YUKI、不思議な世界広がる『Terminal G』ツアー完走 初のシアトリカルなステージで届けた新たなライブの楽しみ方

 YUKIの全国ホールツアー『YUKI concert tour “Terminal G” 2021』が10月9日・10日、東京ガーデンシアターにて終了した。2021年4月28日にリリースしたアルバム『Terminal』を携えて全国12都市を周った本ツアー。YUKIにとっては約2年ぶりのライブである。

 新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた2020年、1999年以来の新作音源をリリースしたChara+YUKIでの公演が中止を余儀なくされるなど、思うように活動できなかった期間もあったYUKI。しかしそんな日々の中だからこそ誕生したのがアルバム『Terminal』、ツアー『Terminal G』だ。ようやく迎えた晴れの舞台の模様をレポートする。

YUKI

 開場中に流れていたラヴェル「ボレロ」の音が次第に大きくなって緞帳が開き、割れんばかりの拍手に迎えられて始まった1曲目は、アルバム『Terminal』同様「My lovely ghost」。イントロが始まると観客は声援の代わりに大きな手拍子で盛り上げる。奥行きを感じさせる四角いステージの奥に、強い青い光に包まれてベッドの中で歌うYUKIの輪郭が映る。1番を終えて華麗に手前に飛び出してくると、ブランケットにくるまっているようなユニークなデザインの衣装で登場した。続く「good girl」ではYUKIのまわりに突如ホーン隊【五十嵐誠(Tb)、中野勇介(Tp)、副田整歩(Sax)】が姿を現しソロプレイ。後ろを向いていたYUKIが振り向きざまに拍手を煽り、まとっていたガウンを脱ぎ捨てるとキュートなパフスリーブのミニワンピース姿に変貌。両手を高く掲げ喜びを体全体で表現しながら歌う。

 ホーンとシンセ、ベースの厚みが冴える「NEW!!!」のイントロとともにまばゆい光が放たれ、さらにステージ両側の“The Gentle Ghost”と名付けれらたバンドメンバー【沖山優司(Ba)、白根賢一(Dr)、伊藤隆博(Key)、真壁陽平(Gt)、大嶋吾郎(Cho)】の全貌が明らかになる。「ハロー、トーキョー!」と叫ぶYUKIに、観客は精一杯手を振り応えた。ステージセットや照明の色彩、衣装などからアメリカのドールハウス、あるいはブラウン管のアニメーションの中で起こっていることを覗いているような不思議な感覚を抱く。YUKIはステージを走り回り、序盤からアクティブなパフォーマンスで盛り上げていく。

YUKI

 「ハロー!こんにちは、YUKIです。今日は来てくれてありがとうございます」。会場は昨年オープンしたばかりの劇場型ホール。高い位置の客席まで全体を見渡しながら初めてのホールで歌う喜びを伝える。いつものように観客と相互コミュニケーションはとれないが、YUKIは一人ひとりに語りかけるように話す。

 アルバム『Terminal』は10枚目のアルバム。YUKIは今年でソロ活動19周年を迎えた。1stアルバム『PRISMIC』の頃は曲が12曲しかなく、ライブの選曲やパフォーマンスで苦労していたと懐かしい記憶を振り返る。今回はアルバムのリリースツアーではあるが、これまでに生み出されたたくさんの曲の中から披露していくので楽しんでほしいーー。

 そんな話をしていると、突然大きな電話のベルが鳴る。YUKIは「そっちの世界にいる誰か」との会話を始めた。どうやら今、このコンサートの様子が見えているらしい。しかし話の途中で電話は切れてしまう。今回の公演は3つのパートに分かれており、合間にYUKIと「そっちの世界にいる誰か」との対話、つまり寸劇が挟まれる構成になっていた。

 気づけば舞台は大きな窓のある部屋のような造りに。斜めの窓の先に広がる部屋の遠近感がトリックアートのようでもあり、視覚的な違和感がパラレルワールドに迷い込んだような心地にさせる。幸せを噛みしめるように歌った「うれしくって抱きあうよ」、まるで自身と対話をするような熱演を見せた「2人のストーリー」、真っ赤なライトに照らされた「ロックンロールスター」や「聞き間違い」でははっきりと情景が浮かぶ歌を聴かせた。

 ステージにあるソファに腰かけたYUKIは、先ほどの電話に対して「大事なことを聞きそびれたし、言いそびれた気がする」とつぶやく。しかし人間にこの忘れる機能がなかったら今自分はこんなふうに歌を歌えていないかもしれない、忘れたくないから言葉を書き溜めているのだ、とも。自身が歌詞を書き始めたきっかけを振り返りながら、その作業は頭の中の整理にもなり、自らにとってセラピーにも近いのだと語る。

 大変なことが起こる日々の中で楽しいことを自らつかみにいってできたのがアルバム『Terminal』だった。コロナ禍にできた時間、自由になると歌を歌いたくなった。寝食を忘れるほどのめり込んで完成したのが『Terminal』だったーー。

 モノローグのように語っていくと、真剣な表情で「詞を書くときに思うのはたった一つ、あなたのことです」と告げて「Baby, it’s you」を歌い出す。大きな愛で包み込むような歌声が響く。2021年に世に放たれたこの曲には、希望を見出すことが難しい時代にYUKIが言いたかったこと、希望の光が詰め込まれていたことが改めて伝わってきた。

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