MAN WITH A MISSION、10年の中で見つけた“正解” 自らの強みを確信し作り上げた新アルバムを語る

MWAM、自らの強みを確信した新アルバム

2020年以降、僕は何かタガが外れたような気がする

ーーその上で、アルバムを埋めていくピースとなる新曲において、何を重視して制作しましたか?

Jean-Ken:僕自身は何も重視しなかったですね(笑)。今まではどういうピースを埋めようとか、「こういった作品にするからには、次にこういった曲を作っていくべきかな」と考えたりもしたんですけど、特に今回のアルバムにおいてはそういったことを本当に考えずに作っていきました。

ーー例えば「この曲ってアルバムのオープニングにふさわしいな」とか「エンディングにぴったりだな」ということも、特に意識せずに?

Jean-Ken:全然考えていないですね。今の話でいうと、1曲目の「yoake」と最後の曲「Anonymous」なんてまったくそんなつもりで書いていないですし、たまたま「オープニングに持ってきたい、エンディングに置きたい」とKamikazeから言ってくれたので、僕的には全然問題ないですよと。

ーーそうだったんですね。それにしてもオープニングを飾る「yoake」は、10周年を経ての最初のアルバムの1曲目にふさわしい楽曲であり、タイトルだなと思いました。この曲にはどういう思いが込められているんですか?

Jean-Ken:僕自身は人類の文明の発展を想起させるような楽曲したいなと思いまして。科学が発展していくときに人類全体が高揚感でいっぱいの中、興奮しすぎて見落としてしまっているたくさんのことの積み重ねがいろんな問題を起こしてしまっている。その科学の発展史から想起できる、僕ら自身の問題を扱った楽曲を作りたかったんです。

ーーサウンド的にも開放感が強く、従来のMWAMらしさをさらに一歩前進させたような印象を受けました。この曲から始まることで、バンドの新たな一歩に対してより期待感が高まるといいますか。

Jean-Ken:単純な希望というよりは、ものすごく夢を持たせてくれるようなものになったかなと。言葉を選ばずに言うと、めちゃくちゃポジティブな楽曲ではないんですよね。自分たちが今、時代として飽和していることに対した不安を描いているものだと思うんですけど、ただその飽和している中でも科学が発展しているときに僕らが抱いている妄想に近い期待感、高揚感は素晴らしいものだし、未来に向けて希望を抱かせてくれるような事象でもあるので。途中で入るナレーション、あれはNASAの宇宙飛行士の実際の音声だったりするんですけども、NASAの管制塔であれを最初に聞いた人は「人類、ここまできたか!」とものすごく興奮したと思うんです。その高揚感プラスアルファ、実際に自分たちが抱いた希望や夢に値するような生き方が本当にできているかと、そういうことを描きたくてサウンド的にもいろいろ考えたりしました。

ーー「yoake」で新たな幕開けを飾ったかと思うとAC/DCのカバー「Thunderstruck」へと続く、この構成が痺れますよね(笑)。

Jean-Ken:僕もアルバムの中で一番気に入っている流れです(笑)。1曲目であれだけ夢や希望を描こうぜと、壮大で美しく始まったと思ったら、続く「Thunderstruck」では有無も言わさぬパンチ力を発揮して。実際すごくいいカバーだなと思いますし、Kamikazeさんさすがだなと。

ーーこのカバーはKamikazeさんの提案だったんですね。カバーする際に特に意識したことや注力したことは?

Jean-Ken:AC/DCのあのボーカルスタイルに近づけるのは難しいですし、あの時代のロックというのはブルージーな歌い方をする方が多いので、それをどう自分たちのボーカルスタイルにハメようか、どういうアティチュードで歌おうかなということは一番考えたところです。あと、今回カバーして気づいたのは、ギターサウンドがものすごく秀逸だということ。モダンなヘヴィネスも感じさせるんですけども、この楽曲が持っている「時代とかデジタルとか、ごちゃごちゃうるせえよ!」というパンチ力はどれだけサウンドを更新しても、芯の部分は変わらない。逆に自分たちでやっておいてなんですけども、サウンドをモダンにすることによって言われのないリスペクトもカバーから感じるんですよね。中にはサンプリングとか多用して、モダナイズすることが先行してしまう作品ってあるじゃないですか。それよりも今回は、楽曲そのものが持つバカバカしいまでのパワフルさに最大限のリスペクトを払っているアレンジになっているなと僕は感じました。

ーーこのAC/DC含め、MWAMはこれまでもNirvanaやMr.Bigなど1990年前後の洋楽ロックを取り上げてきましたが、Jean-Ken Johnnyさんにとってその時期のロックにはどういう思いがありますか?

Jean-Ken:やっぱり自分が一番音楽を聴いていた時代でもあり、どうあっても思い出補正は入りますけど、それにしてもすごくアイデアと実験性と革新性が溢れまくっていた時代だったと思うんですよ。僕はオオカミなので歳は取らないですけども(笑)、年月が過ぎるにあたってどんどん「じゃあ今の子たちは何を聴いて興奮しているのか?」とか「あの頃の音楽はもう古いものとして切り捨てられているのかな?」って、時代を先に生きているものとして不安を覚えることもありましたが、今の20代の子たちも90年代の音楽を聴いてめちゃくちゃ興奮していたりするんですよ。最近デビューしたDoulさんとかまだ10代ですけど、90年代の音楽をすごく聴いているみたいで、そういう話を聞くとうれしいですよね。僕が感じたあの時代の音楽の前衛的な部分は、今の時代でも十二分に伝わるだなという感覚がありますし、なんならそこの畑でいまだに自分のサウンド感に落とし込んでいる側のオオカミでもあるので、思い入れは強いです。

ーーこのアルバムの中には、そういうあの時代のロックの王道感を大切にしながら、現代的にアップデートされていると感じる要素が随所に散りばめられている。それこそ「Subliminal」なんて、あの頃のロックの革新的な要素と現代的なテイストが絶妙なバランスで織り交ぜられていると感じるんです。

Jean-Ken:MWAMはロックのいろんな側面を見せるバンドであると思うんですけど、その中でもひときわ目立っている、強みになっているのがデジタルロックと肉感的なロックの融合を体現していることだと思っていて。そのど真ん中にあるのがこの曲だと思いますし、カッコいいだけじゃなくてファニーさもあり、ちょっとウィットに富んだ楽曲に仕上がっている。これも一番は、ギターサウンドの在り方にKamikazeがすごく拘ったんじゃないかなと思います。

ーーそういう楽曲の歌詞で、現代を象徴するようなテーマが描かれています。Jean-Ken Johnnyさんはこの歌詞、このテーマをどのように捉えていますか?

Jean-Ken:昨今、僕らが直面している問題というのは、インターネットというものがあまりにも身近になりすぎてしまって、免疫がない人がネット上でものすごく傷付けられていること。そこから確執が生まれ、なぜかそれが実生活にまで影響を及ぼしてしまっている。インターネット社会というのは本当に時代を象徴する発明だと思いますけど、自分たちの利便性を手に入れるために喜んで罠にひっかかってしまっているわけです。これは思想そのものを変えないと根本的に解決しないんじゃないかなという気がしています。

ーーこの歌詞を読んで僕自身もすごく考えさせられました。また、アルバムのラストを飾る「Anonymous」は10周年を経た今だからこその歌詞かなという気がします。

Jean-Ken:さっきも言ったように、ベストアルバムを経て自分たちはロックミュージックやロックバンドにものすごく憧憬を抱いているバンドだ、そこが一番の強みだというのはあるんですけど、その心情って過去にいくらでも歌ってきた内容でもあり、僕が作詞する上で一番の強みかなと思うんです。青臭い時代の浮き沈み、その焦燥感の中で希望を抱くようなテーマを僕は一番好んで書いていると思うんですけど……これは文字にするのは難しいかもしれませんが、オオカミって中身が見えないじゃないですか。

ーーそれはどういう意味ですか?

Jean-Ken:普通のバンドというのは人間としての表情や所作ひとつで、人物像というものが見え隠れすると思うんですけど、そういった意味ではこのバンドに関しては簡単には見えないということです。でも、だからこそ楽曲そのものにものすごく濃い密度で集約しているし、逆にいうとそこにしか集約しようがない。音楽そのものを聴いて、「このオオカミたちが一体どういう生き物なのか?」と想像を掻き立てられる部分があると思うんです。そこに関して自分自身が表現としてちょっと痛いぐらい、自分のかさぶたを剥がすように青かった頃の思いやその表情が見えてしまうようなものをあまり描いてこなかったなと。どちらかというと物語として他者に置き換えたり、時折ちょっと抽象的な表現をしたりとかして、個人的な歌詞をそこまで書いてこなかった気がするんですけども、今回あえて書くことによって今まで以上に内面というか、自分たちが抱いている思いを赤裸々に書くのもアリなのかなと思いながら、書いた楽曲ではあります。

ーー今までは自分自身を対象として歌うという感じではなかった?

Jean-Ken:僕の場合、楽曲の中の登場人物がひとりじゃないことが多い気がするんです。実際に意識していることですが、テレビを観ているように自分でカメラワークを変えて、ある時はこの主人公にスポットを当てたかと思うと、次の場面では別の人物にフォーカスを当てる。でも、包括的に見たときに映画みたいな作品としてひとつのメッセージを歌っていることが多かった気がします。

ーーなるほど。サウンド的にもそうですが、歌詞においても今まで以上にストレートさを強く感じましたし、それもあってかなり聴きやすい作品に仕上がったと思います。

Jean-Ken:ありがとうございます。2020年以降、僕は何かタガが外れたような気がするんですよね。それが良いか悪いかは何年後かにわかると思うんですが、その聴きやすさというのは本人たちの余計なものがどんどん削ぎ落とされたことも関係しているのかなという気がします。

ーーそんな力作を完成させたばかりですが、来年リリース予定の次作『Break and Cross the Walls II』がどんな内容になるのかも今から楽しみです。

Jean-Ken:いろいろインタビューをやらせていただいて思ったことなんですけど、アルバム2作の間にインタビューを挟むことって今までなかったじゃないですか。1作出してこういうインタビューをしてしまうと、2作目へのハードルがどんどん高くなってしまうので(笑)、頑張らなきゃなと思います。

ーーと同時に、こういうお話をすることで、次作に向けてご自身の中で整理される部分もあるでしょうし。

Jean-Ken:本当にそれは大きいです。作品を完成させた直後に毎回インタビューしていただくと、自分の作品に対する考えが定まりますし、こうやって自分より客観的に見てくださる方とお話しすることは僕にとってはすごくありがたいことです。

ーーアルバムリリースに続いて、11月30日からは約2年ぶりの全国アリーナツアー『MAN WITH A MISSION Presents「Merry-Go-Round Tour 2021」』も控えています。ここにきて勢いが増しているように映りますが、改めてMWAMにとっての2021年はどんな1年でしたか?

Jean-Ken:こればかりは何も言葉を濁さずに言いますけども、決していい年ではなかったですね。自分たちの活動が停滞してしまい、その中でも一生懸命もがきましたし、新しいことも試したりもしましたが、そこに関しては悲観的ではなく、いろんなことを考えるきっかけにもなりました。ただ、それは単なる評価としての1年であり、だからといって両手をあげてバンザイという1年ではなかった。こういったことが起きたおかげで、自分自身の人生観だったり世界に対する視点のみならず、いろんな人たちの思想に対してもすごく考えさせられるきっかけにもなったので、バンドというよりも個人の生き方として転換期になったんじゃないかと思います。

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