『ニュイ』インタビュー
パスピエ、葛藤を経てフラットになった自分たちらしさ 音楽の面白さを真っ直ぐ探究する4人の現在地
意外な組み合わせから生まれる“オリジナルな味付け”
ーーアルバムの最後には「PLAYER」という曲もあります。これが「演奏者」という意味だとすると、「ミュージック」と対になる曲とも捉えられそうですね。
成田:“音楽をやっていくんですよ”っていうことで「ミュージック」ができたから、それを補完する上で入れるのもありかなと思った曲ですね。自分的にはアルバムのエンドロール感があるんですけど、スパッと終わりですよっていうより、“To Be Continued”というか、また次にっていう感じも出せてるのかなと思ってます。
露崎:実は「PLAYER」は、『synonym』のときからあった曲なんです。俺が結構推してたんですけど『synonym』には入らなくて。今回入ってよかったです。
ーーこの曲、イントロが「音の鳴る方へ」に似てるなと思ったんですけど。
成田:へえ、初めて言われました!
ーーあの曲も「パスピエの音楽とは何か?」ということを書いた曲だったから、つながってるのかなと勝手に思っていて。
成田:自分としてはオマージュでは作ってないですね。
三澤:でも、たしかにキーがE♭mで一緒か。
ーーあと、アルバムの流れで言うと、中盤のオリエンタルゾーンはパスピエの真骨頂ですよね。「雨燕」あたりから始まってーー。
成田:「影たちぬ」でストレートに歌謡的な世界観を出して、「見世物」で崩す。
ーーそうそう。「はらりひらり」も含めて、このあたりはこれまでのパスピエのオリエンタルな要素がさらに拡大解釈されるような面白さがありました。
成田:アミューズメント感もありつつ、気持ち的にはずっと引き続いてるオリエンタル感を違う角度から捉えたいなって。しょっぱいものを食べたいときに、醤油をかけるんじゃなくて別の組み合わせでしょっぱくしよう、みたいな。
大胡田:スイカに塩みたいなこと?
成田:そうじゃない(笑)。別の手法で味覚を刺激するというか。カレーにコーヒーを隠し味で入れたりっていうのがあるじゃないですか。前までは単純にカレー粉を入れて、カレーを作りましょうみたいな感じだったけど。
ーー意外な組み合わせの妙で味を出していると。
成田:そうですね。逆に「アンダスタンディング」とか「言わなきゃ」はストレートに味付けをした曲だと思うので。今回はその味付け的なところを互い違いにしながら、曲順を組んでるんです。自分がこう弾きたいっていうよりも、最終的に曲が面白くなるためにはどうしたらいいかを考えていて。これもフラットな気持ちで音楽をやればいいじゃんっていうところに通じる話なんですよ。その真っ新な気持ちを作品にどれだけ落とし込めるかを、今回の『ニュイ』ではずっと考えてたと思うんです。
ーー組み合わせの妙というと、「BLUE」もそうですかね。冷徹な打ち込みのビートが貫かれるなかで浮遊感のある柔らかな音像が乗っていて。特にギターの音色が面白い。
三澤:変わった音色ですよね。これはベースが……なんて言ったらいいんだろう。
露崎:サンプリングをしてる。
ーーというと?
成田:音階を弾いてもらったんですよ。
ーーあ、普通にベースを演奏するんじゃなくて、一度音階をパソコンに取り込んで、それをアウトプットする形でベースのラインを作っていると。
三澤:そう。それでベースも面白い音色ができ上がってるんです。ドラムも打ち込みで作っていて、そこに生のギターが乗っかっている。そういう意味では別の方法で塩味を出すっていうことに近いかもしれないですね。制作において一番楽しく遊べた曲だと思います。
タイトル『ニュイ』に込めたもの
ーー今回は「言わなきゃ」という曲があったり、「PLAYER」に〈言語を経由せよ〉という歌詞もあって。感情を言語化するという想いが強かったのかなと思いましたが、どうでしょう?
大胡田:それはありますね。コロナ禍は出かけたりできない時期だったので、自分の予想だと想像力頼みのファンタジーな歌詞が増えるのかなって思ってたんですけど、そうはならなかったんです。ちゃんと生きてるなかで考えることを、わかりやすく伝わるような言葉で書きたいっていう想いはありました。「雨燕」とか「見世物」みたいな全然違うタイプの曲もありますけど。想像の世界よりも、リアルな部分が多いと思います。人間味のある曲が多いんじゃないかな。自分の歌い方とか声でバランスはとってるので、すごく生々しいわけじゃないんですけど、ちょうどいい具合に世界観に浸ってもらえたらと思いますね。
ーーアルバムタイトルの『ニュイ』は口が気持ちいい言葉ですよね。フランス語で「夜」という意味だそうですけど、どんな想いでつけたんですか?
大胡田:これは、私がみんなに「どうですか?」って聞いたんです。『フランスの配色』っていう本があって。この色とこの色を混ぜるとノーブルな感じになるとか、そういうことが載ってるんですけど、その影響もあって、もともと私はこのアルバムの曲たちにちょっと青みがかった色を感じることが多かったんですよ。
ーー「BLUE」という曲もありますし。
大胡田:そうですね。その本のなかに「ブルーニュイ」っていう言葉があったんです。調べたら、ニュイって夜のことだなと知って。この文字面と響きがちょっとおもしろ可愛いから、最初は特に意味もなく「『ニュイ』どうですかね?」ってみんなに聞いたんですけど、あとになってタイトルに意味を持たせたいなって考えたときに、夜明けのように、これからの私たちの未来が明るく開けていきますようにっていう気持ちも込められたらと思ったんです。
ーー夜の曲が多かったのも偶然だったんですか?
大胡田:そうです。あとになって『ニュイ』が、このアルバムを包み込んでる言葉だなと思いました。1曲目の「深海前夜」は〈今こそあけぼの〉で終わったり、「BLUE」もあったり、「PLAYER」も夜中の歌ですし。
ーーよく「明けない夜はない」とか言われますけど、そういうときに「夜」ってネガティブな意味だと思うんですね。でも『ニュイ』の夜はそうじゃないですよね。
大胡田:これから昇る太陽を見るための夜なんですよね。夜って自分と向き合ったり、考えたりできる時間だと思うんですよ。『ニュイ』の夜は悪い意味だけじゃなくて、そういう時間も大切にして、明るい陽を見ましょうっていう感じなんだと思います。
■リリース情報
パスピエ『ニュイ』
12月8日(水)リリース
通常盤(CD)¥2,545税抜
初回限定盤(CD+Blu-ray Disc)¥5,000税抜
P.S.P.E盤限定BOX(CD+Blu-ray+ロングスリーブTシャツ+特製ステッカー)¥8,000税抜
<Track List>
1 深海前夜
2 アンダスタンディング
3 ミュージック
4 雨燕
5 影たちぬ
6 見世物
7 グッド・バイ
8 はらりひらり
9 言わなきゃ
10 BLUE
11 PLAYER
<Blu-ray収録内容>
『PSPE TOUR 2021 KAIKO at Zepp DiverCity TOKYO』
ライブ映像全21曲をノーカットで完全収録(メンバーによるオーディオコメンタリー付)