現役ボイストレーナーが語る、“ボイトレ需要”の変化 プロから見た歌のうまさの条件とは?

歌がうまいと言える条件と、人を惹きつけるボーカルとの違い

ーー続いて“歌”を取り巻く現在についてお聞きします。昨今、オーディション番組などで“歌のうまさ”がフォーカスされる機会が増えているように感じるのですが。

Minnie P.:歴史的に見ても日本にはカラオケの流行もあって、歌うことが好きな人は多いと思いますが、最近は以前より“歌がうまくなりたい”という人が増えている気がします。私の生徒の皆さんも、うまくなりたいという欲がある気がするので、良い傾向だなと。私は個人的にカラオケの点数が良いことだけが歌がうまいことだとは思わないんですが、ある程度の指標にする分には目標になって良いですし、高い点数を取れる方は自信に繋がると思います。

ーー採点マシンによるカラオケの点数と、歌のうまさとは、必ずしも“イコール”ではない?

Minnie P.:そうですね。例えば、アーティストが自分の曲を歌っても85点くらいしかとれない、といったこともありますし、100点を目指すことが正解というわけでは決してないと思うんですよ。なので、点数を盲信する必要はないです。

ーーMinnie P.さんが考える“歌がうまい”と言える条件や、人を惹きつけるボーカルはどのようなものでしょうか?

Minnie P.

Minnie P.:まず、歌がうまいといえる条件というのは、「声がしっかり出ている」、「音程とリズム感が良い」、「曲の盛り上げ方がうまい」、「歌や音楽に対する情熱と愛情、繊細さがある」といったことだと思うんですけど、人を惹きつけるボーカルというのは、また少し違うのかな、と。人生経験からくる感性や、人の気持ちを理解する感受性を持っているかどうかが、とても重要だと思うんですよね。その部分によって人を感動させる歌を歌うことができたり、歌詞を書くことができたり、曲を作ることができたりすると思います。そこにはプロか、アマチュアかは関係ないんです。

ーー人間性が重要、と。

Minnie P.:そうですね。すごく大事だと思います。特に今の世の中は、才能一辺倒でいく感じよりも、人間性が豊かで協調性があるアーティストが増えてきている気がするんですよ。一般の方から見ても共感しやすいというか。アーティスト像が時代と共に変化してきているように感じます。

ーー具体的にはどういった変化があるのでしょうか?

Minnie P.:最近は、90年代に多く見られたような笑いながら歌うスタイルが、チャートなどを見ると少ないですね。どこかクールさがあるんです。でも笑わないで歌うということは、実はものすごく難しいんです。サビで笑おうとすると表現の幅が出るんですけど、そういったわかりやすい切り替えがないと、表現が高度になってくる。同時に歌詞も深くなってきていて、最近は文学的な歌詞も多いですね。オリジナルなワードを作ったりとか、心理学的な内容や哲学的な要素を取り入れたり……それをファンが分析するという流れもありますし、より“考える”時代なんでしょうね。

ーー実際に、魅力ある歌い方を教えるうえで重視していることは?

Minnie P.:歌の中で変化をつけることです。音色のパレットを増やすというか。例えば、一瞬綺麗ではない声だったとしても、その響きがあることによって変化がついたり、アクセントがついたりして、すごく素敵な音色になることもあるんです。ただ単によく響く声だけを作るわけではなくて、いろいろな音色を作るように、発声練習をしていますね。

ーー最後に、Minnie P.さんがボイトレを通して世の中に伝えたいことを聞かせてください。

Minnie P.:ボイトレは自分の持っている潜在能力をベストまで引き出す作業だと思っています。例えば、自分の音域はこれしかないとか、音痴だとか、リズム感がないと思っている方が多いんですけど、きちんと練習したらみんなできるようになるんです。そうやって自分の能力をちゃんと見ていないまま、劣等感を持ってほしくないなと思うんですね。やってみればできることってすごくたくさんあるので、自分の弱い面も最大限に活用して、自信を持って楽しい人生を送っていただきたいというのが私の裏テーマです。

 ボイトレ自体は、歌の能力を上げるトレーニングではありますが、例えば美しくなりたくてボイトレにいらっしゃる方もいますし、運が良くなるという噂を聞いていらっしゃった方もいます。最終的に、自信を持つことのお手伝いができれば嬉しい、という思いです。

Minnie P. 公式サイト

関連記事