ピーナッツくん、MonsterZ MATE、Mori Calliope、BOOGEY VOXX……VTuber界で盛り上がり見せるバーチャルラップの今

生を問いかけるバーチャルアンデットユニット BOOGEY VOXX

 冒頭のイベント開催の話題でもふれたBOOGEY VOXXは、ボーカル担当キョンシーのCiと、ラップ担当フランケンシュタインのFraのバーチャルアンデッドユニット。複数回のワンマンライブやカバー動画の週1投稿、オリジナル楽曲のカラオケ配信などかなり精力的に活動している個人勢だ。

【MV】D.I.Y. / BOOGEY VOXX (Prod by D.watt)

 その小さなボディから放たれるとは思えないパワフルな歌声のCiとエッジの効いたフロウで硬いリリックの高速ラップとポエトリーを使い分けるFraの二人が合わさった楽曲は、聴いたときにまるで殴られたかのような衝撃を受けるだろう。小細工なしでぶち当たってくる二人のパワーには「単純に上手い」と表現せざるを得ない。その歌詞には貪欲に業界のトップを狙う姿勢が常に滲み、逆境や困難も跳ね除ける気概が感じられる。

 バーチャル活動に転向することを指して「転生」と言ったり、いわゆる“中の人”のことを「魂」と呼ぶ界隈の中にあって、この二人はそれまでの活動を「生前」と表現する。これは形が変わろうとも体も魂もそのままだという意思の表れに他ならない。リスナーの表現活動を応援するような歌詞が多く登場する彼らの挨拶、「生きてるみんな、生きてるか!?」は、表現を志す者にとってはまた別の意味を伴って聞こえてくるだろう。

2次元と3次元を繋ぐ定期券 KMNZ

 KMNZ(ケモノズ)はLIZとLITAからなるバーチャルヒップホップガールズユニット。その名の通りふたりとも獣耳と尻尾があり、LITAはイヌのLIZはネコのものを持っている。高い頻度のカバー動画の投稿と、コンスタントなオリジナル曲の発表を続ける音楽に特化したユニットだ。

VR - Virtual Reality (Music Only) / KMNZ [Official Music Video]

 全面にキュートさを押し出しながらもクールさを隠し持つLIZと、凛としたミドルボイスの中にどこか可愛さのあるLITAの二人は、ちょうどお互いを支え合うように補完し合う。二人に共通したとろんとフェードアウトする歌声がKMNZのグルーヴを規定している。叙情的ながらもシンプルなリリックはポップスからの影響も大きい二人だからだろう。

 彼女たちが高頻度でカバー動画を出していることは前述の通りだが、LIZ、LITAの個人チャンネルがそれぞれネットカルチャー、J-POPを担当していて、好きな入り口から入りやすい。それぞれに理解がなければできない選曲スタイルにピンとくれば、彼女たちが本物であることがわかるだろう。歌声や姿のキュートさから入って、そのギャップに射抜かれてほしい。

夜を紡ぐウィスパーボイス somunia

 somuniaはこれまで紹介してきたアーティストとは少し毛色が違う。力強さやポップさはなく、代わりにchillさが芯を貫く。初期にはポップスを歌っていたが、「twinkle night」をきっかけとしてバーチャルクラブシーンへの登場が増え、それ以降はヒップホップに近い曲を投稿することが多いため、ここに書き連ねた。

twinkle night feat.somunia - nyankobrq & yaca

 彼女の表現スタイルはライミングやフロウよりも歌に近いが、音階を飛び跳ねずとも意味とグルーヴを伝えてくるその手法には、やはりクラブミュージックからの影響を見出だせるだろう。歌声とビートの静けさが共鳴し合う彼女の楽曲は、今のシーンを真芯に捉えている。

 能登麻美子を始めとしたかすれてフェードアウトする声質の声優や、ASMRコンテンツの普及から、小声はオタクカルチャーと接続されて久しい。そこにかすかに接触しながらも、透明で静謐な魅力を発信していくsomuniaは、ラベリングの隙間を縫って類を見ない存在感を放っている。

厭世のドランカー 今酒ハクノ

 最後に、ディープな一人を紹介しよう。今酒ハクノは「酒クズ系VTuber」を自称し、普段は酒やおつまみのレビュー動画を投稿しているバーチャルアーティスト。様々な娯楽に造詣が深く、ヒップホップはもちろんのこと、メタル音楽、漫画、ゲーム、アニメ、特撮と豊富なネタを織り込んだレビューは飽きることがない。

【MV】オリジナル曲「暗銀の盾」【338】

 ボイスチェンジャーの奥の酒やけした低音と、加工された音の端がギャリギャリとエッジを作り、唯一無二の響きを形成している。メイクマネーのためにバーチャル存在になったと語る彼女は、人生の苦しみを噛み締めた諦念と、それに反逆していくハングリー精神の両方が全開の歌詞を展開していく。そのキレのあるガチガチのリリックが小気味よいレビューの核になっているのだろう。

 人間関係に難儀した学生演劇や、その後の食品工場務めなどの苦しい経験から「滅びよ人類」をキャッチフレーズにしている今酒ハクノ。それでも表現を辞めないその姿勢は、食らいつくより噛み付くといった苛烈さがある。底から天をきっと睨みつけるような彼女に共感できる人間も多いだろう。一人でストロング缶を開けるときは「滅びよ人類」と唱えてみてはいかがだろうか。

 前段で少し触れたように、2010年前後のニコニコ動画にはすでに特有のラップシーンが存在していた。これは、ラップそのものが持つ意思の表明や自己表現という性格と、インターネットの性質が合致することに気づいた先人たちの慧眼に他ならない。見た目まで完全に自分の思い通りにできるバーチャルの世界は、よりその性格の純度を高めている。ニコラップ当時からすでにらっぷびとは『らき☆すた』の泉こなた、タイツォンは『DEATH NOTE』のLの姿を借りて、RainyBlueBellは美少女アバターで舞台に立っていた。その文脈も踏まえると現在に続くバーチャルラップの発展は必然であり、正当進化なのだ。彼らのことも調べてみると面白いだろう。トップハムハット狂やスカイピースの☆イニ☆の源流とも接しておりとても興味深い。リアルを脱ぎ捨てて新たなステージに立ったネットラップの行く末を見届けるのはあなただ。

※1:https://realsound.jp/2022/02/post-966446.html

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