だったんですけど、ちょっとアブストラクトすぎるなと思って、僕がそれに文句をつけたんです。「ハラカミくんさ、くるりの『ばらの花』のリミックスみたいな、ああいう歌ものっぽい感じでやってくれない?」って(笑)。「ええ、なんで?」なんて言われながらも、なんとか口説き落として、作り直してもらったんです。それがこの「あたらしい花」なんですよね。
ーーASA-CHANG的に、「ばらの花」のような路線の方が好みだったんですか?
ASA-CHANG:そっちのほうがハラカミくんの直球だと思ったんです。最初にもらった方のトラックは、巡礼に寄ったことをやってくれたんですよ。そうじゃなくて、彼の直球を投げてほしかった。そういう意味でも、僕とハラカミくんの間だけのことですけど、ドラマがありましたね、この曲には。
ーーASA-CHANGから見て、ハラカミさんはどのような人でしたか?
ASA-CHANG:天才のひとりですよね。生きづらさもあったでしょうけど。変な話、4色入り絵具みたいな音源しか使わない人でしたから。それは、彼がそう決めたからなんだけど、そこからあれだけ多彩な音を作り出した。素晴らしい才能ですよね。この「あたらしい花」を改めて聴いても、美しさがとてつもないなと思う。そんなにグラデーションを磨き上げなくても伝わるのに、なぜこんなにも磨き上げられるのか。素晴らしいと思います。巡礼以外にもハラカミくんとはいろんな作品を一緒に作りましたけど、どうやって作っているのか興味も持てないほど、すごいなと思います。
ーーまた、今作には現在の巡礼メンバーで再録したバーションの「花(ヒア☆ナウ☆)」も収録されていますが、原曲とはある意味対照的な質感のあるアレンジになっていますよね。牧歌的ですらあるというか。
ASA-CHANG:最初の「花」は独特な絵の具を使って絵を描いていたような感じがあったと思うんです。ドロッとした、重たくてダークな、血のような絵の具で音を使っていた。でも、今は別にそれも必要ないのかなと思って……TikTokの時代だし(笑)。
ーー(笑)。
ASA-CHANG:まあ、重いものもあるし、「こういうのもあるよ」という提示として作りたかったんですよね。「これも『花』だよ」っていう。まるでコンビニに売っている安いグミみたいな(笑)。そういうものでもいいんじゃないのかなって思ったんです。それに、こうやって原曲の真反対にあるような、素っ頓狂で明るいものをやることで、2001年の「花」の重みがより浮き彫りになればいいなとも思ったし、さっきも言ったように、音楽が快楽だけに使われてしまう状況に対して示唆に富む何かになればいいなっていう気持ちもありました。「明るければ面白いのか?」という問いかけでもありますね。
ーー「ヒア☆ナウ☆」バージョンは原曲のようにいくつもの声が重ねられているわけではなく、参加しているボーカルはおひとりだけですよね。Yurinaさんという名前がクレジットされていますが、どういった方なんですか?
ASA-CHANG:友達の友達みたいな感じの子です。普段、歌を歌っているような子ではないんですけど、喋っているときの声が面白くて。その子にお願いして、声をカットして作りました。
ーー5曲目には長谷川白紙さんによるリミックスも収録されていますが、ASA-CHANGさんは去年、長谷川さんとライブで共演されていますし、Twitterで長谷川さんが参加されたスカパラの「会いたいね。゜(゜´ω`゜)゜。」に対しても言及されていましたね。「嫉妬している」と(笑)。
ASA-CHANG:あのツイートをライブハウスのブッキングマネージャーが見ていて、「じゃあ、一緒にライブやりますか?」という話になったんです。
ーー長谷川白紙さんにはどういった印象を持っていますか?
ASA-CHANG:僕はライブで一度しか会ったことがないんだけど、僕にとって長谷川白紙という人は、あのアーティスト写真の平面な感じが“本当”なんだろうなと思っていて。あの二次元の感じが長谷川白紙なんだろうなっていう感じがします。実物もすごく素敵な人でしたけどね。話も面白いし。あと、無茶なことをサッとやる感じが素敵だなと思う。音だけを切り離すんじゃなくて、存在自体がとてもチャーミングな人でした。
ーー固定観念にとらわれない音楽に向かっていくという面で、世代の違いはあると思いますが、ASA-CHANGと長谷川白紙さんにはどこか通じる部分があるのかなと。
ASA-CHANG:(長谷川白紙は)圧がすごいよね、音が。すごく強くプッシュする音を作る人だなと思う。今回の「花」のリミックスも面白いですよ。ボーカルがなくなった後も音が続いていく。「花」であれをやる人はいないと思っていた。言葉が終われば曲が終わるもんだと思っていたけど、そうはいかない。長谷川白紙のトラックは、そこに意味を感じました。
ーーなるほど。
ASA-CHANG:あと、本人たちは言われたくないかもしれないけど、長谷川白紙には中原昌也くんに近い音の勢いを感じますね。両方とも僕は大好きです。