My Hair is Bad、一人ひとりと心を交わした圧巻の一夜 バンドの軌跡が詰まった『ダイナマイトホームランツアー』ファイナル
しかし想像していたものと一味違うポイントがあった。ライブが始まった時、3人は客席の方を向いておらず、内を向いて演奏していたのだ。そのフォーメーションを見て思い出したのは、2020年11月に配信されたライブ映像作品『Youth baseball』。あの映像内でメンバーは集中できていると言っていたし、新鮮さを感じていたようだったし、「この周りにお客さんがいてくれたら、どれだけ心強いか。もっともっと夢中になれる気がします」とも言っていたが、今回のステージングはその経験から着想したのだろうか。客席に背を向けるというよりかは、みんなで同じ方を向きながらこのライブに臨んでいる意識なのだろう。椎木の歌もバンドサウンドも観客も、ライブが進むにつれてどんどん高ぶっていく。
その『Youth baseball』でも1曲目だった「優しさの行方」からスタートしたこの日。愛情の形の変化をドラマティックに描いた「予感」「綾」「卒業」「味方」によるバラードセクション(本当に素晴らしかった)、激しいアッパーチューンを続けることで勢いを加速させた「告白」以降のセクション、2020年春にタイムリープした「白春夢」などで起承転結を描きつつ、また、4月13日リリースの5thアルバム『angels』からの新曲もいち早く披露しつつ、全体としては、バンドの歩みを感じさせるセットリストとなっていた。「ドラマみたいだ」導入の弾き語りパートで、椎木がこれまでを振り返るように言葉を紡いだ上で「2022年、あの時のまま今日は代々木に立ってます。どうもありがとう!」と締めていたこと、2022年3月26日時点のMy Hair is Badの言葉をそのまま歌詞にする「フロムナウオン」から、20代前半の頃の椎木知仁という人間を描いているような曲「戦争を知らない大人たち」へと繋げた流れ、そして彼らの地元・上越について歌った「ホームタウン」が披露されたことも象徴的。先述の通り、彼らのライブの在り方はアリーナだろうと何ら変わりないのだが、振り返れば、“現時点での集大成”という言葉がしっくり来るようなライブだったように思う。
そんななか、本編ラストには、いつもはライブの始まりに演奏される曲「アフターアワー」が選ばれた。まるでオープニングテーマのように、晴れやかに響く「アフターアワー」。では、何のオープニングテーマか? メンバー全員30代に差し掛かり、これからもMy Hair is Badを続けていく新しい3人のオープニングテーマだ。「達成感はないんだけど、満足感とは違う満足感があります。すごく温かい気持ちでいっぱい」と椎木。幸福感に満ちた今ツアーの余韻、ロックバンドの心を曲げなかった日々の証明を胸に、しかしこれからの自分たちに誰よりも期待しながら、My Hair is Badは進んでいくのだろう。
■セットリスト
01. 優しさの行方
02. グッバイ・マイマリー
03. 愛ゆえに
04. ドラマみたいだ
05. 真赤
06. 悪い癖
07. 予感
08. 綾
09. 卒業
10. 味方
11. 告白
12. 熱狂を終え
13. クリサンセマム
14. ディアウェンディ
15. ワーカーインザダークネス
16. フロムナウオン
17. 戦争を知らない大人たち
18. 白春夢
19. ホームタウン
20. 宿り
21. 歓声をさがして
22. アフターアワー
encore
en1. カモフラージュ
en2. いつか結婚しても
W.encore
en3. 夏が過ぎてく