青山テルマにある“際どさ”の正体 楽曲プレイリストと共に紐解く

青山テルマ、”際どさ”の正体

「Happy」カバー時から予兆していた“編集センス”の高さ

 もう一点の“際どさ”を体現する、青山テルマの編集センスについても触れたい。彼女はアーティストであり、自身のフリーペーパー「DREAM PAPER」の編集長を務める優れたエディターでもある。(※1)ポップカルチャーやポップミュージックが時代の熱によってカッコいい/ダサいの価値観を目まぐるしく刷新していく中で、ぎりぎりの境目で“ダサい”を“カッコいい”にひっくり返す芸当をやってのけるのが青山テルマなのだ。2014年にファレル・ウィリアムスの「Happy」を得意のテルマ流フロウでカバーし始めた頃からその予兆はあったが、才能が一気に花開いたのは2018年のアルバム『HIGHSCHOOL GAL』である。特にJAY-Zの「Big Pimpin'(feat. UGK)」をモチーフにサウスヒップホップらしいギャグセンスを〈マジYABAI〉というワードに落とし込んでひたすら連呼する「マダバカ」、和風のトラックに乗せて日本語トラップの完成形を打ち立てた「ONIGIRI」といった曲での才気は際立っている。パロディとユーモアを言葉遊びの力と魅力的なフロウでぎりぎり“ダサカッコいい”ラインに仕立てあげる腕前は、エディターならではの編集センスであろう。

青山テルマ – HAPPY

 そして、その手腕が最大限に発揮されたのが「世界の中心~We are the world~」だ。2018年に『HIGHSCHOOL GAL』のリードシングルとしてリリースされた本曲はパラパラビートを使った90年代ギャル文化へのオマージュであり、当時にわかに盛り上がり始めたギャル文化再評価の機運に先鞭をつけた形となった。

I WONT CRY (YAIYAI) HOLD ME TIGHT (TONIGHT) I WONT CRY (YAIYAI)
「ファミレスでFRIES」「失恋TSURAI」 「消えたくてCRY」 「ありえNAI!!」 「このつけま高い?(涙)」 「もったいなくない?」 「すぐ見返したい!」 「とりあえずやるしかNAI!YAI!」〉

 とひたすらに「-ai」の脚韻を繰り返す中毒性に満ちたこの曲は、そのライミングから“I(私)”や“愛”、“~したい”といったワードを彷彿とさせることで、ギャル文化が強調する“全力のLOVEで私をレペゼンしやりたいことをやる”というマインドを音韻面でも補強する優れたアンセムである。ヴェイパーウェイブ以降のコラージュ感覚を反映したMVセンスも含めて、一見ダサい演出がぎりぎり“カッコいい”に転換されるその恐るべき瞬間がパッケージングされている。

Thelma Aoyama - Sekaino Chuushin -We Are The World-

 “際どい線”を狙うアーティストであるため、「Yours Forever feat.Aisho Nakajima」等のテクスチャ重視の歌唱表現についてはリスナーも神経を尖らせてキャッチする必要があり、「世界の中心~We are the world~」等の曲で披露されるカッコいい/ダサいの微妙な境界線は受け手が持つコンテクストと気分によって時には“ダサい”ものへと思いがけず回収されてしまう恐れもあるだろう。しかし、私はそのような挑戦的な青山テルマの表現を熱烈に支持したい。なぜなら、本来消費されるものとしてのポップカルチャーが、ふとした時代の波の中で揉まれながら私たちとの関係性において一瞬の永遠性とも言うべき強い力を獲得する瞬間があり、そういった表現は往々にして彼女のような“際どい”挑戦によって遂行されるからである。

 ゆえに、ポップカルチャーの醍醐味とは“攻め”にある。青山テルマは、攻めている。常にギリギリを狙い、私たちを試している。

※1:https://thelma.jp/dreampaper/

青山テルマの“際どさ”を体感できるプレイリスト

青山テルマ「そばにいるね feat.SoulJa」
青山テルマ「my sweetest sin」
清水翔太「MONEY feat.青山テルマ,SALU」
青山テルマ「PINK TEARS」
青山テルマ「only care about you」
青山テルマ「talk s2 me」
MIYACHI&青山テルマ「CRAZY OUTSIDE」
青山テルマ「キミノトナリ」
青山テルマ「BOi ByE」
青山テルマ「Yours Forever feat.Aisho Nakajima」
青山テルマ「stay with me」
青山テルマ「Happy」
青山テルマ「マダバカ」
青山テルマ「ONIGIRI」
青山テルマ「世界の中心~We are the world~」

青山テルマの“際どさ”を体感できるプレイリスト

 

■リリース情報
<Album>
『Scorpion Moon』
発売日:2021年10月27日(水)
初回限定盤(CD+DVD):税込¥4,730(税抜¥4,300)
通常盤(CD): 税込¥3,740(税抜¥3,400)

CD:
M-1. Yours Forever feat. Aisho Nakajima
M-2. 1LDK
M-3. stay with me
M-4. tonight -interlude-
M-5. too late
M-6. daijyobu ※東海ラジオ『TOKAIRADIO ONE ARTIST 2020!』
M-7. キミノトナリ
M-8. KARMA KATRINA
M-9. F ME -interlude-
M-10. BOi ByE
M-11. No No No
M-12. life goes on
M-13. 生きてるだけでご褒美

DVD:
◎Music Video 
・生きてるだけでご褒美 
・Yours Forever feat. Aisho Nakajima 
・stay with me 
◎Live Video 
・ONIGIRI @ Family Fes 2021.08.26 
・一生仲間 @ Family Fes 2021.08.26

■関連リンク
公式サイト : http://www.thelma.jp
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCxVV25x7Fr2OMEZqiAQixRA 
Instagram : https://www.instagram.com/thelmaaoyama/
スタッフtwitter : @thelma_staff
スタッフFacebook : @ThelmaAoyamaofficial

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