「ポカリスエット」新CM曲に大抜擢のimaseとは? TikTok11億回再生、PUNPEE×Toby Foxとコラボする新世代アーティスト

 〈戻れないね 離れないで 喜びも驚きもないままで〉(「Have a nice day」より)

 このどこか切なさのあるフレーズと、後ろで鳴る淡々としたピアノの伴奏が、TikTok上で大流行したのは昨年の秋口から年末にかけてのこと。多くのユーザーがこの音源に友達や恋人とのたわいないやり取りの映像を合わせて投稿し、それぞれのかけがえのない日常を切り取っていた。

@y_____j2

ほんとに高校卒業したくない🥺修学旅行行きたかった😭😭😭#男の子 #04 #現役男子高校生

♬ Have a nice day 弾き語りver. - imase

@ednzmi

遅刻してでも行く方が休むよりかは いいよね#03

♬ Have a nice day 弾き語りver. - imase

 そしてそれと同時期、同じアーティストの別の曲もバズを巻き起こす。

〈さよなら 逃避行 昨日の酔いも 覚めない君と〉(「逃避行」より)

 ゆったりとしたリズムとやさしく響き渡るファルセットのメロディは、まるで大きな嵐が過ぎ去ったかのように穏やかだ。この音源には振り付けを合わせている投稿が多く、リラックスしたテンポにフィットしたリズミカルなダンスも相まって、投稿から平和な雰囲気が伝わるものになっている。

@___rioo

クリスマス一緒に過ごす人はLINE共有開いて3番目の人らしいよ〜💞#jk #03 #おすすめ #ハロウィン #ハロウィンメイク #逃避行

♬ 逃避行 - imase

@minnakowaikarayada7

ういのあ

♬ 逃避行 - imase

 この「Have a nice day」はTikTokでの総再生数が5億回、「逃避行」の方も4億回を突破。全体で11億回再生を記録しているほか、音源を使用した投稿の数は両曲ともに2万件を超えたという。Spotifyでもその盛り上がりを追うようにしてバイラルチャート急上昇。そのほか各種チャートでも好成績を記録した。いずれも作者はimaseという新人アーティストである。

 imaseは、21歳の男性アーティスト。前述した「Have a nice day」が昨年TikTok上で大きなバズを起こし、ほどなくして12月にメジャーデビュー。続いて今年1月には「逃避行」もリリースした。音楽活動を始めてから最初のバズが起きるまで、その期間はわずか1年ほどだったという。その圧倒的なスピード感は現代の音楽シーンを象徴するものだ。センスさえあれば、まったくゼロの状態からでも注目を浴びてメジャーデビューすることができる。まさにSNS時代の新世代アーティストと言えるだろう。

シンプルな音作りと生のグルーヴ感

 imaseの楽曲は、なぜこれほどまでに支持されるのだろうか。彼のTikTok公式アカウントでは制作した楽曲を逐次公開している。多くは演奏する様子をそのままムービーにして投稿しているが、そのDIY〜手作り感も現在の彼の人気の理由の一つと考えられる。

@imase119

「Have a nice day」コロナ禍で感じたことを歌いました! #ドリーマーZ #弾き語り #オリジナル曲 #カバーしてね

♬ Have a nice day 弾き語りver. - imase

 そして最大の理由は、そのシンプルな音作りだ。バックの音はピアノの和音と、微かに鳴るハンドクラップ、気持ち程度のリズムパートしかない。ほとんどビートと歌だけの素朴な音世界が展開されている。しかしこれにより、かえって歌声が届きやすい仕上がりになっていると言えるだろう。スマホ越しでもメロディとコード感が、耳にストレートに届く作りをしている。もし豪華なサウンドを従えていたとしたら、歌声が他の音に掻き消されて注目されなかったかもしれない。シンプルな作りが歌を届ける手助けをしているのだ。

 また、彼のTikTokの投稿を見ると、MIDIコントローラーを右手で操作しながらマイクに歌声を吹き込んでいる様子が確認できる。DTMではあれど完全にデジタル由来のトラックではなく、人力のグルーヴに支えられていることも大きいのではないか。つまり、手でリズム(とコード)を奏でることで、曲全体に絶妙な揺れが生まれている。それによって生のグルーヴ感が伝わる音楽になっていると感じる。歌声が直に届き、さらにその音には生きた感触があるのだ。

 こうした要素に、〈戻れないね〉といった語りかける口語体のリリックが巧みに合さることで、imaseの作品は共感性の強い作品に仕上がっているように思う。

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