Kanaria×のう、柊キライ×WOOMA、syudou×くろうめ、シキドロップ×革蝉……音楽家×絵師の名タッグが生む独創的な音楽作品
YouTubeなど動画サイトで楽曲が発表されることが一般的になり、多くの曲にMVがつくことが珍しくなくなった。その中でも近年特にめざましい発展を遂げたのが、イラスト&アニメーションMVの分野だろう。ニコニコ動画から端を発する、歌い手、絵師、動画師、エンジニアなど各分野を得意とする者が集まって一つの作品を完成させていくというスタイルは、ここ数年でかなり成熟したものになった。その結果作られたMVは、単なる楽曲、映像ではなく、「総合芸術」と呼んでもいいかもしれない。今回は、イラストと音楽が組み合わさることで作品世界を拡張した、アーティスト×絵師のコラボレーションについて取り上げたい。
Ado×寺田てら
まずは、Ado×寺田てら。寺田てらは、ナナヲアカリの「ダダダダ天使」、まふまふの「ハローディストピア」など、ヒット楽曲のMVをいくつも手がけてきたイラストレーター。その特徴は、原色メインのくっきりした色使いと主線、そしてカートゥーン感のあるデフォルメされたポップなキャラクターだ。
そして、言わずと知れたAdoは、歌い出しの一音目から「Adoだ」とわかるような個性とパワフルさを持つボーカリスト。このパンチ力の強い2人が組んだのが、「阿修羅ちゃん」だ。〈ねぇ あんたわかっちゃいない〉という威勢のいい歌声で開幕し、気持ちのいいホーンアレンジに、伸びやかでこぶしのきいたAdoのボーカルが炸裂するなか、青と白のツートンヘアーに角の生えた「阿修羅ちゃん」が画面いっぱいに自由気ままに跳ね回る。パワフルな個性派のタッグにより火力を増したこの曲には、視覚的にも聴覚的にも突き抜けるような痛快感がある。
Kanaria×のう
続いて取り上げるのは、2020年にシーンに登場し、あっという間にスターダムを駆け上がったボカロP・Kanaria、そしてその出世作となった「KING」のイラストを担当した、のうだ。のうはポップで鮮やかな色使いが魅力のイラストレーター。キャラクターのかわいらしさにまず目がいくが、着目すべきは光と影の表現の上手さだ。多彩な色を使ったイラストでは、光のまばゆい演出がアクセントになっているが、暗めで色数を押さえたイラストになると一転、陰影の力が発揮されるのだ。
Kanariaの楽曲のMVは、現時点ですべて赤色が使用されており、サムネイルの一覧だけでも統一感がある。「KING」ももちろん同様で、「モノクロと差し色の赤」という色の縛りの中、玉座に座ったキャラクターが醸し出す不穏な雰囲気は、のうの陰影づかいの妙によるもの。ダークで疾走感のある楽曲の魅力も十二分に引き出し、作品の顔となるイラストに仕上がっている。
柊キライ×WOOMA
イラストの存在感とともに楽曲が認知されていると言えば、柊キライとWOOMAの組み合わせも外せない。
WOOMAのイラストを起用し、2019年に公開した「オートファジー」がヒットとなった柊キライ。そこから同じタッグで「エバ」、「ボッカデラベリタ」などの楽曲を公開し、階段を駆け上がるように名を挙げていったボカロPだ。サビで執拗に〈アイヘイチュー〉と繰り返す「ボッカデラベリタ」など特にわかりやすいが、その楽曲の根底にはどれも、怒り、嫌悪、苛立ちのようなネガティブな感情がのたうちまわっている。
その煮詰めたような毒々しさをさらに盛り上げているのが、WOOMAのイラストだ。繊細かつケレン味のあるイラスト自体が目を引くのはもちろん、曲の中で表情が変化していくのも見ものだ。曲の盛り上がりとともにキャラクターの瞳が真っ黒になったり、表情がより激しいものに変わっていくことで、先に述べたようなネガティブな感情が噴出したように見え、曲の盛り上がりの最大値をさらに引き上げている。