『マッカートニー 3,2,1』レビュー:ポール・マッカートニーがリック・ルービンに明かす、名曲誕生のプロセス

P・マッカートニーが明かす名曲誕生のプロセス

 実験的なスタジオワークについて語るエピソード4も秀逸。「A Hard Day's Night」のギターソロはテープの回転数を落としてレコーディングし、それを元に戻すことで速いパッセージを再現したこと、「Tomorrow Never Knows」のレコーディングでは何本ものテープをコラージュし、楽曲の中に混ぜ込んだことなどThe Beatlesのファンの間では相当有名なネタも、やはり本人の口から語られると説得力と臨場感がまったく違う。The Beatlesの他のメンバーには大変不評かつ、ファンの間でも賛否分かれる「Maxwell's Silver Hammer」も、コンソールでツマミを動かしながら「この曲では伝統的な音楽と、その時の最新楽器(モーグシンセサイザー)を融合させたかったんだ」などと本人に熱く語られると、なんだか憎めない気持ちになる。

 さらにエピソード5では、「(The Beatles時代は)曲を書いた人が、その曲の構想を立てていたの?」とリックに尋ねられたポールが、「そう。だけど僕はすぐに口を出してしまうから憎まれてたんだ」などと自虐的に語るところも、つい一緒になって笑ってしまった。また、「Maybe I'm Amazed」(『McCartney』収録)のマルチテープを2人で聴いているとき、最終ミックスでは消されていたギターソロが突然聴こえてきて、リックだけでなくポール自身も非常に驚いていたところなど見どころが満載。ポールの才能について生前のジョンが残した発言を、リックがポールの目の前で読み上げるシーンも感動的だ。

 これまで様々なところで語られてきた有名なエピソードから、コアなファンですら初めて耳にするような逸話まで、次から次へと惜しみなく話し続けるポールの姿を見ながらつくづく思う。20世紀最大のアーティストが、気さくでチャーミング、かつサービス精神旺盛な人物で本当に良かったと。もし彼が仮に気難しくてサービス精神の欠片もない人だったり、ぶっ飛び過ぎて話が通じない人だったら、この世に残された数多くの名曲がほとんどべールに包まれたままになっていたかもしれないのだから。

■配信情報
『マッカートニー 3,2,1』
ディズニープラスにて見放題で独占配信中
公式サイト

『ザ・ビートルズ:Get Back』
ディズニープラスにて全3話見放題で配信中
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