ザ・リーサルウェポンズが目指す、アメリカと日本のコメディの中間地点 1stアルバムは“集大成の一歩先”に
ザ・リーサルウェポンズのメジャー1stアルバム『アイキッドとサイボーグジョー』が好調だ。稀代のアイデアマン、アイキッドの創り出すサウンドは80’sのアメリカンハードロックやポップスの優れたオマージュでありつつ、歌詞はスーパーの半額セールやプロレス、ゲーム、戦国大名など、極私的趣味に偏ったユニークなもの。それを歌うジョーがまたクセモノで、怪しげな日本語とコミカルな演技力で笑いと感動を呼ぶパフォーマンスが、ライブやミュージックビデオで大人気。都立家政という東京ローカルな街で結成されて3年、満を持してリリースした『アイキッドとサイボーグジョー』の好評を受け、全曲をミュージックビデオ化するという快挙を成し遂げた二人に、グループのここまでの歩みとこれからの展望について聞いてみた。(宮本英夫)
夢はビッグスター……ではなく質素な生活を続けること?
――1stアルバム『アイキッドとサイボーグジョー』がリリースされましたが、どうでしょう。当初思い描いていた、夢への道のりは、ここまで順調に進んできていますか。
アイキッド:いや、あのー……思い描いたことがないんです。目標は別になくて、一生このままでいいかなと思ってます。65歳までこの生活で、年金をもらいたいです。
――野心的だか保守的だかわかりませんけれども。
アイキッド:本当に目標がないんです。もう少しギャランティが上がればいいなとは思いますけど。最近付加年金にも入ったし、65歳までなんとか逃げ切って、あとは釣りざんまいの生活をしたいです。
――うーむ。なるほど。
アイキッド:もちろん売り上げはあったほうがいいですけど。今はけっこう楽しいですね。
――でもミュージックビデオが軒並み再生数100万を超えたりすると、サクセス!って感じがするんじゃないですか。
アイキッド:まあ、数字の区切りとして気持ちいい感じはしますね。ただ、ギターを弾いて「ロックだぜ!」とか、そういう人生じゃなかったので。本職はベースですけど、そもそも楽器が弾きたいとか、モテたくて始めたとかじゃなくて、パソコンでちまちま作っている時、隙間を埋めるためにギターを覚えたので、今は非常に不思議な感じですね。ライブでギターを弾いていても、所作がわからない。「ギターは顔で弾け」とか言われても、顔が出ないからわからないし(笑)、何をしていいかわからない。困ったもんです。
――(笑)。でも顔は、代わりにジョーさんがやってくれている。
アイキッド:そうです。
――ジョーさんは、スターになりたいとか、スポットライトを浴びたいとかは?
ジョー:スポットライトはいらないけど、パフォーマンス大好き。アメリカで、ステージの上でパフォーマンスをやっていたし、大好きだけど、「ME!ME!ME!」という感じではない。なんですかね、先生(アイキッド)。
アイキッド:正直、似てる部分はありますね。質素に生活したい。そうでしょ?
ジョー:そうそう。私の希望は、長い間、こういう生活をすること。それだけです。ビッグスターはめんどくさいから、それはほしくないですね。
アイキッド:そのわりには、普通にバレる格好で街を歩きますけどね。プチスターでいいんじゃない? 都立家政でちやほやされればそれでOK。
ジョー:うん。中野ブロードウェイのスターでも大丈夫。
――二人とも、全然ロックスター志向じゃないってことですね。
アイキッド:二人は「ギター役」と「ボーカル役」なんですよ、はっきり言えば。そもそも彼は、パフォーマーとして起用するはずだったので。
ジョー:パフォーマンスするのが好きだけど、スポットライトはいらない。でも楽しい。楽しいことは一番大事。
アイキッド:楽しいのが一番だよな。私もそう。音楽を聴いて、クスっと笑って、みんなが共感してくれればそれでOK。それで生活できれば、それ以上は別に、かな? 大丈夫ですか、こんな地味な話で(笑)。
――いいんです。アンチスターな姿勢がかっこいいです。
アイキッド:アンチまで行かないですけど、だって恥ずかしいじゃないですか。ステージに立って、ギターをこんなふうに弾くなんて。ギターソロだって、「うわー、次はソロだ……」って思いますもん。でもちゃんと弾きますけどね。お客さんに高いチケットを買って来てもらっているからには、きちんとやります。
ジョー:ギター、うまくなったよね。
アイキッド:そうそう。実は地味にうまくなってます。まさかこの歳で、ギターがうまくなるとは思わなかった。
――アイキッドさんはやっぱり音楽のフェイバリットというか、ターゲット年代は80'sですか。
アイキッド:80'sしか作れない感じです。パソコンで音楽を奏でることを、90年代前半からやってるんですけど、ずーっと同じスタイルでやっていて。だから、80’sリバイバルブームが来て、それに乗っかったと思われるのはすごく嫌なんですけどね。ずっと同じことをやっていただけなので。
――時代が追いついたんじゃないですか。
アイキッド:追いついたというより、時代が回っただけですね。回り回って、ようやく自分のターンが来たなというか、勝手に来ちゃったというか。私は何かをやる時に、三つの大事な要素があると思っていて。それは音楽性と、ボーカルの異質感と、面白いベース音。この三つが頭の中できちんとシミュレーションできれば、ある程度まで絶対行けると思ってました。そもそも週末バンドとして始めたので、月に5万円ぐらいになればいいかなと思ってたんですけど。という話を結成前にジョーに何回もして、「絶対行けるから大丈夫だ」と言いました。この三つがあればブルーオーシャンで、ライバルが出現しないんです。
――なるほど、結成当初から相当綿密にコンセプチュアルではあるわけですね。
アイキッド:(二人が出会ってから)2016〜2018年の3年ぐらいは、かなり考えて作ったので。スタートダッシュだけは失敗できなかったので、かなり練り込みました。
――そうしたら見事に注目されて、大きな会社で、豪華ゲスト満載の楽曲やMVも作れて。そういう意味では、思い描いた理想が実現できる環境を手に入れつつある、と言ってもいいんじゃないですか。
アイキッド:そうかもしれない。思い描いた未来というものはほぼないんですけど、漠然とやりたかったことが、いろんな人に助けてもらってできるようになったというのは、非常にうれしいですね。個人ではできないことなので。
能ある鷹がずっと爪を隠している状態
――というわけで、好調なメジャー1stアルバム『アイキッドとサイボーグジョー』。これは、今までの活動の集大成という感じですか。
アイキッド:これに関しては、集大成の一歩先ですね。前回インディーズで出したアルバム(『Back To The 80's』)が、6年間の集大成みたいなところで、今回は新しい曲も作ったし、カバーもさせてもらったし、昔作った曲のリメイクもできたので、一歩先に行ったかなと思います。そもそもこんなに曲を作ったこともなかったので、恥ずかしいですけど、「あ、できるんだ」と思いました。
――進化してますね。ジョーさんはこのアルバム、好きですか?
ジョー:好きです。ただ「半額タイムセール」は、先生が作った時に歌詞を見せてもらって、「ベリー恥ずかしい」と思いました。これは馬鹿すぎると思った。
アイキッド:君は私の私生活を馬鹿にするのか(笑)。
――リアルストーリーですもんね。
アイキッド:歌詞は全部私の体験談なので、彼の入り込む余地がないぐらい自分の世界を作っている。スーパーの半額タイムセールは毎日行ってるし、今日も行きますけど、そこで近所のおばさんに勝つことを日課としておりまして、そういう思いで書いた曲です。
――歌詞で言ってることが、どれも超プライベートですよね。
アイキッド:ほかに出てこないんですよ。
ジョー:でも今はもちろん好きです。「半額タイムセール」に慣れた。ミュージックビデオも楽しかった。アメリカのアル・ヤンコビック、いるでしょう。
――「Eat It」ね。
ジョー:そうそう。そういうミュージシャンがいるから、そのイメージだね。アル・ヤンコビックの『The Food Album』という全部の曲が食べ物をテーマにしたアルバムがあるんだから、そういうセンスだね。その考え方で、慣れた。
――アル・ヤンコビックが出ましたけど、アイキッドさんの曲作りって、パロディの要素は意識しますか。
アイキッド:パロディというよりは、もうちょっと先に進んでいるものがいいかなと思うんですね。何て言うんだろう、パロディじゃないんだよな。
ジョー:オマージュ。
アイキッド:オマージュというか、パスティーシュというか、もう一歩先へ行ってますね。自分で言うのもアレですけど。
――たとえば「さよならロックスター」の、Van Halenっぽさを感じさせるフレーズとかも、そういう意識ですか。
アイキッド:「さよならロックスター」は、ぶっちゃけ「Jump」なんです。あれをそのまま演奏している日本人メタラーはいっぱいいるんですが、「さよならロックスター」を聴いて、最初「パクリじゃねえか」と思ったエディ・ヴァン・ヘイレンのファンを、AメロBメロで泣かせるということをしたかった。伝わらない人にはまったく伝わらないですけど(笑)。
――いやいや。YouTubeのコメント欄とか、感動しましたという書き込みがすごく多かったです。
アイキッド:あれは自分でも、作りながら感極まったところがあります。だから、ただのパロディで終わってしまってはつまらない。
――「ポンズのテーマ」の、『ゴーストバスターズ』感とかも?
アイキッド:それは、パロディでいいと思います(笑)。「ポンズのテーマ」は、オマージュだパロディだという部分を除けば、Aメロがすべて輪唱になっている、構造的には面白い曲かなと思ってます。技術的にわりと凝ったことをやっている部分もあるんですけど、押しつけがましくなるのは嫌なので、それを感じさせないようにしている。能ある鷹がずっと爪を隠している状態というか。たまに出しますけど。
――まだほかで言っていない、隠している爪があったら教えてください。
アイキッド:まだ言ってないやつですか(笑)。「特攻!成人式」とかですかね。
ジョー:おおー。ナイスソング。
アイキッド:これは、地方のヤンキーを馬鹿にしている曲だと思われるかもしれませんが、地方と都心の学歴格差と、その後の人生を描いた曲です。MVも、我々がずっと紋付き袴を着ていると思われてますけど、最後に出てくる二人は、あの親の子供です。階級の固定化を描いているんです。……というとすごく深い感じがしますけど(笑)。ただそういう、気づかない人は気づかないことをちょいちょいやっています。
――それは気づかなかったです。すみません。
アイキッド:いやいや。そういう説明は、彼(ジョー)にも絶対していないので。
ジョー:ずーっと秘密です。
アイキッド:言っちゃうと、顔に出ちゃいますからね。サイボーグなんだから、そこはわかってなくていい。もっと言うと、彼を起用した理由の一つに、自分の言いたいことを、わかる人にだけわかるように届けるには、色物に化けるのが一番有利だと思ったんですね。
――それは深いですね。
ジョー:あと、「パーティスーパースター」も。
アイキッド:「パーティスーパースター」も、実は二重構造になっています。一般的に言うと、渋谷で馬鹿騒ぎしている若者を揶揄する曲だと思われるんですが、もうちょっと深いです。私の真意はDメロで出てきます。
――なるほど。
ジョー:先生はディープ・シンカー。私は日本語でディープ・シンクできないから、「はい、わかりました!」って。
アイキッド:そうでなければ、私が困りますから(笑)。ただ、彼は地頭が私よりいいですし、理解力は彼のほうが上です。
ジョー:ナイス嘘つきです(照笑)。