パスピエ、葛藤を経てフラットになった自分たちらしさ 音楽の面白さを真っ直ぐ探究する4人の現在地

パスピエ、フラットになった4人らしさ

 いまのパスピエは極めてフラットな状態で音楽と向き合っている。今年5月の「グッド・バイ」を皮切りに、アルバムに先駆けて7曲の先行配信シングルをリリース。それを含む全11曲を収録した通算7枚目のアルバム『ニュイ』は、そんなパスピエのモードが如実に反映された作品だ。トラックメイカーを中心にした国内外のビートミュージックの盛り上がりに目配せしながらも、バンドらしいフィジカルな熱量も詰め込んだ今作は、前作『synonym』と地続きでありながら、より自然体なパスピエを感じる1枚になった。初期からのバンドの持ち味でもあるオリエンタルな要素がアップデートされた「雨燕」、バンドの生き様をパッケージした「ミュージック」、パスピエらしいポップスの進化系「アンダスタンディング」など変幻自在に姿を変えてゆく、ただそこにあるだけの音楽。結成から12年、初めての境地で唯一無二のポップミュージックを更新した4人に話を聞いた。(秦理絵)

「ポジティブでもネガティブでもなく、フラットになった」

ーー今年はアルバムに先駆けて配信シングルを7曲リリースするというバンド初の試みを行ってきたわけですけど。その全曲がまったく違う世界観だったことに、パスピエの守備範囲の広さを感じました。

成田ハネダ(以下、成田):もう12年やってますからね(笑)。

ーー今回こういうリリース方式をとったのはどういう意図があったんですか?

成田:7曲を出していくなかで、今年の僕らの断片をまず見てほしいなっていうところですね。今年はライブの本数が少なかったので、温めて温めてアルバムを出すというよりも、年間の活動を通して見せつつ、それがまとまったものっていう形でアルバムを出すほうが、いまのスタイルには合ってると思ったんです。

ーーとなると、リスナーの反響を見ながら制作できるメリットもあった?

成田:いや、そこはなかなか実態として可視化していくのは難しいんですよ。

三澤勝洸(以下、三澤):7月にツアーもあったので、一旦そこで新曲をやって反応を見られたのが大きかったと思います。それを経て選曲した感じだったので。

成田:こういう配信のやり方をして良かったと思うのが、常に新しい楽曲がそれぞれの配信サイトのバンドのページのトップに載るんですよ。そのニューリリースと一緒に過去によく聴かれている楽曲も表示されるので、ちょっとでも新しいパスピエを面白いと思って食いついてくれる人が増えたらいいなと思いましたね。

ーーいまのパスピエは新しいリスナーに「出会ってほしい」という気持ちが強そうですね。

三澤:はい、まさに。

大胡田なつき(以下、大胡田):出会う面積は多いほうがいいのかなと思ってますね。

ーー露崎さん、大胡田さんはこの1年間をどう振り返りますか?

露崎義邦(以下、露崎):ライブをしづらい状況ではあったんですけど、いろいろな人の力を借りて東名阪を回ったり、夏は大阪のフェスにも出られたので、すごくアクティブに忙しくさせてもらったかなって。有意義に活動できたと思います。

大胡田:去年よりも「この先」のことを考える時間が増えましたね。自分のことについても周りのことについても。やっぱりこんなに(コロナ禍が)長くなるんだな、このコロナの時代がすぐ終わることがないんだな、それを日常として受け入れてかなきゃいけないんだなっていうことを考えながら、配信ライブをしたりとか、お客さんの人数を制限したライブをやったりして。私たちなりのやり方を模索していかなきゃいけないなって考えてました。

大胡田なつき

ーーそんな1年を経てリリースされるのが7枚目のアルバム『ニュイ』になります。サウンド的にはよりリズムの捉え方を重視した作品になったんじゃないかなと思いました。

成田:トラックメイク的な曲作りをするようになって2〜3年経つんですけど、バンドのなかでリズムの立ち位置が昔よりわかってきた感じがするんですよね。いまはトラックメイク自体もどんどん進化してるから、そこで影響を受けることは多いんですよ。ヒップホップに限らず、トラックメイカーの作品もそうだし。ただ、僕らは出自がトラックメイカーではないので、そこを真似ようと思っても、側(がわ)だけになってしまう。そこにどうやって抑揚をつけていくかにはすごくこだわってます。バンドだったら、普通に「せーの」で合わせれば勝手に波が作れるけど、トラックメイクの場合ってそういうことを意図的にやらないといけない。呼吸のように何かを作ることに軸を置いてますね。

ーーいまは打ち込みのループミュージックが音楽シーンの潮流としてはあるけれど、あくまでもパスピエはバンドであるというところで、いかにそこと擦り合わせていくかを考えながらの制作だったと。

成田:はい。ただね、まだ咀嚼しきれてないんですけど。もはやバンドっていうカタルシスに呑まれてるだけじゃないなとも思っているんですよ。4人になった直後の頃は、そもそもバンドって言えるのか? ってことを考えてたんですけど。

大胡田:そうねえ。

ーー2017年にドラムレスのバンドになって、最初の作品『OTONARIさん』を作ったときは、かなり模索していましたよね。パスピエはバンドなのか、そうではないのか。

成田:そう、もはやユニットなのかもしれないし、バンドとしての側面も絶対にないわけじゃないしっていう。そこをずっと考えているんですよ。でも、もうそういう形態にもこだわらなくなったのかもしれないです。もはやパスピエでいいじゃん、みたいな。前の5人のときも今もそうだけど、自分たちに足りないものをどうにかしようとして、それが見えてないときって一生懸命何かを見ようとするんですよね。でも、ずっと年数を重ねていくと、その一挙手一投足にいちいち憂いを抱かなくなってきた。自分たちの歩んできた経験のなかで得たものが少しずつ見えてくると、じゃあそのなかで何ができるかなって思える。それは別にポジティブに考えようっていうわけでもないし、ネガティブなわけでもなく、すごくフラットになったと思うんです。

露崎:それってたぶん4人でいることを体感として得られたことが大きくて。血となり肉となり、いまのパスピエはこうだよっていうところに地に足が着いてるのかなって。それが『ニュイ』には表れてると思いますね。

成田ハネダ

肩肘を張らずにつけた「ミュージック」

ーー大胡田さんは今回のアルバムに関してはどうですか。

大胡田:私は好きなんですよ、こういう感じ。広い意味で自由という感じがしますね。今だったらいろいろな形に、すごく気軽に変われるんじゃないかって。重い決心とかではなくて「やってみたいな」と思ったときにパッとやってみたい形になれる。そういう状態なのかなっていう気はしてます。

ーー前作『synonym』もコロナ禍に制作したものだったから、ステイホーム中に家で聴かれることも意識した作品でしたけど、今作はどうですか。

成田:前作のほうが余分に葛藤してた部分はあったと思います。その余分に考えたことが何か作品に与える影響もあるんだけど、そのせいでメンタル的に必要以上にエネルギーを使うこともあったんですよね。でも、いまはそれがフラットになったからこそ、自分たちの存在意義とは何ぞや、みたいところに行けた。ただそこにあるだけで、「ああ、パスピエの音楽があるよね」って言える状況にするためにはっていうところでの選曲だったんじゃないかなと思います。

露崎義邦

ーーもはや家で聴かれるとか、そんな次元では悩まなかった?

成田:まあ悩むんですけど、悩むことも、もはや別に……。

大胡田:普通ってことだよね。

ーーなるほど。コロナ禍で2枚目のアルバム制作という点で変化はありましたか?

三澤:前作よりも顔を合わせる機会は多かったですね。結果として『synonym』とは違う躍動感が詰め込めたかな、という感じはします。やっぱり違うんですよ、実際に会うと。

ーー前回はZoomで頑張って合わせたという話もありました。

大胡田:上手くいかなかったやつですね(笑)。

露崎:今回もデータでやり取りして録音をしたものもあるんですよ。そういうやり方ってお互いのことをより深く知らないと、同時に録音してる空気感が出せないんです。『synonym』のときにはその空気感をデータ上でも出すことに苦労したんですけど、『ニュイ』の制作に関しては、そういった経験をもとに、データ上から伝わるメンバーの肌感とか温度感を前回よりは汲み取れるようになったと思います。

パスピエ – グッド・バイ (Official Music Video) PASSEPIED – Good Bye (Official Music Video)

ーーアルバムに先駆けて一発目にリリースされた「グッド・バイ」は晴れやかなエレクトロポップでした。『synonym』を経て、どんなことを考えながら作っていたんですか。

成田:『synonym』が終わった段階では、サウンドとしては開こうとは思っていたんですよ。だけど明るさとは対を成すような歌詞が乗ったので、「解放」というか、わかりやすい暖色な曲にはならなかったんです。半分あきらめの歌みたいなところがあるんですけど、それはドロップアウトしたという意味ではなくて、自分とは離れて物事を見るというか。俯瞰で見るというテーマで作ったかな。

三澤:聴き手に委ねるようなね。

ーー私はなんとなく、この閉塞感のある時代への別れを告げる意味での「グッド・バイ」なのかなって思いました。コロナを意識してしまうからだと思うんですけど。

成田:ああ、わかります。こういうものって、深読みをしようと思ったら際限なくいくらでもできるから。そこに対しての答えが当たってるとも間違ってるとも思わない。その在り方が自分自身のいまの生き方としても、世の中的にもそうなんじゃないかっていうのは予想しながら書いたところはありますね。

三澤勝洸

ーー今回のアルバムのひとつの軸になっているのが、8月にリリースした「ミュージック」ですよね。

大胡田:そう捉えてもらえると嬉しいですね。

成田:全部さっき言ってたことの総括になっちゃうんですけど、もう音楽でいいじゃんっていう感じなんですよ。“リスナーにより刺さるためには”っていうことを考えるのも大事だし、そこを失わないように作らなきゃいけないけど、やっぱり音楽をやりたくて活動してるわけだから。その空気感そのものを共有できれば一番いいなと思って作った曲なんです。まさかこんなタイトルの曲を書くとは思わなかったですけど(笑)。

大胡田:成田さんがこのタイトルの曲を出すとは思わなかったよ、私は。成田さんだけに限らず私も最初からそうですけど、「肝心なところはあなたの判断でいいですよ」みたいな余白とか、想像の余地を残しておくのがすごく好きだったので。「ミュージック」というのはなんと直球なタイトルなんだろう、「いいの?」って。

ーー生き様が出ちゃいますよね。

成田:でも、それさえもどうでもいいと思ってたんですよ。たぶんいま「ミュージック」というタイトルの曲を出したところで、全員が全員そこに責任を持って出した曲なんだなとは思わない気がするんです。いまはリスナーもどんどんクレバーになっていて、ファンタジーで見せていたことも「ここは実はリアルなことだったのね」とか気づいてくれると思っていて。だから「ミュージック」っていうタイトルの曲を出すことには、それなりに思い入れもあるけど、別に肩肘は張ってない感じかな。

ーーたしかに「ミュージック」っていうと、もっと壮大に“ザ・パスピエ”ってなりそうだけど。

大胡田:「俺たちの!」みたいなね(笑)。

ーー意外とサビも平熱なんですよね。これに「ミュージック」と名づけられたこと自体が、いまのパスピエのムードなんでしょうね。

成田:そうそう。

三澤:あとサウンド的には前作のアルバムから最も地続きな曲なんです。正統進化というか。そういう意味でもアルバムの軸になるかなと思います。

パスピエ – ミュージック (Official Lyric Video) PASSEPIED – Music (Official Lyric Video)

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