『Break and Cross the Walls I』リリースインタビュー
MAN WITH A MISSION、10年の中で見つけた“正解” 自らの強みを確信し作り上げた新アルバムを語る
MAN WITH A MISSIONが、アルバム『Break and Cross the Walls I』をリリースした。3年半ぶりのオリジナルアルバムとなる本作は、当初二枚組の構想だったが、いち早くリスナーに届けたいという思いから2作連続リリースに。その第一弾にあたる同作の制作に至った経緯、ベスト盤を経て確信した“MWAMらしさ”について、Jean-Ken Johnnyに話を聞いた(※インタビュー本文は編集部で日本語に翻訳)。さらに、記事後半ではKamikaze Boy、Spear Rib、Tokyo Tanaka、DJ Santa Monicaへのメールインタビューも掲載(※原文ママ)。11月30日からスタートするツアーへの意気込みも語ってくれた。(編集部)【記事最後にプレゼント情報あり】
ロックへの憧れを一点の曇りもなく打ち出していることが強み
ーーMAN WITH A MISSION(以下、MWAM)がオリジナルアルバムをリリースするのは前作『Chasing the Horizon』(2018年6月発売)から約3年半ぶり。この期間も絶えず新曲を発表していたので、そんなに空いたという感覚がまったくありませんでした。
Jean-Ken Johnny(以下、Jean-Ken):そうなんですよね。ずっと新曲を出し続けている自覚があったので、僕らも実際に数字を聞いたときは「そんなに空いたんだ!」とびっくりしました。
ーー特にここ2年はライブも思うようにできない状況でしたが、そのぶんレコーディングスタジオに入る時間も増えたんですか?
Jean-Ken:制作をするという意味ではスタジオに缶詰になった期間は長かったと感じるんですけど、このルーティン自体はコロナ禍前も一緒なので、特別この期間だからという感覚でもなくて。物理的にライブやツアーができなかったぶん、むしろデモを作る段階から余裕を持って臨めた気がします。
ーーではコロナ禍以前と以降で、生まれてくる楽曲に何か変化を感じることは?
Jean-Ken:この期間に生まれる曲のメッセージは多少なりとも影響は受けるんですけど、とはいえ自分自身あまり音楽や楽曲そのものに時代性を放り込みたくないところもありまして。こんな時代じゃなくても当たり前のように、楽曲として力強いものとして生き残ってほしいと思いましたし。だから特別変わったという印象はなかったですけど、ひとつあるとしたら昨年ベストアルバム(2020年7月発売の『MAN WITH A “BEST” MISSION』)を出させていただいて、ちょっと心情の変化というか、僕自身客観的に「このバンドってどういうバンドなのかな? このバンドの本質的な強みって何なのかな?」と考えたんです。そこで確信に近いものを見つけたあとでの制作だったので、いろんなことに気を揉むというストレスがまったくない状態だったかなと思います。
ーーご自身が見つけた「自分たちらしさ」や「バンドの強み」というのは、具体的にどういうものでしたか?
Jean-Ken:僕自身ロックミュージックやロックバンドのファンですが、例えば「メロコアを聴くならこのバンドが一番」「グランジだったらこれ、オルタナだったらこのバンド」という個性や強みを分析することが好きなんです。でも、僕らのバンドは音楽的にものすごく多岐にわっているので、ジャンルで括るのが結構難しいタイプだと思うんですよね。なので、そこでの強みというのはもしかしたらないのかな? と不安だった時期もあったんです。でも、自分自身でも自覚していますし楽曲からも溢れていると思うんですけど、ロックミュージックやロックバンドが持っている精神性に対して純粋に憧れを感じる、そこを一点の曇りもなく、恥ずかしいぐらいに打ち出している。僕はそれが強みだと確信したんです。ものすごく真っ直ぐでもあるし、そこに対してだけは10年間ブレずに嘘がない、それが強みなんだとベスト盤を聴いて実感できました。
ーーなるほど。となると、そこで得た確信を経てニューアルバムの制作に取り掛かるわけですが、今作は当初2枚組を想定していたんですよね。
Jean-Ken:コロナ禍が長く続いてしまったというのもあって、ライブを観られない代わりにファンは僕らの新作を心待ちにしていたと思うんです。その思いに対してデカいプレゼントで応えたいなと考えまして、当初は2枚組アルバムを想定していました。でも、早く届けたいという思いが強かったのと、2枚同時リリースは単純にスケジュールが追いつかなかったという(笑)。ただでさえCD1枚14曲と比較的多めの内容になっていますので、2枚組28曲を一気に出すというのはさすがに張り切りすぎかなと思ったんです。
ーーそうだったんですね。Jean-Ken Johnnyさんがこれまで聴いてきたロックの中で、特に印象に残っている2枚組アルバムってありますか?
Jean-Ken:僕の中で一番印象に残っていて、今でもよく聴いているのはスマパン(The Smashing Pumpkins)の『メロンコリーそして終りのない悲しみ(Mellon Collie And The Infinite Sadness)』(1995年発売)。あれはちょっと衝撃的でしたね。もちろん音楽としても好んで聴いているバンドではあるんですけど、アートワークから作品そのものから描いている世界観から、すべてが大好きな2枚組作品です。逆にKamikaze Boyは今回、Guns N' Rosesの『Use Your Illusion I & II』(1991年発売)を意識したんじゃないかな。あのアルバムはボリュームとパンチ力という点でも素晴らしくて、強い生命力を感じる素晴らしい作品ですしね。
ーー収録される曲数が増えると表現できる楽曲の幅も一気に広がりますが、そこで今回はどんなものを表現したい、届けたいと意識しましたか?
Jean-Ken:アルバムを作るときって全体像を意識しながら作ったりもして、楽曲それぞれのつながり方だったりジャンル感を意識してしまうこともあるんですけど、さっきも言ったようにベストアルバムを経て客観的に自分たちを見られるようになり、本当に悩むことなくストレスフリーで制作に臨めたんです。なので、あまり考え過ぎずに作ったところはありますね。このメッセージを伝えたいからどうこうというよりも、僕としてはこの10年間培ってきた中で見つけた正解を、自分たちの内側に向けてそのまま提示しているのかな、みたいな印象も受けるんです。その正解を見つけた感覚をみんなに聴いてほしい、そんな感覚で作った楽曲が多い気がします。
ーーだからなのか、今作を聴いたときに真っ先に感じたのが「リスナーが求めるMWAM像が明確に表現されたアルバムだな」ということでした。
Jean-Ken:なるほど。制作に関しては僕とベースのKamikazeが楽曲を持ち寄るので、なんとなくの感覚ですけど、お互いいろんな正解を探しながらトライ&エラーをずっとしてきたと思うんですね。その中で「これはちょっと違うかもな」とか「自分としてはチャレンジしているつもりだけど、どうなんだろう?」と天秤にかけている部分が、たとえ作品を出したあとでもあったと思っていて。でも、その経験がこの10年間の積み重ねでひとつの自信につながり、確信として固まった。それが今回のアルバムにはより色濃く出ているのかなという気がします。
ーーアルバムタイトルの『Break and Cross the Walls I』は収録曲の「Break and Cross the Walls」から取られたものかと思います。このタイトルに込めた意味やKamikaze Boyさんが制作した楽曲で伝えたかったことは、どういったものでしょうか?
Jean-Ken:ひとつはこの時期に発表するアルバムということで、メッセージとしてはさっきの話とちょっと矛盾してしまうかもしれないですけど、今現在置かれている状況の中で皆さんが直面しているであろうさまざまな問題を乗り越えるという意味を、タイトルそのものに込めています。
おそらく皆さんもひしひしと実感している気がするんですけど、どちらかというと疫病そのものよりもこの時代になっていろんなものが飽和して、自分たちが今まで問題としてきたことがものすごく顕在化して、自分たちでも嫌になるぐらい毎日のように取り上げられたり、耳にしたり目にしたりする。そういった意味での壁や問題を今乗り越えていくべきなんじゃないかと、希望を持って言い聞かせているようなアルバムになるといいなという意図が込められているんです。
ーー思えばMWAMが世に出てから、大きな災害など世の中的にもいろんな出来事がありましたが、MWAMにはそういった困難に立ち向かう上で背中を押してくれるような楽曲が多かった気がします。このアルバムも5年後、10年後に聴いたときに、いろんな壁を乗り越える際の手助けになりそうですね。
Jean-Ken:それが一番あるべき姿であって、そうなれたら本望ですね。裏を返せば僕ら、何年経っても50年前のロックミュージックのメッセージに奮い立たされているわけです(笑)。
ーー僕も子供の頃からロックを聴いてきて、そこに心を動かされてきたわけですしね。では、今回のアルバムの曲順や、既存曲を2枚のアルバムに振り分ける基準など、構成に関してはどのように考えましたか?
Jean-Ken:曲順やコンセプトはKamikazeが中心になって考えるんですが、新しい楽曲がアルバムの顔になるわけですよね。そこに過去の楽曲をバランスよく散りばめるとすると、新しい楽曲はどういった立ち位置のものを作っていこうかということを共有することになります。