「FACTION」インタビュー
Wienners 玉屋2060%が目指す、前例がないパンクバンドの理想形 『デジモンゴーストゲーム』OP曲制作秘話
出来なかったことを実現した『デジモンゴーストゲーム』OP曲
ーーお題ということでいうと、8月に配信リリースされた「GOD SAVE THE MUSIC」もある意味でテーマがはっきりあって作った曲じゃないですか。これはもともとライブハウス吉祥寺WARP救済のためのコンピレーション『WARP TREE』に収録されていた楽曲ですけど、これを今のタイミングで改めて配信リリースしたのにはどういう背景があったんですか?
玉屋:去年、コロナ禍でメンバーと話す機会が増えたんですけど、その中でこの「GOD SAVE THE MUSIC」ってWiennersを象徴してない? みたいな話になったんですよ。これってWiennersが詰まってるよねって。このコンピは、俺と吉祥寺WARPの元店長の(小牟田)玲央奈さんと<toosmell records>の赤石(悠)くんの3人で作ったんですけど、もうとにかく早く出さないとってことで、完パケまで1週間もないみたいな状況で制作したんです。その中でできることをやろうってなったら、必然的に削ぎ落とされてWiennersを象徴するものになったっていうのが面白いなと思って。やっぱりこうやって限られた中で出てくるものって真理なんだなってすごく思いましたね。こんなときにこういう曲ができちゃうんだみたいな。
ーー確かに、すごくシンプルでストレートなライブハウス賛歌、ロック賛歌ですよね。
玉屋:そうですね。やっぱりWiennersなりのコロナへの訴え方っていうのを考えたときに、シリアスに伝えることもできるし、シリアスに思ってる部分もたくさんあるし、そういう部分をアウトプットすることもできると思うけど、自分の性格上ああいうやり方が合ってたっていうか。ユーモア交じりに、コロナに対して憎しみとか辛さを歌うんじゃなくて、かと言って希望を歌うわけでもなく、「俺たちの居場所って最高だよね」っていうことが伝わればそれだけでいいというか。最高な場所だったらもうみんな守るでしょ、みたいな感じ。それがやっぱりWiennersなのかなって思いますね。
ーー制作のなかで、改めて感じたことはありますか?
玉屋:悪い意味で、ライブハウスがあること、WARPがあることが当たり前だと思っていた。当たり前じゃないよっていうのは自分の中でも常にわかっていたつもりではあるし、それはお客さんの前で歌うこともそうだけど、これだけの人の前で歌うって当たり前じゃないからね、と常に言い聞かせてたつもりではあるけど、やっぱりわかっていなかった部分ってこんなにあったんだなって。
ーーその気づきがすごく大きいんじゃないかと思うのは、アニメのオープニングになった「FACTION」もそうですし、「ブライトライト」がCM曲になったりしているのもそうですけど、Wiennersがより外向きに発信しようとし始めているなというのを感じるんですよね。言っていかなきゃダメだ、大きいところでちゃんと伝えないとダメだっていう意志がいますごくあるんじゃないかって。
玉屋:そうですね。今まで小さいシーンっていうか、ちっちゃい世界しか知らないでやってきたけど、いろんなことを経験させてもらって、世界は広いんだなと思ったら、自分の発信をもっと声をデカくしないと届かないんだなっていうのは実感したし、最近すごく考えます。
ーーさっきの歌の練習というのもそこに通じる気がしますね。変な言い方ですけど、別に練習しなくてもいいやっていう考え方もあるじゃないですか。でもやるんだよっていう。
玉屋:別のシーンでやっていれば歌の練習なんてする必要もなかったと思うんです。こういうバンドがTVに出たら面白いじゃんって始まったバンドだけど、最初は歌が上手くないと出られないとも思っていなかったし。だけど周りを見たら、それじゃ伝わらないんだなっていうのを実感したんで、だったら練習しよう、と。すべては伝えるためにみたいな感じですね。
ーーその意味でも「FACTION」という曲は非常に重要だと思うんです。『デジモンゴーストゲーム』のオープニングテーマですが、これはどういうふうにできていった曲ですか?
玉屋:もともとはエンディングテーマっていう話だったんです。で、エンディング曲を作りつつも、オープニングっぽい曲もちょっと作ってダメもとで狙おうと思って。それでデモを3、4曲作ったんですよ。それを聴いてもらったら、オープニングをやらせてもらえることになったっていう。それでアニメサイドのみなさんと話して、今回のアニメはちょっとホラー要素が入った作品なんで、曲もホラーっぽい感じにしたいと希望をいただいて。これは本当に作家仕事をやっていてよかったなって思うんですけど、この曲って、今まで玉屋2060%として提供していたものをWiennersに置き換えたものなんです。向こう側がこういうのがほしいっていうのに応えつつ、Wiennersのよさも入れて作っていきました。
ーーマイナースケールの曲は初めてなんですよね?
玉屋:完全にマイナースケールってのはなかった。なんか恥ずかしくてやってなかったんですよ。たぶん自分発信ではやらないだろうなと思っていたけど、このタイミングだったらもう思いっきりやっちゃおうみたいな感じで。しかも俺、The Mars Voltaが大好きなんですけど、じつはこの曲の2番Aメロとか、その影響を受けてるんですよ。歌い回しもそうだし、ドラムと弦楽器の絡みとかもKOZO(Dr)くんと相談して、今までやってなかったけどやってみようみたいな感じでやれて。結果的にすごく新しいものになったし、自分たちの挑戦にもなった。あと、自分が影響を受けてきたけどアウトプットできていなかったものもアウトプットできて……すごい長く続いた便秘が終わったような気分なんです(笑)。
ーータイアップっていうお題があったからこそ、逆に今までやれなかったことにトライできた?
玉屋:そうですね。曲調も、これをWienners完全主体で作ったら、全体的にもっとテンション高い曲になっていたと思うんですよ。でも日曜日の朝からフルテンションで来られても……みたいなところもあるので(笑)、Bメロをいつも以上に落としたりとか、音を抜いたりとか。それも今まで自分たちではできなかったというか、俺が怖くてできなかったところなんです。でも結果、音を抜くことによって、次の攻撃がさらに強くなるんだっていう……そういうのも今回与えられたテーマでやってみて自分が新たに手に入れられたものっていう感じなんですよね。メンバーからはいつも音抜けって言われるんですけど、今回本当に思いっきり抜いてみたら、全然成り立つじゃん、みたいな。